第54話 バレンタイン
「ガトーショコラとフォンダンショコラ、どっちが良いかな?」
「どっちも好きにゃ」
「俺も美哉の手作りなら皿まで食える」
正宗と文治郎が最高の笑顔で答える。
2人とも頬を染めて顔が崩れて可愛い。
バレンタインに贈るケーキについて相談したが、この2人の答えは美哉を溺愛し過ぎて参考にならない。
*******
「それで結局、何を作るの?」
「バレンタインの日の晩ご飯にフォンダンショコラをデザートに出すつもり。ガトーショコラも食べたいから別な日に作るかも」
「なんだかもう結婚してお父さんと二世帯同居してるみたいだよね」
「えへへ、そうかな〜」
「おい! 太一、しっかりしろ!」
美哉と由香の会話を聞いた太一が心臓を押さえながら崩れ落ちる。
太一は小学校の頃から美哉に思いを寄せており、いまだに引きずっている哀れな男だ。
崩れ落ちた太一を支える鉄平は、太一が同じバスケ部の由香といい感じに進展すればいいのにと勝手に妄想している。子供のころは、やんちゃだったかもしれないが、現在の太一はいい奴だ。
*******
13日の夜、夕飯を終えた美哉がキッチンで何かを作り始めた。
「美哉ちゃん、何しているにゃ?」
「チョコレートサラミを作るの。簡単だし。明日学校に持っていくつもり。パパの分もあるから、おやつに食べてね」
「嬉しいにゃ、美哉ちゃんは良い子だにゃあ」
ジップロックに入れたマシュマロとローストしたナッツとビスケットを砕く。適当でオッケーだ。…マシュマロは砕けなかったので取り出してカットした。
適当に割った板チョコと生クリームを電子レンジで溶かす。完全に溶けていない状態でオッケーだ。レンジから出してグルグルすれば良い感じになる。
ビスケットやナッツの入ったジップロックに溶かしたチョコを入れて底に集めて放置。
小さくカットしたオーブンペーパーに、まだ柔らかいチョコを乗せて巻く。サラミっぽくなるように巻く。何人かに渡すつもりなので小さめに作っているが、大きく作った方がサラミっぽい。
綺麗に巻けたので冷蔵庫に入れて冷やす。小さく作ったので1時間くらいで固まった。
いったんペーパーから外して粉糖をまぶすとサラミっぽい。
ラッピングして出来上がりだ。
「美哉ちゃんは上手だにゃ」
ずっと機嫌良く美哉の作業を見守っていた正宗が嬉しそうだ。
「簡単で美味しいよね」
「お店で売ってるみたいにゃ。ピスタチオの緑とマシュマロに白がキレイにゃ」
「えへへ、ありがとう。バレンタインは明日だから明日の朝にプレゼントするね。明日の夜のデザートはフォンダンショコラだよ」
「楽しみにゃ。早く明日の朝になるといいにゃ」
翌朝、美哉からチョコレートサラミを受け取ってデレデレの正宗。
「嬉しいにゃ、今日はいい日だにゃ」
「えへへ、喜んでくれて嬉しいよ。行ってきます」
「いってらっしゃい、気をつけてにゃ!」
デレ顔の正宗が玄関でブンブン手を振る。
── さっそくブログで自慢するにゃ。
今からでも間に合う簡単レシピのチョコレートサラミは、美哉が小さな頃に一緒に作った思い出のスイーツだ。
当時アップした作り方全工程の写真付きの記事のリンクを貼ったら何人かから『今から作る』というコメントが寄せられた。
「おはよう文ちゃん!」
「おはよう美哉」
「はい、お弁当とバレンタイン!」
「サンキュー! やっぱ嬉しいな」
「これはチョコレートサラミ、夜はフォンダンショコラだよ」
「おじさんにもプレゼントしたのか?」
「うん、喜んでくれたよ」
「今ごろブログで自慢していそうだな」
── 正解である。
「懐かしいにゃ」
チョコレートサラミは、小さな美哉と一緒に作った思い出のスイーツだ。
ブログの更新を終え、頬杖をついて楽しそうにチョコレートサラミを眺める正宗。
美哉が小さな頃、バレンタイン向けのテレビ番組を観た美哉が、チョコのケーキを作りたいと言い出したため、美哉が幼稚園に行っている間に張りきってオペラを作ったら美哉に泣かれた。
「み、美哉ちゃん!! いったいどうしたにゃ!? 美哉ちゃんが食べたがっていたチョコのケーキにゃ!」
「う、うえっ。ひっく…買ってきたケーキじゃなくてパパといっしょに作りたかった…ひっく…。えぐえぐ」
慌てて美哉を抱き上げるとギュッとしがみついてきた。
── 萌え死ぬかと思うほど可愛いにゃ!
綺麗に並べられたオペラは買って来たのではなく正宗の手作りだが完成度が高すぎた。
キレイにカットされフィルムを巻いて上に金箔をあしらった正宗の自信作は、言われてみればご家庭の手作りに見えない。
オペラはコーヒー風味の薄い生地の間にコーヒークリームとチョコレートを交互に薄く挟んで重ねた、ものすごく手間と時間のかかるお菓子作り上級者向けのケーキだ。
幼い美哉のためにコーヒーをココアに置き換えて作り、作り方はブログで紹介済みだ。
必死で美哉を宥め、一緒に作れるレシピを探した。ナイフもオーブンも使わないレシピだ。
「美哉ちゃん、パパも美哉ちゃんと一緒がいいにゃ。明日、このチョコレートサラミを一緒に作るにゃ。幼稚園のお迎えの後で一緒に材料を買うにゃ」
「ありがとう、パパだいすき」
美哉がギュッと抱きついてスリスリしてくる。
── 可愛いくて心臓が止まりそうにゃ。
「パパも美哉ちゃんのことが大好きにゃあ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます