第229話 最終戦前日・その1
<魔法学園対抗戦・武術戦
二十九日目 午前六時>
……
おい。
……おい。
おーい!!
「起きろー!!」
「のわーーーーっ!?」
アーサーに耳元で叫ばれ、衝撃に天幕の中でのたうち回るイザーク。
「全く。早く起きて調整しようって誘ったの、お前の方からじゃないか」
「疲れてたんだよ!!」
「俺らも巻き込まないでくれよ……」
イザークを始めとして、他の生徒ももぞもぞと起き出す。
「早く起きる分には越したことはないだろう」
「いやまあそうだけど……起きちまった分には活動開始するけど……」
「僕は寝るわ!!」
「度胸あるな!!」
アーサーがストレッチで身体を温めているその間に、イザークは着替えを終わらせていた。でも髪には寝癖がついたままである。
「……軽く腹に何か入れてから行きたいんだけど」
「水でも飲め」
「そういうことじゃねーよ!? 何だっけあの……ショートブレッドとかないの!?」
「先輩方の所に行って叩き起こすつもりか?」
「えーしょんなぁ~~~ボクちゃん倒れちまうよぉ~~~」
「……はぁ」
ポケットに雑に突っ込んでおいたサンドイッチを、歩きがてら差し出す。
「うひょーサンドイッチ!! やっぱりアーサーボクのことわかってるぅー!!」
「オレの分の飯が……」
「は!! 何だよオマエ自分だけずりーぞ!! ボクにも買って買って買いなさいよー!!」
「……空腹に響くからやめろ」
「んじゃもっと騒ぐー!!」
「カヴァス」
「ワン!!!」
「あっびゃあーーーーっ!!」
騒ぎ声が収まった頃には、二人の姿は天幕区からなくなっていた。
「……あの二人、なんだかんだで仲いいよなあ」
「俺もそう思うわ。アーサーって俺達には淡白だけど、イザークといると口数増えるもんなあ」
「まあこうして共同生活送るの始めてだから、しゃーないっていうのはあると思うけどさ。でも、見違える程には仲いいよな」
「本人にそれ言ったらあの犬やられそうだけどな!! はっはっは!!」
男子生徒の一人がアーサーの鞄の上に、きらりと光る物が置いてあるのに気付く。赤いビーズや葉っぱの飾りで装飾された、銀のブレスレットだ。
「……あいつ勢いでこれ着けるの忘れてたな」
「ウワサのカノジョーに作ってもらったやつか」
「……モテるっていいよなあ!!!」
「お前も朝っぱらから叫ぶなよ!!!」
<午前六時半 演習区>
「……ん」
「おおっ!! 何たる奇遇!!」
アーサーが姿を確認する間もなく、イザークは駆け出していった。
「うおおーい!! アーサーにイザークだー!! アタシはここにいるぜー!!」
「おれ、元気ー!!」
「……五月蠅いのが増えたわね」
「全くもって同感」
クラリア、サラ、ルシュド、ハンスの四人が、武器と防具を揃えて、今まさに訓練を始めようとしていた所だった。
「クラリス! アーサーとイザークの武器と防具、持ってこい!」
「わかったわかった。籠手と軽鎧でいいな?」
「ああ、それでよろしくっ」
「ねえねえー二人共!」
「何だよハンス!?」
糸目のままの不敵な笑みを浮かべながら、ハンスはキャンディを二つ見せる。
「これさ、あげるよ! お腹空いてるだろう? 小腹を満たすつもりでさ、食べなよ!」
「マジかよサンキュー! ほらアーサー!」
「……いらん」
「ええっ、そんなぁ! ぼくが分けてあげようって言ってるのに断るの!?」
「オレはまあ平気だが、イザークは体力をかなり使うだろう。少しでも補給しておけ」
「んじゃあもらうとするかー!」
ハンスはアーサーの態度に対し、露骨に眉間に皺を寄せていたが、
「――ふうううううううおおおおおおおおああああああああ!!!」
キャンディを口に放り込んだ直後のイザークの反応を見て、
「ぎゃーっはっはっはっはっはっは!!!!! あっはっはっはっは!!!!」
腹を抱え、膝を叩きながら、喉を響かせて笑う。
「アーシャー!!! めっさしゅーしゅーするんだけふぉこれ!!! ひゃべえ!!!」
「……」
ハンスが笑いかけてくる時は、大体何か悪行を考えている時であると、直感で察したアーサーであった。
「薄荷を五種類程配合した、眠気覚ましの特製キャンディよ。ワタシが作った」
「ハンスじゃないのか……」
「そういう課題があったのよ。で、作り過ぎたからこうしてばら撒いて反応を楽しんでる」
「はははは……!! なあ、今度はヴィクトールの奴にも食わせてやろうぜ!!」
「さっきイザークが放り込んだのが最後よ」
「くそが!!!」
そこにクラリスが武具を持ってきて戻ってくる。
「ほらイザーク、これでどうだ」
「あいよーどうもどうも。うん、ぴったりだ」
「それはよかった」
その場で武具を装備するアーサーとイザーク。
「ところで、皆朝練はどうするつもりなんだ」
「そりゃー個別で訓練を……」
「いいこと思い付いたぜー!!」
クラリアが耳をばたつかせ、尻尾をぶんぶん振り回す。
「珍しいわね、アナタから提案するなんて」
「閃いたんだぜ!! この四人で戦い合うってんのはどうだ!!」
「……四人?」
「アタシ、アーサー、イザーク、ルシュド! 全力出して戦って、最後までぶっ倒れなかった奴の勝ちだ!」
「いや、それは流石にやりすぎ! でも……四人でやるってのは賛成!」
イザークはサイリを呼び出し構える。
「オレも……異存はない」
「ワンワン!」
「おれ、頑張る! ジャバウォック!」
「おうよ!」
アーサーとルシュドもナイトメアを呼び出し構えた所で、サラとハンスは数歩引いていく。
「まっ、ワタシとコイツで見ていてはあげる」
「頑張れルシュドー!! こいつらなんてぶっ潰せー!!」
ハンスは叫びながら、後ろ歩きでどんどん距離を離していくが――
「……ん?」
茂みの近くに差しかかった辺りで、怪訝そうに周囲を見回す。
「どうしたの」
「何か……いるなあ。おい」
「――」
シルフィがハンスの命令で出てきた後、風魔法で茂みを雑に揺らす。
「……気付かれていたか」
「そりゃあ、周囲に比べて魔力が浮いてるからねえ」
「ははっ、それはお見事」
そう言って出てきたのは、縮れた黒髪の男性だった。皺一つないベストとコートを羽織っているが、今は葉や枝がたくさんくっついている。
「おや君は……ハンス君」
「あ゛? 何だよぼくのこと知ってるの?」
「……まあ噂には事欠かないからな。いつも息子が世話になっているね」
「ふーん……息子? 息子だって?」
さしずめ
それを追求しようと思ったが、特に何も考えていないサラが混ざってきたので、雰囲気を上手く持っていけない。
「どこの誰だか知らないけど、よくこんな衣服で隠れようと思ったわねえ」
「気になったからね、彼らが」
「彼ら――」
すると、熱風が髪を靡かせてきた。
「これは! ルシュドだ!!」
「あら、ちょっと気を取られた隙に。あっち結構盛り上がってるじゃない」
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