第24話 ママの命日
今年も露子の命日がやってきた。
「もう12年にゃ。…露子ちゃんが居なくなったら、とても生きていけにゃいと思っていたけど、美哉ちゃんが居てくれるから毎日、幸せにゃあ」
チーン!
今日も仏壇に新しい花をいけて、露子の好物だった焼きタラコのおむすびとお味噌汁をお供えした。
付き合い始めた頃、毎日3食をおむすびで済ませようとする露子に、栄養バランスについて涙目で言い聞かせるのが正宗の日課だった。
毎日、具を変えているし海苔は野菜だから問題ないと言い張る露子に度肝を抜かれたのも良い思い出だ。あの時はめちゃくちゃ尻尾が膨らんで露子が大喜びだった。
このままではいけにゃい! と露子を説得し、すぐに同棲を始めた。
おむすびしか食べようとしない露子のために、毎日具沢山のおむすびを作った。
おむすびと一緒に野菜たっぷりの味噌汁を出せば美味しいと喜んだので、具を変えておむすびとスープジャーをお弁当に持たせた。
── 美哉ちゃんがなんでも食べる良い子に育って本当に良かったにゃ。料理も楽しそうに手伝ってくれるし。露子ちゃんのすべてが大好きにゃけど、そこだけは似てほしく無かったのにゃあ。
「パパー! そろそろお爺ちゃんとお婆ちゃんが来る時間だよ」
「はいはいにゃあ」
*******
「相変わらず露子のお墓を綺麗にしてくれているのね、ありがとう正宗さん、美哉ちゃん」
露子が好きだったシンプル&モダンなインテリアで飾り付けられたお墓が今日も美しい。
周りのお墓と比べて異次元過ぎる美しさだ。
「その、少し飾り過ぎじゃないのか?住職はなんて言ってるんだい?」
嬉しそうな祖母と、ソワソワと落ち着かない祖父。
「住職さんは、いつも素敵だと褒めてくれるにゃ」
「お寺の皆さんも模様替えを楽しみにしてくれているんだよ」
「そうなの」
「そ、そうか」
正宗と美哉の答えに嬉しそうな祖母と落ち着かない祖父。
「今年の夏はパパがハンドメイドに凝ってたから、この花瓶はパパの手作りなんだよ」
「まあ、これが手作り! 素敵な花瓶だと思ったのよ!」
「照れるにゃ」
「正宗さんが送ってくれた美哉ちゃんの写真、とっても可愛かったわ。あの黄色いワンピースも正宗さんの手作りなんでしょう?」
「えへへ、学園祭で着たの。評判良かったんだよ」
「…読んだぞ」
祖父がボソりとつぶやいた。
「お爺ちゃん、パパの新しい本を読んでくれたの?」
「ああ。ワンピースだけじゃなくて、あのアクセサリーも作ってもらったんだろう」
「そうなの! 全身パパ! 全部パパの手作りだったんだよ!」
「まあまあまあ! 正宗さんは凄いわねえ」
「照れるにゃあ」
…娘の露子がケットシー族と結婚すると言い出した時は猛反対したが、この男を知れば知るほど認めざるを得なかった。完璧過ぎて悔しい。
この男はこんなムクムクでモフモフの猫ちゃんのくせに稼ぎは良いし、家事は万能で愛妻家。娘の露子が生きていた頃から家事も育児も率先して行っていた。いや、むしろ家事をサボりたい露子に何もさせない勢いだった。しかも家事や育児の完成度が異常に高く、この忌々しい泥棒猫ちゃんに育てられた孫の美哉は超良い子だ。
もうこれ以上の敗北はないと思っていたのに、この猫ちゃんはハンドメイドにも手を出してきた。
改めて敗北を認めざるを得ないと拳を握る祖父だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます