第52話 六天竜と神獣の主

 突如訪問した茶竜は俺を見て開口一番


「もしや精霊が出てきたか?」


 と聞かれたので


「従えし者とか私達と同じとか言われたぞ?ああ、待ってるとも言ってたな」


 ありのままを伝えた

 茶竜は目を瞑り、一言「そうか・・」とだけ呟く

 少しの静寂の後、茶竜は脈絡も無く種族名は地竜族と告げ、今までの話を聞きたいと言ってきたので聞かせた

 地竜が種族名を先に告げた事に白竜は驚いていた

 何故驚くのかわからないので地竜に訊ねると、種族名を明かすのは何かしら認めた証で、その後の話で色々と決まるそうだ

 白竜は種族名を明かしてはいないので興味だけでいるっぽいな

 地竜の長はそれだけ言うと話の続きを急かした


 地竜が一番喰いついた話は風牙の事だ

 その話を聞いた後、地竜の長は涙を流す

 周りがざわつくも、地竜は「静まれ」とだけ述べて語りだす


 地竜の長は7天竜の中で一番長く生きており齢1千歳を超えるそうだ

 竜族の中でも一番長命な竜族であり知識も豊富である

 2番目に長命な竜族は意外にも白竜であったが、白竜族は200年ほど前に代替わりしているので、今ここにいる白竜は地竜ほど長くは生きていない

 一番短命なのは雷竜族で子を一番成すのも雷竜族だ

 それでも全ての竜族は1千年は普通に生きるとらしく一つ勉強になった


 地竜は長をしてはいるが実権は既に他の物へと移っており、半分は隠居の身であったが未だその力は衰えておらず、影の長的な立場にいた

 更に地竜は俺がここに来た理由も言い当てた

 それを聞いた代表は・・・・・睨んでいた

 俺が来た理由

 それは魔力の回復に関する事


 地竜は大樹に3百年に一度出来る果実が目的の物と答えた

 だがこの果実は決して食べてはいけないものであった

 果実は成熟すると淡い光を放つ

 果実が熟成して落ちる前に、選ばれた妖精族が神事として収穫し奉納する

 果実は神の食す物とされ、奉納後は保管される

 一度収穫すればそこで時が止まったかのように腐ることなく残っている

 現在は精霊の間に大切に保管されているそうだ


 何故精霊の間?と首を傾げると精霊は神の分身であり、精霊もまたその実を食すとされているとの事

 だが一度も食べた形跡はなくいつか食されると信じて保管されているそうだ


 話が終り少しだけ静寂が流れ、地竜は頭を下げ始めた

 そして、紡がれる言葉


「我ら地竜族と我、地竜は貴方様を主にと申し上げます。我、個人としては王としたき所存ですが一族の総意が要ります故、ご容赦ください。我、個人の忠誠は主である貴方様に捧げる所存。どうか我をお導き下さい」


 この言葉に目を丸くしたのは言わずもがな代表殿である

 妖精族が見ている中、高らかに忠誠を宣言したのだ

 更に個人の忠誠も宣誓したのを見てもいる

 これには地に座り、首を下げていた白竜も驚きの余り起き上がった

 白竜は地竜に対し怒鳴ったような声を上げ、地竜は穏やかに返す


「お主本気か!?この少年の力は確かに本物だが、そこまでなのか!?」


「白竜よ。我は神龍様にお会いしたことがある。その時に聞いたのだが、我らは真の主を迎えた時、個の竜になると言う。だがそれには、心技体全てが揃った竜とその竜すら歯牙にかけない主と真なる忠誠がいる。風竜を見よ。正に我が語りし話を体現しておるでは無いか」


