第5話 転生に向けて


 親孝行の内容も決まったので、次は俺個人らしいのだが、ぶっちゃけこれと言って無いんだよなぁ。


 そんなことを知らずに口に出していた俺は、とりあえず神様達で考えた報酬をひとまず渡すらしい。

 モザイク案件の分も別で何かするらしく、転生後でも何か思いついたら遠慮なく頼みに来れば良い――との事だった。


「そんな気楽で良いんですか?」


「神なぞ暇じゃからのぅ。暫くは、蒼夜君の事でも見て楽しむ予定じゃよ」


 人を娯楽扱いしないで欲しい。

 そんな事を思いながら、転生に向けて神様達は俺が行く世界の様子を見始めたのだが……。

 皆さんお顔が険しくないですかね?俺、見れないので言って貰わないとわからないんですけど……。

 思い終わると同時に、ジェネス様とエステス様が話しかけてきた。


「蒼夜君。少々悪い知らせじゃ」


「こちらも……。それほどではないですが、悪い知らせですわね」


「二人ともかい? 感じ的に重くなさそうなのはエステスみたいだし、そちらから聞いたらどうかな――蒼夜君?」


 メナト様から提案されたので、迷わずエステス様からの知らせを聞くことにする。


「蒼夜君の転生先に選んでいた家が先程、早産してしまったのですわ。なので、第2候補の家になるのですが、出産予定が大分先なのですよ。第1候補は凄く良い家でしたのに残念ですわ……。第2候補の家も良い家ですが、爵位?と言うものが違うみたいですの」


 ちょっと気になったので、第1候補と第2候補の爵位を聞いてみたら、王族と辺境伯だった。

 王族とか堅苦しいので、第2候補の方が凄く良いじゃないですか!と言うと、エステス様は「蒼夜君は変わっていますのね」と言われてしまった。

 そんな中、もう一つの悪い知らせを聞くため、ジェネス様に説明して貰った。


「悪い知らせと言うのはな……。神喰いの余波じゃ」


 そう言うジェネス様の表情は優れなかった。


 もしかして俺、何か失敗したのか?

 冷汗がだらだら流れ出るような、もの凄く居づらい雰囲気を出していると、他の神様達も世界を見た瞬間「これは予測不可能だろ」とか「蒼夜のせいではない」等言っているが、わからない俺としては針の筵です。

 そんな中、ジーマ様が説明をしてくれた。


「蒼夜君。貴方は本当に悪い事はしてないから。それをわかった上で聞きなさい」


 ジーマ様は諭すように言ってから、説明を続ける。


「本来、神喰いから出た力は、封印されていた世界を潤すだけに留まるはずだった。ただ、世界がその力の総量に耐えられなかったの。結果、魔物の増加・強力な魔物の出現・魔素の異常に濃い場所・新たなダンジョン等が出来てしまったのよ。でも、それ自体はそこまで深刻ではないの」


 では何が問題なのだろうか?俺の疑問が出た直後、ジーマ様は一息置いて話を続けた。

 そしてそれは、どう考えても後始末に他ならなかった……。


「問題は神喰いの残滓、悪意の一部や力が世界に溶けてしまった事なの。魔物の中で10年~15年後位には、神喰いの力を持った何かが生まれるわ。悪意など基本は持たないし、もしかすると共存できる可能性もある。問題は悪意があった場合。こちらは世界の生物全てがが対象ね……。唯一の救いは悪意と力の共存が、基本出来ない所かしら。見た感じではあるのだけれどね。とは言っても、神喰いみたいに神に対してとかではなく、人の欲望に共鳴して色々悪さをするのだけど。まぁ、どちらも世界が滅びるとかの問題ではないと思うのだけれど、神側からは大問題なの」


