第3話◇地上に戻るまでが探索だ
ボス部屋に戻ってみんなと合流。
「奥の転送陣は動いてなくて使えない。だから帰りは20層まで上がってそこの転送陣で地上に出ることになる」
「「えー?」」
仕方無いだろーがよ。地図を開いてみんなに見せながら、今後の説明。ここは30層の西側の端っこ、反対側の東側の端にも転送陣はあるが、ボスの骸骨百足が復活してたら倒すのが面倒。
財宝で荷物が増えた分、重量で動きも鈍くなるし、余計な戦闘でせっかくのお宝を無くしたくもない。
今から20層まで上がるのにみんな不満顔だ、いや、俺もめんどくさーとは思うが。
「で、このエリアはいったいなんなんだ? 転送陣が使えないのはどういうことなんだ?」
カゲンの言うことに俺は全員を見渡して答える。
「俺の推測で確実とは言えないが、この地下迷宮は30層の小迷宮として造られた、のではないのかと」
「いや、ここは100層の大迷宮だし。ドリンも一緒に42層まで潜っただろうに」
「それは知ってる。だから初期の予定としてここは30層の小迷宮として造られた。しかし、途中で予定変更して100層に作り替えられた。ここは初期の最深部のボス部屋だった、と推測する」
地図の西と東の端を指さして、
「東の端には骸骨百足が30層ボスとしている。その奥の転送陣は使えて下に下りる階段もある。一方で西の端、つまりここは出入口が埋め立てられて転送陣が使えなくて下に下りる階段も無い。30層小迷宮なら最深部ラスボスだったが、造りが変わってラスボスが隠しボスになってしまった、と。転送陣もこれで地下迷宮の構造から切り離されて魔力が送られていないから、使えない」
「……そういうことなのか?」
「今のところ得られた情報からの推測になるけどな」
みんなもいろいろ考えているようだ。何人かは思いついたことを言ってくれるが、それを検証するのはまた今度。
ひとり手を挙げる奴がいる。
「なんだ? サーラント」
「なぜこのエリアは完全に埋め立てられていない? 中途半端に出入口だけ埋められて、ボスがいる理由は?」
「それは俺も考えた」
普通に考えたら階層ボスは下に下りる階段を守るように居場所を構えている。もしくは何かを守るために配置されている。しかし、
「それについては、情報が足りない。全部埋め立てるのが面倒だったとか、ボス部屋を残しておいたほうが
「そんな理由か?」
「そのあたりも調べてはみたいが、それは次回にしようか。今は地上に上がろう。転送陣が使えないから、移動に手間がかかる。そのうち近いうちにこのエリアはじっくりと調べてみるさ」
「それなんだけどさ、私らもここのことは秘密にしないかい?」
と、グランシア。
「俺達だけの稼ぎ場所にしようってか?」
これはカゲン。ニマリと笑うグランシア。
「あの大蜘蛛は赤い光線さえどうにかしたら、やりやすいボスだからね。約30日で復活するなら、そのときまたみんなで狩ろう。他のやつらがうろちょろしなきゃあ、ドリンもここを調べやすいだろう?」
グランシアがウィンク飛ばして言う。
都合はいいか? 新しい未探索エリアの発見、これが広まったら他の探索者もここを調べに来るだろうし。
俺の調査のためにもしばらくは秘密にしとくのはありだな。
それに反論するのが真面目な
「それは探索者としてどうなんだろうか。あの大角軍団と同じことをするのか?」
「おい、あのヘタレあほ軍団といっしょにするな」
あいつらと同じことなんてするわけないだろに。猫娘衆リーダーのグランシアが続けてくれる。
「そうだよカーム。別にボス部屋を囲んで守るわけじゃない。ただ、この隠しエリアのことを地上で話して広めないだけさ。自力でこのエリアを見つける探索者がいたら、邪魔をしたりはしないよ。他の奴らに見つけられるまでは私らの狩り場にしようってことさ」
「グラ姐ぇ頭いい!」
「ん、それならいいか」
グランシアの説明にシャララが賞賛して、カームも同意する。
前にここの大蜘蛛を倒したであろう探索者のやってたことを、俺達も真似するわけだ。他の探索者が見つけるまで稼げると、ついでに、
「俺がここを調べるのに邪魔者が来ないのはありがたいな」
可能性は低いがじーちゃんの手がかりが見つかるかもしれんし。
「わかった。俺達もここのことは地上では話さないようにしよう」
「触るな凸凹がここを調べるのに人手がいるなら、手を貸すが」
「いや大丈夫だ。ボスがいなければ俺がサーラントの背中に乗ったほうが移動は早い」
「たったふたりで30層うろつくのか?」
「なにか問題が?」
「このあたりの雑魚なら俺とドリンのふたりでも充分だ」
サーラントの発言にみんなが変な目で俺達を見る。ん?なにかおかしなこと言ったか?