「しかし!この少年にそこまでの!?」


「白竜よ。精霊が人の前に姿を現したのだ。この意味がお主にならわかるだろう。白竜に伝わりし伝承が」


「地竜よ、まさか!?」


「恐らく。もしそうなら、我らはその先へ行けよう。我らが王と共にな」


「ふ、ふふふ、あはははは!そうか!それならばこの身!この命!私の全て!全て愛しき人の物だわ!ああ!素晴らしいわ!!だから私は、試すわ!」


「被害が出ぬ様にするなら好きにすれば良いだろ。但し!我は主につくからな!」


「心配しなくても良いわ。本物なら被害も出ないし、貴方が参加しなくても終わるわ。そもそも被害が出る様なものでもないし。せいぜい彼が死ぬ程度よ」


「その時は我は敵に回るからな。それを覚えておけ」


「わかったわ。グラフィエル・フィン・クロノアスよ!我、白竜の試練を受けるか否か!決めるが良い!!」


 高らかに宣言する白竜に対し一つ質問をする


「どんな試練なんだ?俺も被害が出るのは避けたいんだが」


「簡単な試練よ。私の魔力を体内に内包して平然としていられるか?それだけの話。ただ、失敗したら死ぬわ」


「なら問題無いな。死ぬつもりなんざ無いから」


 俺は白竜の試練を了承し、白竜の魔力を体内へと留める

 刹那、理解した

 ああ、それでこの試練なのかと

 光が収まり白竜が声を掛ける


「して、どうだった?」


「この試練の意味は理解したよ。確かにこれは必要だわ」


 お互いその言葉だけで理解しあった

 白竜は身悶え、震え、歓喜する

 新しき主へと愛を込めて

 白竜は立ち上がり地竜に目を合わせ共に臣下の礼を行う


「我、白竜こと光竜は貴方様に忠誠を。我、光竜の長は貴方様に忠誠を。我の忠誠と愛は貴方様へ。どうか我ら一族に繁栄を。我ら一族の忠誠と愛を貴方様に。我ら光竜族は貴方様と永遠とわに」