 どう大問題かはわからないが、何となく『後始末はしなければダメ』と言う事は理解した。


「蒼夜君。申し訳ないのじゃが……」


 やはりか……ジェネス様が本当に申し訳なさそうに言ってきたが、俺はもう最後まで付き合うと決めた。

 それを伝えるとエステス様がとんでもない事を言い出す。


「いくら加護があっても、このままでは危険ですわ。丁度、転生迄の時間もありますし、蒼夜君を鍛えましょうではありませんか」


 え?ここにきてまさかの修行?「訓練ですわー」と言い直すエステス様だが、俺一人でやるわけないよなー……。

 神様達、良い笑顔だもの。

 そして、訓練とは名ばかりな地獄の修練が始まった。





『拝啓 父さん 母さん。

 早いもので地上世界では半年が過ぎました。

 俺の転生迄、地上時間で後2か月ほどです。

 地上世界では半年しか経っていませんが、神界では15年経ちました。

 お陰様で魔法は、神話級迄習得しました。

 地上で使う事はきっとないでしょう。

 武術・体術に至っては、神クラスしか相手にならないそうです。

 回復系は蘇生魔法も使えますが、地上ではなるべく使わないように言われました。

 まぁ、完全に死んでからは禁止なので、仮死状態か死後数分なら構わないそうですが――。

 とにかく、武闘派が多すぎます。

 破壊神トラーシャ様なんて、何度存在が消えかけた事でしょうか……。

 ですが、今日も元気にボロ雑巾にされて生き抜いております。

 父さんも母さんも心配しないでください。

 また便りを書きます。                    

                     蒼夜』






 はっ!いかん……夢の中で両親に手紙書く夢とか。

 ん?夢って……あー、トラーシャ様にまた消されかけたのか。

 まぁ、夢の中で書いた手紙と、現実が全く矛盾してないのが怖いが……。

 それよりも、今日からは自分の武器とか作るって話だったな。

 問題は誰が教えるのか……。

 教える神によって当たり外れがデカすぎるんだよなぁ。

 と思ってると神が早速やってき――た


「ええええええ!!」


 驚くのも無理は無いと思う。

 教えに来た神の筆頭がジェネス様なのだから。

 他にも、メナト様、セブリー様、ジーラ様、ジーマ様、シル様、シーエン様、トラーシャ様、リュラ様、アシス様、エステス様と、ほぼ勢ぞろいとか……。

 神って暇なんだなぁ――なんて思っていると、顔に出ていたのか、メナス様から予想外の事を言われた。


「蒼夜君? 神って暇と思ってるようだが、今回は皆、役割があるから来てるんだよ。当然、レーネスも後で合流するしさ。彼女には、今回絶対に欠かせない神を呼びに言って貰ってるのさ」


 あー……呼びに行った神、何となくわかったわー。


「鍛冶神ですか?」


「も、が正解だね。他は鉱石神と素材神だね」


 鉱石神と素材神って何が違うんだ?

 どうみても素材神の方が上位互換の神に思えるんだが?

 と思うと、やはり顔に出てるのだろうか?最近は考えを読まれ難くなったのに、何故かバレるのだ。


「鉱石神は、武具を作るには欠かせないんだよ。素材神は全ての素材に精通していて、全てを幅広くだからね。逆に鉱石神は、鉱石と言う1部分に特化した神だが、素材神よりも更に詳しく、鍛冶神と並んで武具の良し悪しまでわかるんだよ。だからこの3柱はセットなわけ。だから名前がないんだよ」


 名前は?と聞く前に伝えられてしまった。

 では、ジェネス様が来た理由は何だろう?


「わしが来た理由は、これを蒼夜君に正式に譲渡する為じゃよ」


 そう言って出したのは、神刀ゼロだった。

 いや、これって、気軽に譲渡したらダメなやつなんじゃ?

 そこでふと気付いた。

 ジェネス様が持つゼロに違和感があると――。


「蒼夜君も気づいたかの。この違和感に……。これが譲渡する理由じゃ」


 違和感があるから譲渡するのは、違うのではないだろうか?

