第380話 対魔物総合訓練

<魔法学園対抗戦・総合戦

 十一日目 午前九時 演習区>






「というわけで、十人集結っっっ!!!」

「やはり十人もいるとやかましいな……」

「楽しいからモーマンタイッ!!」






 今日は総合訓練という名目で、エリス達はいつもの十人で集まり対魔物訓練を行うことにしていた。今取っている場所は早朝から並んで予約で勝ち取ったのである。






「早速だが訓練を初めていこうか」

「いや待って!? ウォーミングアップっていうのがあるじゃん!?」

「そんなのは訓練の間ですればいいだろう。エリス」

「はーい」




 魔物や時間の管理、全体的な観察を行うのはエリスの役目。今日はヴィクトールも実践に参加する。




「生徒会から増援を寄越してもいいんだってね」

「生徒会には優秀な生徒が集っているからな。個人でも貴重な戦力に成り得る」

「まあ人数多いと暇になる奴とかいそうだしなあ」

「……」


「まさか、図星っすか!?」

「つべこべ言わずに装備をしろ」

「ういー」








 武術組は武具を装備し、魔術組は杖を構える。



 全員の準備を確認した所で、エリスは魔物玉を手に持った。






「九人もいるから少しぐらい多くてもいいよねー。えいっ!」




    ぼふぼふぼふぼふっ






「さあて、四個ぐらい打ち付けられる音がしたが!?」

「この臭いは!! サラマンダー!!」




 それに加えて、ウンディーネ、ドリアード、スケルトンの四体が、目の前に出現する。




「何で臭いでサラマンダーってわかったの?」

「焦げ臭くねえか!?」

「行っくよー、襲いかかれー!」






 エリスの言葉を号令に、魔物達は攻勢に入る。




 先ずは動き回りながら、敵の動きの観察だ。






「さて……どうするか?」

「これだけいれば人数を当てがった方が早いな」

「おっしゃらー!!」




 クラリアは真っ先に、スケルトンに斧を振りかぶる。




「グギギギ……!」




 何本か軟骨は折れただろうか。


 しかしまだ倒れる様子はない。倒れられても訓練にならないのだが。




「適材適所、だよな! 斧は骨をかち割るのにぴったりだぜ!」

「そうするか……おっと!」




 ドリアードが木の枝を鞭のようにしならせ、叩き付けてくる。



 一度腕を唸らせれば、あとはかなりの速さで飛んできてしまう。




「こいつ、中々俊敏だな……!」

「じゃあボクが妨害しながらやろう!」

「貴様にしては妙案だ」

「してはって何-!?」

「俺は水属性だから、サラマンダーの相手をしよう」




 そう言う片手間に、ヴィクトールは無詠唱で呼び出した波を、サラマンダーに命中させる。




「鈍ったか?」

「私は敢えてのドリアード! 風魔法で何とかしちゃうよー!」




 リーシャも無詠唱で、風の刃を生成してぶつけた。




「おいそれ……」

「ハンスがやってたの真似してみたー! どう? 凄いでしょ!」

「……はいはい。じゃあ、ぼくもこっちで。覚悟しろウンディーネ」




 言い終えたハンスの隣を渦潮うずしおが横切る。サラは苦い表情をした。




「チッ、魔法陣展開の邪魔を……」

「サラ、お前はオレが守るとしよう」

「あら、どういう風の吹き回し」

「普段組まない相手とやった方がいいだろう」

「そうね、確かにその方が訓練の意義があるわ」




 それが聞こえたクラリア、一瞬戸惑う。




「ぐ、ぐぬぬ……」

「クラリア、どうした?」

「ル、ルシュドと一緒にスケルトンの相手をしようと思ったけど……サラの言うことが正しいと思っているぜ!」


「じゃあクラリア、あたしと一緒にやろうか」

「わかったぜ!」

「ルシュド、俺の方に来い。火属性とはいえ水魔法の訓練も必要だろう」

「わ、わかった」




 二人がそれぞれ向かい、残ったのは。




「……ボクかよ!!!」

「嘆くぐらいなら自分から動け!」

「ぎゃー!!! ……わーったよもう!!!」











「ふんふん……」


「みんな頑張ってるね……」




 出現した魔物の情報を、手元のメモと照らし合わせる。


 時々訓練の様子を見て、適度に魔物を投入していく。




「わたしも頑張らないと……」




 そうして彼女が鞄から取り出したのは、


 棒の先に二本の玉がついた鉄の道具――鉄アレイである。






「んしょーっ……いっち、にぃ……」






 魔法を使うことができないエリスは、ヴィクトールからある任務を言い渡されていた。それは荷物持ちである。


