第5話 文治郎の進路相談

「そういえば文治郎は何学部を受験するにゃ?」

「電子工学を考えてるんだ」

「美容とか芸術とかじゃないにゃ?」

「大学を卒業した後で美容師の資格を取るって約束してるけど大学は好きなことして良いって言われてて。美容師の仕事に憧れるのと同じくらい、おじさんの仕事ぶりにも憧れがあって。だから、おじさんの影響で電子工学」

「照れるにゃ…」

正宗の目とヒゲが波を描く。


「両方の勉強して、将来はどっちに進むの?」

「まだ分からない。やってみて不器用で美容師に向いてないってなるかも知れないし。…でも美容師を本職にしなかった場合も将来的にサロンの経営はすることになるから、美容師の苦労は身をもって知っていた方がいいかなって」


「不器用で向いてないってことはないと思うにゃ」

「私もそう思う」


文治郎は器用だ。幼い頃から正宗に代わって美哉の髪を結ったりアレンジしたりしてきた。


正宗の手はヘアアレンジに向かない上に、美哉は猫耳があるので難易度が高い。幼い頃から美哉のヘアアレンジは文治郎の担当だった。


「カットはしたことないから分からないよ。技術だけじゃなくてセンスも求められるし。接客の技術や経験もね。あとは俺が、どんな仕事を好きになれるかもやってみないと分からないから」


「文治郎が美容師になったらお客さんの女性たちからモテモテにゃ!」

「ちょ! おじさん!」

美哉の尻尾が不機嫌な動きを始める。


「文治郎は小さい頃から40〜50代のギャルから人気だったにゃ! 美容師になったらあの年代のギャルと会話するネタを勉強するといいにゃ。病気ネタやアンチエイジングの話がオススメにゃ」

「……アドバイスありがとうございます」

美哉の尻尾が通常に戻った。


「文治郎……うちの可愛い美哉ちゃんも工学系の学部を志望しているにゃ」

「うん、美哉から聞いてる」


正宗の目がキラリと光る。


「文治郎! 美哉ちゃんのために受験の情報を集めるにゃ! 同じ大学で美哉ちゃんに悪い虫がつかないようにガードするにゃ! もちろん大学はうちから通える距離にするにゃよ!

…美哉ちゃんをガードするために浪人という手もあるにゃ」

「浪人は止めてよ、おじさん…縁起でもないから……」



── ガードどころか文治郎こそが悪い虫だと言えない2人だった。

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