 そう思っていると、ジェネス様がゼロを渡してきたので、一応受け取る。

 すると、先程までの違和感が嘘の様になくなっていた。


「やはり、蒼夜君を所有者として認めたのじゃな……」


「どういう事ですか?」


「そのゼロは神刀でありながら、どの神も所有者として認められなかったのじゃ。原初様の創りし神刀とはいえ、それは異常じゃの……。元々、その神刀の主は人でないといけなかったのでは? と、わしは思っておる」


 そう言うと、ジェネス様は手を掲げ、光を俺に放つ。

 俺の身体が淡い光に包まれ、数秒ほど経つと身体に吸い込まれて消えていった。


「これでゼロは、わしら神々に所有権は無くなったのじゃ。現在の所有権は蒼夜君と原初様のみとなったわけじゃが、どう使うかは蒼夜君が決めれば良い」


 どんどん人から離れて行ってるのは気のせいだと思いたい。

 そんな中、武具作りが始まる――のだが、自分で鋳造したりはしなかった。

 では何をしたのか?それは鍛冶神を含む、全神様が揃うまでの間に、武具のイメージを思い浮かべる事だった。

 それが終わるころに、レーネス様が他の3神と共に現れる。

 軽く自己紹介された後、鉱石神様が鉱石を大量に並べ始めた。

 並べられた鉱石はヒヒイロカネ・オリハルコン・ミスリル・アダマンタイト。

 それに神気を込めるのだが、神気を込める際、先にイメージしたおいた武具の内容も一緒に流し込む。

 柄や鞘に持ち手等は、素材神様厳選の神級品で統一されることになっている。

 こちらは刀身が出来てから融合させるらしいので、同じように神気とイメージを流し込む。


 他の神様ーズは何しに来たんだ?と思っていたが、普通は神が本気で武具を作る時には相当の時間と神気を必要とする――どれくらいか聞いたら最低でも100年――らしい。

 今回は、出来れば転生するまでの間に作り上げたいらしく、12神全員が俺に神気を送り、俺がそれらを全て束ねて流す作業を行うのだが……制御できるわけがねぇ!

 そもそもジェネス様の話では『蒼夜君の魂が耐えきれずに破裂するのぅ』と、始める前に言っていたので、制御はジェネス様が代わりにやってくれた。


 具体的にどうしたのか?と言うと、手に神気を集めボール状にする。

 次に12神の神気を1神ずつ流す。

 かなり膨大な量だが、ジェネス様が俺の負担にならないように制御し、ボール状の神気に混ぜてゆく。

 それを繰り返し、12神と俺の神気を混ぜていく。

 混ぜる際の制御もジェネス様にお任せです。

 難儀したのはトラーシャ様だ。

 流石は破壊神と言うべきだろう……。

 こっちの都合もお構いなしに、流すと言うよりも叩き込む感じなので、ジェネス様も少し苦労したみたいだった。


 それなりの時間をかけて神気を混ぜ合わせ、出来たものを材料に流し込む。

 流し込むのも、ゆっくりと時間をかけて素材に馴染ませていく。

 この作業が地味につらかった……。

 動けないし、常に集中してイメージするのだ。

 地上時間で1か月ほど流し込んで、ようやく終わった。

 その後は、鍛冶神様が俺の流し込んだイメージになる様に神気を送り込み、鉱石が神様秘伝の割合で融合され、地上では作れない材質になる。

 鍛冶神様が神気を流し続け、刀身がイメージ通り、勝手に形成されて、最後に刀身と他の素材が融合して完成らしいが、出来上がるまでに時間が掛かるそうだ。


 後は防具の作成も行ったが――やることが途中まで武器と同じなので、割愛させてもらおう。

 出来上がった防具はコート・靴・上下服・指輪・胸当てなどの防具。

 色は黒がベースに、他の色が所々入っていたり、刺繍されていたりする。

 コートは外気に合わせた冷暖房完備みたいな仕上がりだ。

 ついでに各種耐性付きでもある。

 防具は成長に合わせた自動調節付きに、指輪は精神攻撃無効と時空間部屋が付いている。

 武器はまだ制作中で、防具より武器の方が作るのに時間が掛かるらしい。


 そして時間は過ぎていき、転生迄の時間は地上時間で残り5日となった……。

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