 薬草やポーション、トーチライト等といった道具は部隊長が所有することになっているが、如何せんかさばる。重量もそこそこあるので負担になることが殆どだ。




 そんな荷物を持って同行し、適切に道具を使う。それが今回言い渡された自分の役目である。


 故にちょっとでも筋力をつけておこうと、アザーリア経由でダレンから訓練用具を借りてきた次第である。






「じゅう、いち……ああ、魔物玉補給しないと……」




 皆の訓練を監視しながら、自分の訓練も行う。頻繁に細々と動くので案外忙しい。



 ついでに近付いてくる人影なんて来られたら、そりゃあ大変に決まっている。






「……え?」






 目を擦ってもう一度その方向を見る。



 そこには確かに、茂みにの中に人影があった。






 近付いてきたかと思いきや、一定の距離を置いてこちらをじっと見つめている。形は大柄な男の物だ。






「あの――」




 意を決して話しかけてみる。




「すみませ――」




「おおっとお嬢さん、わしは怪しい者ではございやせんぜ。んへへっ!」

「……へ?」






 エリスの姿を見ると、男はすぐに大口を開けて笑ってみせる。






「っ……?」

「あっはっは! どうしたおめえ! わし何にもしてねえぞ!? ぐへへ!」




 魔力。



 笑うのと同時に、彼から強い魔力の波が放出された。



 それを受けて一瞬視界が眩む。






「……あの、さっきからこっちの方見てましたけど」

「そりゃあもう、生徒の訓練だもの、気にならんわけがねえだ!?」

「そ、そうですか……」




 背広に帽子を被って、服だけは一級品。しかし口周りの髭は雑に切り揃えられ、まだ肌の色も浅黒い。これは日焼けではなく、皮膚についた汚れが落ちていないのだろうと、エリスは直感で感じた。




「そんな顔顰めんなって! あれか? わしの臭いがきつくて鼻がひん曲がったか! もう数ヶ月ぐらい沐浴しかしてねえや! ぐへへぇ!」






 不衛生自慢。この段階でもう付き合いたくない人種であるとエリスは思った。強く思った。


 しかしやむを得ない事情があるのかもしれない。お金がないとか水が通ってないとか。故にこれだけで無下にするのは忍びない――






「……わたし達の訓練、見ていたんですよね」

「そうだが!?」

「じゃあ……この人の戦闘が良かったっていうの、あります?」

「んー……」




 男は舌舐めずりをして、唾を撒き散らした後、




「あの、金髪のガキ! あいつの剣捌き、中々のもんだった!」

「そうでしたか。ありがとうございます」

「そうだそうだ! んでもって、こんなもんかなあ。ああそうだ、わしはこう思ったなあ――」






「本気を出せば――例えば、あの剣を抜いてみたら」



「きっと、ここにいるガキ共を全て始末できるような」



「伝説の騎士王のような、とんでもねえ力を発揮するんじゃねえか――?」








「……」




 危険だ。



 この男は、危険すぎる。




「あ、はは……そうですか。あっ……向こうから呼ばれてる。わたし、失礼しますね」




 そう言って、半ば強引に男を振り切る。











(何、あの人……!)



(まさか、そんなことはないと思うけど……ううん、でも……)



(……不気味すぎる……!)






「おーいエリス、オマエ何処行くんだ?」






 イザークに呼び止められて、エリスははっと我に返る。



 危うく訓練していた場所を通り過ぎる所だった。






「あ、ああ……イザーク」

「何だ何だ、オマエずんずんと向こうに行こうとしてさ。何かあった?」

「……」




 ちょっと悩んだが、イザークにも男のことを話す。アーサーについての言及は当然話さない。




「……何だそりゃ」

「色んな人が来るとはいっても、不審者まで入れないでほしいなあ……」

「そもそもこの演習区に入れるってことは……誰かの知り合いってことになるけど。若しくは偉い人」

「偉そうには見えなかったけどなあ……」




 顔と一緒にあの臭いも思い起こされて、控えめに言っても辛い。


 ああもうこの話お終い、とエリスは首を振る。




「……ところで訓練の調子はどう?」

「まあぼちぼち。ていうかもう皆魔物倒し終わって、休憩してる」

「そっか……じゃあ急いで戻って、次の魔物を出さないと」

「待って。もーちょい休もう。なっ?」

「負荷を掛けないと体力はつかないよーっ!」

「しょんなー!!!」

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