第66話 誘拐されました!

 がたがたがたがた。

 振動が僕の体全体に伝わって来る。


 「起きたか?」


 目の前には、網で巻かれたマトルド。そしてクルッと上を向けばソウさん!?

 僕はなぜか、ソウさんの膝枕で横になっていた!


 「大人しくしていれば、乱暴な事はしない」


 そう言うけど、後ろから抱きかかえてここに放り込んだのってソウさんじゃないの? おかげで頭を打って気を失ったじゃないか。

 両手を前で縛られていた。まだクラクラするし起き上がれない。


 「あの犬、まだ追いかけて来やがる」


荷馬車には、ソウさん以外にも三人乗っていた。その一人が、ホロの隙間から外を見て言った。


 チェトだ。

 どうしよう。これ動いているし、暴れたら危ないよね? マトルドも動けないし。

 どこ行く気だろう?


 「どこ行くの?」


 「うん? 君が俺達の言う事を聞けば、何不自由ない生活が出来るからな」


 そう言って、僕の頭を撫でた。

 それ答えになってないし!


 はあ。手首が痛い。縄緩めてくれないかな。うん?


 「あ! マジカルマップがない!」


 「これか?」


 男の一人が僕のマジカルマップを手にして見せた。


 「なんで! 返してよ!」


 起き上がろうとするもクラクラして起き上がれない。


 「大人しくしてなって。どうせこれ、必要なくなるしな。しかしいいもん貰ったんだな」


 貰ったって。自分で買ったんだけど。


 「具合が悪いんだったらヒールが出来る奴がいるから、着いたらヒールしてもらうといい」


 「………」


 そうしよう。うーん。これってもしかして、馬車に酔ったのかも!



 どれくらい揺られたかわからないけど、やっと止まった。辺りは真っ暗。周りは木々。森の中なんだろうか?

 降ろされた僕はフラフラと歩く。やっぱり酔った。気持ち悪い。


 「ふん。随分と大人しくなったもんだ」


 そう男が言った。

 はぁ……。早くヒールしてほしい。あ、でも、酔いも治るのかな?


 何というか、森の中に立派なお屋敷。開いたドアからは、眩しい光が漏れているというのに、不思議な事に窓から一切明かりが漏れていない。カーテンで遮っているとはいえ、光を完全に遮断するカーテンなんて凄い。


 中に連れて行かれた。そしてそのまま二階へと連れて行かれる。


 「ここがお前の部屋だ」


 ガチャッとロックをカギで解除すると、ソウさんはドアを開けた。

 部屋にはベットしかない。窓もない。ランプに火を灯す。


 「ここで暫く大人しく待っていろ。いいな」


 パタンとドアを閉めるとガチャッと音が聞こえた。カギをかけたんだ。


 「はぁ……。ヒールしてくれるんじゃなかったの?」


 ベットに腰掛けてボーっとしていると、ドアが開いた。

 知らない男と、少女が部屋に入って来た。


 「大人しくしてろよ」


 そう言って僕の首に何かをつけた。


 「え? これ何?」


 「いわゆる奴隷リングというやつだ。歯向かえば、首が閉まる」


 「え~~!!」


 ボーっとしていたらつけられちゃったよ!


 「ヒールをしてやれ」


 少女が頷くと、小さくヒールと呟いた。その彼女の首にもリングがある。

 頭がすっきりとして、体のだるさもなくなった。


 「凄い。軽くなった」


 「ロマドと言ったか。ユニコーンの所に行くぞ。着いて来い」


 「え?」


 マトルドの所に連れて行ってくれるって事。頷いてついて行く。屋敷を出て裏に回ると、馬小屋があった。

 そこに網に包まったままのマトルドが横になっている。


 「網を取るから暴れない様にさせろ。いいな」


 「あの……僕達を捕まえて何をさせる気なの?」


 「それをお前が知る必要はない」


 まあ網を取ってくれると言うんだから大人しくしていよう。三人の男が、マトルドの網を取ってくれた。マトルドは起き上がる。

 よかった!


 「マトルド」


 僕は、マトルドに抱き着いた。

 と、突然マトルドが暴れ出した。男が近づいて来たからだ。


 「落ち着いてマトルド」


 それでもマトルドは、落ち着かない。たぶん怒ってるんだろうな。あんな目にあったし。


 「ちゃんとユニコーンを制御しろ!」


 「制御って!」


 「言っている事がわからないか? そうだな。身をもって体験してみるか?」


 そう言うと、急に首が苦しくなる。リングが閉まって来たんだ。


 「やめ……」


 僕は、苦しくなって膝をつく。

 スーッと緩まった。


 「げっほ……」


 「わかったか?」


 「マトルド大人しくして!」


 ちょっと強めに言うと、ピタッと止まり僕をジーッとマトルドは見る。


 「大丈夫だから」


 「角の部分を隠している物を取れ」


 「え……でも」


 ギロッと睨まれた。


 もうなんでこんな目に遭うんだ。

 ダダルさんには取るなと言われていたけど仕方ないよね。

 角を覆っていた袋は、すぽっと簡単に取れた。


 「え……」


 なぜか強烈な眠気に襲われる。


 バタンと周りにいた男達も倒れた。眠ったんだ!

 そうだ。今なら逃げるチャンスだ。

 僕は、マトルドに寄りかかりながら何とか体を動かそうとするも眠気が襲い気が遠のいて行く。


 ――『耐性』はランク2になりました。


 そう聞こえると、フッと眠気は吹っ飛んで行った。

 うん? 何が起こったの?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る