サーラントは
調査だけなら、戦闘はなるべく回避すればいい。うん、なにもおかしなことは無いな。
グランシアとシャララがケラケラと笑っている。なんでだ?
「?なにがおかしい?」
「触るな凸凹はおもしろいなぁって」
サーラントがおかしいのはいつものことだが、そこで俺をセットに言うのはなにか納得できない。
さて、地上に戻るか。財宝の仕分けは終わって金粒と銀粒はそれぞれ袋に分けられている。
「プラチナも混ざっていたぞ」
「宝石はこんなとこだ」
白髭団の
鉱物宝石についてはドワーフは頼りになるなぁ。これが無いまま地上で査定をごまかされて損をしたくは無い。
財宝は手分けして力のあるドワーフ達と
20層の転送陣目指して登るとしようか。
◇◇◇
「さて、今はどうかな」
地下迷宮の地上への出入口、そこから少し奥に入った大広間。ここで俺達、白髭団と灰剣狼に猫娘衆は待機している。
待機している俺達を見て、他の探索者が遠巻きにヒソヒソと話してたりとか、
「おい、ドリン、ちょっとこれ鑑定してくれないか?」
と地下迷宮の宝を持ってくる奴がいる。
「悪いが、こっちもこれから査定に行かなきゃな」
「わかってるって。だからこのミスリル銀の盾、ドリンが代わりに鑑定して売って来てくれるなら俺達、白角が先に徴税所に行ってくる。ノクラーソンの野郎がいるかどうか見てきてやるよ」
「ほんとか?」
「そのかわり高値で売ってきてくれよ。どうだ?」
白角はディグンがリーダーの
俺はミスリル銀の盾を受け取ってざっと見る。
「高値で売ればいいんだな? それならちっこい魔晶石もおいていけ」
俺はリュックから銀線を折り曲げて造った簡易魔術回路を取りだして調整する。
「なんだ? なにか裏技でもあるのか?」
ディグンが部隊のメンバーから魔晶石を集めて持ってくる。
「この盾、チャージ用の部品が外れて無くなってる。この回路を繋いで、と」
銀線の端を盾の裏側の魔術刻印に繋げる。
「ちっこい魔晶石は査定額も安い。だったらこの盾に吸わせて盾の魔力を上げておく。中に含む魔力量だけ見たら、査定額を引き上げられる。ここを直さなきゃ使えないってバレなきゃ高値がつくぞ」
「さすがだドリン。じゃ俺達は先に行くぜ。ノクラーソンが居たら徴税所の出口で親指を下げる。いなけりゃ上げる。これでどうだ?」
「助かる」
「なに、あいつらからふんだくれるなら、それで気分もいい」
ディグンが手を振って
俺は魔術仕込みの物品に少し詳しいだけなんだが、いつのまにか鑑定が上手いという評価らしい。
クズ魔晶石を使ってミスリル銀の盾の魔力を満タン近くまでチャージして、と。
キーワードで発動するタイプの治癒力上昇、キーワードは不明で一部のパーツが無し、か。査定するやつがボンクラなら、修理が必要なことを知らん顔で押し通すか。
外に繋がる出入口からパリオーが走ってきた。
「白角が出てきた! 親指は上!」
「ノクラーソンはいない、今のうちだ!」
フードをかぶって地下迷宮の出入口から外に出る。なぜか俺とサーラントは警戒されているから、見た目が目立つサーラントはあとで遅れて合流の予定。俺もフードで顔を隠す。
5日ぶりの地上だ。
地下迷宮の出入口から外に出れば、そこは砦の中の中庭のような風景。周囲は城壁のような壁と見張り塔で囲まれていて、壁の前にも壁の上にも見張りの騎士がいる。地下迷宮の財宝の持ち逃げをされないように。
まるで最前線の砦、下手すりゃ王宮並みの警備体制だ。それだけ
出入口から出てまっすぐ、『アルマルンガ王国 大迷宮監理局 財宝監査処』の看板のついた、監理局という名前の徴税所の建物に小走りで入る。この建物を通らないと壁の外には出られない。
シャララがこっそり飛んできてちゃっかり合流。シャララが得意の幻術で姿を隠して飛行、壁の外に出たディグンの合図を見てパリオーに伝達していたんだが。
