第63話 マトルドとロマド

 「ふんふんふふん♪」


 「だからここでは、スキップするな」


 勝手について来てユイジュさんが文句を言っている。

 マトルドのランプのネックレスを買いに、冒険者の街に来たんだけどそれにユイジュさんがついて来た。


 ユイジュさんの話だと、僕が買い物をしている間、マトルドを見張る役がいるそうです。確かに人が近づいたら危ないけど……。

 どうしてあんなに怒るんだろう?

 きっと、あの人達に酷い目に遭わされたんだね。かわいそうに。


 お店についた。


 「じゃ僕は、買って来るから大人しく待っていてね。ユイジュさんが一緒だから大丈夫」


 僕がそう言うと言っている事がわかったのか、マトルドはユイジュさんを見た。


 「おい……襲うなよ」


 ちょっと腰が引けているユイジュさん。

 怖くないのになぁ。


 「じゃ待っていてね」


 『私はここに残るわね』


 『そうだな。そうしてくれ』


 「あ、チェトも来る?」


 『あぁ。ついて行く』


 僕は、チェトを抱き上げた。


 「じゃ待っていてね」


 店の中に入り店員に聞く。


 「あの凄く長いチェーンがついたランプのネックレスってありますか?」


 「これは、ロマドさん。ありますとも!」


 「あ、銀色のランプってある?」


 「もちろんございます」


 「ありがとう。これ下さい」


 バン!


 「ロマド! 大変だちょっと来てくれ!」


 「え~? もうちょっと待ってよ」


 「そんな悠長な事を言っている場合じゃない! マトルドが馬屋を襲ってる!」


 「え? なんで?」


 「なんでって……近づいたからだろう」


 「あの……これどうぞ。その馬にお付けになるのですよね? 代金は解決してからでいいですよ」


 「ありがとうございます」


 僕はネックレスを受け取ってダッシュで外へ出た。


 ひっくり返った馬屋のおじさんの上に見下ろす様にマトルドが立っている。


 『ダメよ。それ以上やったらロマドに迷惑がかかるの! 言っている事がわかる?』


 二人の側で、一生懸命サザナミが叫んでいた。


 「マトルド!」


 僕は慌てて、マトルドに近づいた。


 「申し訳ありません。大丈夫ですか?」


 ユイジュさんが、馬屋のおじさんを助け起こす。


 「なんなんだ。この馬は」


 「おじさんが、綺麗にしてあげてなかったから嫌われているんだよ。きっと」


 「おい、ロマド!」


 慌ててやめろとユイジュさんが言うけど、ふーんだ。こんなにきれいになったんだからね!


 「な、何を言って……もしかしてあの馬なのか?」


 「うん。おじさんのところで買った馬だよ」


 おじさんは、あんぐりとしている。


 「ま、まさか、そんなにきれいになってしかも、そんなに懐くなんて信じられん」


 「本来は大人しいの!」


 「いや逆だろう……」


 ボソッとユイジュさんが言っている。


 「あ、そうだ。マトルド。ほらこれ。ネックレス。うん。似合う」


 ネックレスを着けると、嬉しそうにすりっとしてくれた。


 「おい、ユイジュ。何やってるんだ?」


 ツオレンさんだ。


 「はは~ん。また何かしでかしたか?」


 なぜか僕を見てツオレンさんが言った。


 「何もしてないよ」


 「って、悪目立ちしてるな。場所移動するぞ」


 となぜか、ツオレンさんが馬屋のおじさんとユイジュさんを連れて行く。


 「は? なぜ俺?」


 ユイジュさんが、何か言っているけどいいか。あ、そうだ。お金払わないとね。

 成り行きをみていた見物客が散っていく。


 『お金払って来るから三人共ここに居て』


 『は、早く頼むな』


 「うん」


 『もう焦ったわ』


 サザナミがそう言った。


 「すみません。お金払います」


 「はい。いつもありがとうございます。大丈夫でしたか?」


 「うん。ツオレンさんが何とかしてくれました」


 「それはよかった。またお待ちしております」


 「はい」


 僕は、店を出た。

 今度は大人しく待っている。


 「お待たせ」


 ユイジュさんどこまで行ったのかな? あ、馬屋か。

 ちょっと行ってみよう。


 「あははは」


 なぜかツオレンさんの笑い声が。


 「そんなわけあるか。あいつは男だぞ。あんな格好をしているが」


 「いいえ! 確かにあの馬には角がありました。灰色だったので、ユニコーンだとは思わずこぶだと思っておりましたが、今思えばあれは角! そのユニコーンが懐いているのですからあの子は女の子です!」


 もしかして、僕とマトルドの話をしているのかな?

 前もちゃんと男だと訂正したのに……。


 「ツオレンさんの言う通りなんだけど!」


 三人が僕に振り返った。


 「おぉ、ロマド。その馬に角が無いって見せてやれ」


 ツオレンさんが言った。


 「もう僕は男だからね! ほら角だって今はないし」


 僕は、たてがみを触って見せた。今は毛がついた袋をかぶせてあるからね。それこそこぶにしか見えない。


 「………」


 「これでわかったか? ユニコーンなんてそこら辺にいるかよ。な、ユイジュ」


 「あ、あぁ……」


 「そうですね……」


 やっと僕を男だとわかったみたいだ。


 「ちょっとこっちこい!」


 ユイジュさんが、ちょっと怖い声で僕を呼ぶ。何だろう?


 「うん? 何?」


 「お前な……今はって余計だ!」


 うん? 何の話だろう?


 「自分が言った言葉に気がついてないのかよ……」


 ユイジュさんは、大きなため息をついた。


 『まあ、今更だ』


 『そうね。あの二人も気づいていないようだし、気に病む事もないのにね』


 うん。ユイジュさんは細かすぎるよ。

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