 白竜、否、光竜の宣誓に驚くは妖精族だけではなかった

 炎竜、水龍、双雷も驚いていた

 光竜は竜族の中でとある役割を担っており、決して主を認める事は無い一族と他竜族の間でも有名な話であった

 試練を受け終えて、合格してからの変貌に驚くなと言う方が無理である

 因みに、先程の試練についてだが、実のところ内容は竜の歴史と国の記憶である


 光竜族の長はこの記憶を体内魔力へ変換して焼き付け、代々受け継いでる

 これが受け継げないと長にはなれないのだ

 しかも、この記憶の魔力は膨大で、光竜族であっても器が足りなければ死んでしまう程の代物である

 ましてや人がこの魔力量を受け止めれるはずもない

 受け止められるとしたら伝承に残る竜の王にして竜の帝と呼ばれる者

 その記憶と記録は意図的に消されているが、悪意の類ではなく次代の、者に違和感なく付き従い共に在れるようにとの願いからである

 故に試練を乗り超えた俺は、光竜に認められたのだ


 その光景を見ていた者達は唖然とし、畏怖・興味・崇拝と様々な者が現れる

 風牙に至っては誇らしげであり、光竜に対し


「だから言ったであろうが。我らは主の元に集うと」


 と、呆れた声を出して光竜を見下すが


「そうね。貴方の言う通りだったわね。素直に謝るわ」


 と謝罪したのであった


 風牙も予想外の反応だったらしく、ちょっと慌てていたので面白かった

 風牙の慌てっぷりに俺と竜達は大笑いした

 その他諸々を放置して


 そこに突如、魔方陣が展開され、召喚陣が出来上がり、神獣4体が出てくる

 突如出てきた神獣に驚きの声が上がる

 しかし、驚きの理由は突如出てきたからではなかった

 4神獣の内の1神獣を目視した為だ


 前にも話したが4国には特別な称号がある

 それと同時に4国は、とある獣を神の使いとして崇められている

 竜王国は竜を、傭兵国は狼を、神聖国は鳥を、そして神樹国は狐を

 神樹国に伝わりし九尾の狐が目の前にいるのである

 狐の名はタマモと言い、神狐である

 名付けの時に、もうこれ以外に無いと思ってしまったのだから仕方ない


 尚、鳥の方はフェニクと名付けており、こちらは神鳥である

 名前の由来は不死鳥の名をはしょったのだが、失敗したとちょっと思っている

 不死鳥要素が一つも無いし、普通に死んで蘇らないからだ

 ただ本人?(本鳥?)は名前を気に入ってるようだが


 4神獣が出てきて、召喚陣が消えると共にちょっとふらついた

 普通の召喚なら大したことは無いし、普通の状態なら神獣召喚でも問題無いが、俺の魔力は現時点で未だに回復が遅いままである

 召喚は召喚される側の強さで決まる

 4神獣はまだ子供なので、そこまで大きな消費は無い

 しかし、普通の召喚と比べたら50倍位消費量が違うのである

 現在の魔力は22万程であったのだが、一気に20万近く持っていかれたのだ

 今の状態でルリとハクの大人モードが来たら魔力枯渇でお陀仏である

 流石にわかっているらしく念話で「「しないから!」」と突っ込んできた


 更に今回は怒るに怒れない

 1時間前ではあるが、万が一には出て行くと連絡されていたのだ

 ふらつく身体を何とか両膝に手を置き耐える事数分・・・・何とか持ち直した

 こちらも余裕が無く、今気付いたのだが、代表が白目をむいてた

 度重なる理解不能の事態が続き、遂に脳が処理限界を超えたようだ

 とりあえず竜達には地竜の住処で待っていてくれと指示を出し、妖精族の何人かに代表を運ぶ様に指示し、俺は4神獣を連れて会談場に戻り状況を説明しに行く

 精霊の事は既に頭の片隅へと行っていた


 状況説明をしに会談場へ戻ると、そこには誰もいなかった

 何処に行ったか聞くと、長くなりそうだと全員が感じ、食堂でティータイム中に移ったと言われる

 ・・・・・・何か寂しい


 案内してもらって食堂に行くと、談笑している皆がいて思わずジト目で睨んでしまう

 そんな俺に構うことなく4神獣は各々が懐いている婚約者達の所に向かっていく

 ルリはラナの元へ

 ハクはティアの元へ

 フェニクはミリアの元へ

 タマモはリリィの元へ

 そして、それぞれお菓子をおねだりする


 はぁ~、と深いため息をつき俺もお茶会の輪に入る

 席に座ると目の前に光が集まり・・・・精霊さん参上

 俺に休息と言う二文字は無いのか!?

 精霊は不満たらたらのご様子で


「何で来ないの!?待ってるんだよ!」


 と、目に涙を浮かばせて詰め寄ってくるので「ごめん、ごめん」と謝りつつ、目の前のお菓子を差し出す

 精霊はお菓子を手に取ったまま首を傾げるので、口に運んで食べて見せる

 精霊も真似て食べると余程美味しかったのかお替わりを要求されたので


「目の前にあるのなら好きに食べて良いよ」


 と告げると


「持って帰っても良い?」


 と聞き返されたので良いよと答える

 精霊は喜び、俺の周りをダンスでも踊るかのようにくるくると回る

 妖精族の案内と護衛は茫然自失で、他の皆は飽きれ半分驚き半分で、婚約者達は温かい目で見ている

 その後、代表が目覚めるまでの間、俺達はお茶会を楽しんだ

 1時間後、代表が目を覚ましたとの事で30分後に会談の再開を伝えられる

 ただ、それを伝えるのに数分の時間が必要だったことを言っておく


 案内に連れられて一同は再び会談場へと入る

 全員が席に座り、代表を待つ

 15分ほどして代表がドアを開け入ろうとして・・・・固まった

 俺の肩にいる精霊が真っ先に代表の目に飛び込んできた為である

 尚、この精霊は嵐の精霊だそうで、さっきのお茶会で聞いといた

 詳しい話は別の精霊がするらしく、嵐の精霊は自己紹介なら問題ないからと言って、自己紹介を皆にしてくれた


 聞けたのはここまでなので後は全くわからないのだが、今はそれどころじゃなかった

 代表が固まり、数分経つが未だに回復しないので「もう、今日無理じゃね?」って言葉が思わず出てしまい、その言葉が代表を呼び戻した

 ただ、このままでは埒が明かないので、嵐の精霊に代表が説明を頼んだのだが


「私はし~らないっと!ただのおつかいだも~ん」


 これが答えであったので結局進まない

 本当に知らないのか?答えられないのか?

 俺が「どうしても無理かな?」と聞くと「仕方ないなぁ」と返して説明を始める

 代表は悲しげな顔をしていた

 眼には涙が浮かんでいた


 話を聞くと本当にほとんど知らないようで、俺が来たら案内する事と他の精霊が話すことがある位だった

 これを聞いて代表に2つ確認をする

 数日の滞在は可能なのかと精霊との話が終わってから再会談で構わないかだ

 代表の方も話が進まないし、整理する時間も欲しかった様でこちらの申し出を受諾

 精霊との話し合いが終わるまでは会談を中断する事とした


 ただ、神聖国の者は滞在期間中あまり出歩かないで欲しいとの事

 信仰上相容れない状態のままなので安全を確実には保証しかねると言われた

 なので、ミリアは神聖国側だが俺の婚約者でもあると伝え、何かあった場合には神樹国は俺が潰すと言っておいた

 代表は俺の殺気に対して冷汗を浮かべつつ、徹底すると約束した

 ミリアについては神聖国の客人ではなく俺の婚約者であると全力で周知させた様だ


 話は纏まり、会談は一度中断される

 嵐の精霊は「やっとだよ~・・」と待ちくたびれた様子だった

 俺は代表に連れられて精霊の間へと案内される

 嵐の妖精は「待ってるね~」と言ってさっさと帰ってしまった

 代表は腑に落ちないではいたが精霊に誘われたことは変えがたい事実であり、掟に従って他国の者を神聖なる不可侵の間へと案内せざるを得なかった

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