ここで魔術を使っても、隠れてこっそり飛んでも見つからなければ問題無い。さすがに姿を隠しても、壁を越えようとしたら警報にひっかかるだろうから、密輸は無理なんだが。
見つけられないヌルイ警備が悪いってことで。
徴税所の中に入りカウンターにカゲンがミスリル銀の戦斧をゴンと置く。
「査定だ、急いでるんで早くしてくれ」
カウンターの向こう側にはアルマルンガ王国大迷宮管理局の緑の制服を着た、細い
カウンターの奴は、薄目でミスリル銀の戦斧を見て小声で魔力感知、測定の呪文を唱える。戦斧を見ながらもこちらの面子もチラチラと見ている。その視線がカゲンの腰の剣を見た、のを俺は見た。
俺達は疲れてる、ふりなんぞしてみたりする。肩を落としてゲンナリと、速く宿に戻って休みたいって感じに。
「ミスリル銀の戦斧、魔法付き、かなり珍しい品のはずだ」
カゲンの言うことにひとつ頷いて、査定官は手元のリストを見ながら答える。
「そうですね。ミスリル銀の武器なら買い取り価格は、1万6千
安い査定額だ、安すぎる。だが、ここから交渉するとでも思ったか?
俺はフードを外してヤーゲンの用意してくれた椅子の上に立つ。
身長120センチの俺は立ってもカウンターの向こうがよく見えないからな。
「じゃあ買い取りで。1万6千csで。みんなも聞いたよな? 所持者登録は白髭団のメッソだ」
扉を開けて、待っていたメッソが出てくる。
「おいおい、ドワーフが足が短いからっておいて行くなよ」
肩で息するふりなんぞしてカウンターに近寄ってくる。査定官はミスリル銀でも重い戦斧だから、ドワーフか
査定官の後ろで書類を手に持ってる奴と目があったので、
「ほらほら、そこで暇してないで、1万6千csでメッソに所持者証明書を出してくれ。査定官の鑑定どうりでいいから、このあと打ち上げ予定でさっさと終わらせたいんだよ。はい次、次」
「次はこれ」
グランシアがミスリル銀の盾をカウンターにドンと置く。ディグンの預かりもののラウンドシールドだ。
「あ、う」
目を回している査定官に助け船を出してやろうか。
「こっちもミスリル銀で、魔法付きだ」
カゲンが腕を組んで足をタンタンと鳴らして、グランシアがカウンターに肘をついて査定官を見上げながら、人差し指の爪でカウンターをコツコツ叩いて、灰剣狼の
地味にみんなで急かしている。
「あ、う、」
「ほら、早く、早く」
「ご、5万cs!」
「よし、売った! 5万cs で売却だ! はい次ー」
はい残念、満タンにした魔力の量に見誤ったにしてもなかなか高い査定額だ。ありがとよ。続けて買い取りとでも思ったか? ディグンもこれなら満足してくれるだろう。
「次はこれだ」
「待てーーー!!」
「ちっ」
もう来やがった。カウンターの奥の扉をバンと開けて、髪の毛をオールバックにしたカイゼル髭の中年の
地下迷宮徴税所の長、ノクラーソンだ。あいつが出て来る前に終わらせたかったんだがな。
「触るな凸凹が来たらすぐに私を呼べと言っただろう! 代われ!」
部下を叱りつけてカウンターの前まで来て俺を睨む。俺は睨まれるような憶えは無いんだがな。
「ノクラーソン、慌てて走らなくても部下を信用して任せて、落ち着いて自分の仕事をしてたほうがいいんじゃないか? 額に汗が」
「ドリン、お前のような奴がいるから部下に任せるわけにはいかん」
「俺がなにかしたか?」
「今までやってきたことを思い出してみろ!」
言われるとうりに思い出してみる。胸に手を当て目を閉じて。俺は俺なりに査定額が有利になるように交渉したことしか記憶には無い。
「ふむ、ノクラーソン。俺はふつうの真っ当な探索者だけど?」
俺が言うとノクラーソンの額に青筋が浮かぶ。なんだってんだ、いったい。
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