第7話 由香と太一と鉄平
「鉄平のおかげで助かったよー!」
「ごめん…」
「いいって! 太一はそんなに謝るなよ。小学校くらいまではよくあることだからな。でも裁判までいくのはすごいな、お前どんな猥褻な触り方したの?」
「…
「掴んだだけ?」
「うん」
鉄平が解せぬという顔になる。
「鉄平は高校からだから…」
太一の言葉足らずな発言を由香が引き継ぐ。
「美哉のパパが超過保護っていうか、溺愛っていうか。近所では有名なんだよ」
「普通は親を呼び出して厳重注意と謝罪、家に帰って親からどつかれるってのが一般的らしいんだけど、一切話を聞いてもらえなくて…」
「一気に被害届と訴訟だっけ?」
「うん。あと怒り狂ったおじさんの子育てブログで拡散されてブログの読者にうちの両親のSNSが特定されて炎上した…」
「美哉のおじさん、アルファブロガーだもんね…」
正宗は可愛い猫ちゃん顔をさらしている人気ブロガーで書籍も何冊か出している。正宗ファンが暴走した結果、太一の周囲が炎上した。
「両親がネットで叩かれているのは辛かったよ。自分がぶん殴られる方がマシ」
「やったことに対して報いが何百倍っつーか、釣り合ってないな」
鉄平が気の毒そうに太一を見る。
「悪かったのは俺だから」
「でもネットで叩かれ過ぎて拡散され過ぎて、太一擁護派が生まれたんだよね」
「どんだけ叩かれたんだよ……」
この日のやり取りをきっかけに鉄平と太一と由香の間に友情が育まれ、獣人の敵のように思われていた太一と獣人社会が打ち解けるようになった。
「由香と太一はバスケ部だっけ?」
「そう、鉄平は帰宅部?」
「バスケとか好きだけど獣人が入るとズルイとか言われちまうから」
「あー、それで美哉もテニス部。個人競技が気楽だって」
「柔道とかもやってみたかったけど、どうしても尻尾を触られるからなー。剣道は防具で耳が潰れて痛いし」
「獣人も苦労が多いよねえ」
「しょーがないよ。バスケとかはネットで探したチームに入れてもらってる」
「獣人のチーム?」
「そ!対戦相手もネットで獣人のチームを探してる」
「獣人バスケ! いいよね」
「俺も好き! 身体能力を制限しないで目一杯やってるのは見てて気持ち良い」
由香と太一は鉄平の試合を観に行く約束をした。
「……あのさ、やっぱり、そうなのかな」
もじもじとつぶやく太一の視線の先には、一緒に帰宅する美哉と文治郎。
今日は部活のない日なので放課後の教室でダラダラとお喋りしている。美哉と文治郎は待ち合わせて一緒に帰るようだ。
「付き合ってるよ。美哉は文治郎さんにべた惚れ」
「だよな…。小学校の頃から毎日一緒だったし…」
太一が唇を噛み締める。
「お前……」
しでかしたことと報いのバランスが悪すぎる。
鉄平の目に涙が浮かんだ。
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