第50話 無料は魅力的

 「え~。なんで~。じゃ走っていく!」


 僕は猛烈に抗議する!


 「お前な、わがまま言うな!」


 ユイジュさんにはわからないんだ! これは、わがままではない事が!



 シャンプーとブラッシングをするのはチェト達だけとお達しが昨日出たというのに、今日来てみると僕宛てに仕事の依頼が来ていた。それがなんと! 『羊の毛を綺麗にする』というものだったんだ。

 遠いので馬車でとなった。でも、馬車だとチェト達を乗せれない。


 「いいか。遊びじゃないんだぞ」


 「わかってるよ! でも何日も家に帰れないなら連れて行く! って、羊の毛を綺麗にするだけなら僕とチェト達で行くからユイジュさんは、ここに残ればいいじゃないか。見回りもあるでしょう?」


 「あぁそうか! じゃ、勝手にしろ。馬車も使わずその村にちゃんと行けるのならな!」


 うん? 使わないで行くのって難しいの?


 「馬車でないと行けない場所なの?」


 「あのな、お前がその場所を知らなければ行けないだろうって話をしているんだ。乗り合い馬車なら迷うことなくそこに連れて行ってくれるんだぞ?」


 「あぁ。そっか。じゃ地図を買えばいいかな?」


 「言いわけないだろう。人前でスキルを使うなと言っただろう? スキルがないとおかしいスピードなんだから普通に行け!」


 「……もう馬でも借りて犬コロには走ってついて来てもらったらどうだ? それなら地図があれば行けるだろう? この前、お金が入ったんだ。それでいいんじゃないか」


 ダダルさんは、物分かりがいい!


 『いい考えだな。われはそれでもいいぞ。ついていく。毎日ブラッシングをしてもらわないと、調子がでないしな』


 『そうね。私も毎日してほしいわね』


 二人も大丈夫みたいだね。じゃ馬を探さないと。


 「ダダルさん! 何かあったらどうするんですか」


 「お前、結構心配性だな」


 「後処理する身にもなってくださいよ……」


 「ユイジュ。彼に来た仕事だ。アドバイスは出来ても強制は出来んぞ。一度失敗して懲りれば馬車にも乗るだろうし」


 「ありがとう。ダダルさん!」


 「但し、全部自分で責任を負うんだからな。自分で馬を見つけて地図を買って。その上で、期限までに依頼を終わらせる」


 「はい!」


 よし、やるぞ。


 「ユイジュ、ちょっと」


 ダダルさんがユイジュさんを手招きしている。


 「じゃ、僕は用意して出発しますね」


 「おぉ。気をつけれよ!」


 「はい! 行ってきます!」


 ダダルさんは送り出してくれたけど、ユイジュさんは渋い顔をしていた。

 そういえば、いつも乗っている馬車は何も言われないんだけどな。まあほとんどが僕しかいなかったりだけど。


 「地図と馬ってどこに行ったらいいんだろう?」


 『冒険者の街だろう?』


 「あ、そっか。そうだ! サザナミにもペンダントを買ってあげるね」


 『あらペンダント。嬉しいわ』


 僕達は冒険者の街へと向かった。

 そしてまずは、サザナミのペンダントを買った。色は紫。とっても似合う。


 「お? ロマドだっけか?」


 「あ、ツオレンさん」


 って、酒臭い。


 「一人か? ユイジュは?」


 「お留守番です。これから僕、エクールーセ村に行かなくてはいけなくて」


 「うーん。聞かない村だな。何しに行くんだ?」


 「依頼が来て、羊の毛を綺麗にしに」


 そう言うと、ツオレンさんはゲラゲラと笑い出した。


 「ヒ……ヒヒ。なんだそれ……。久々にお腹の底から笑ったよ」


 「そんなに笑わなくても」


 「まあそれなら一人でも行けるな」


 「あ、そうだ。地図ってどこで売ってますか?」


 「ここでも売っていただろう?」


 「あ、ここでも売っていたんだ」


 「どれ見てやる。こい」


 「え!?」


 頼んでないのにツオレンさんは、建物の中へと入って行った。

 中に入って姿を探し近づくと、ほれっと手渡された物は地図ではない。


 「あのこれ……何?」


 「マジカルマップ。腕に着けるタイプだ。これのいいところは、自分の位置がわかる事。まあ、セットしなくちゃいけないけどな。あと、魔力もいるなぁ。そういえば、おたく魔力持ちか?」


 「あ、はい。魔力持ちですけど。僕にこれ使えるかな? 魔力は少ないって言われたんだけど……」


 「おや、魔力持ちかい。だったらこっちだよ」


 「おぉ、そっか」


 お店の人に言われて、僕に渡したアイテムを棚に戻した。もう違うじゃないか。


 「こちらのが魔力持ち用。勿論、先ほどのでもお使い頂けますが、こちらですと腕に装着するだけで自分の魔力を使って作動してくれますので、いちいち魔力を込めなくて宜しいのです」


 「あぁ、なるほど」


 『待てロマド。紙の地図でよいだろう。わざわざ魔力を使わなくてもよい』


 「あ、紙の地図か……」


 「おや紙の方が宜しいですか? こちらの方が宜しいでしょう。今いる場所を登録すれば、魔力が切れない限り自分の居場所を把握できます。お買い上げいただければ、今いるこの場所のセットは無料でして差し上げますよ」


 「え? 無料で?」


 『おい。無料にとか抱き合わせに弱すぎだ!!』


 チェトはそう言うけど、無料だよ。よく考えれば、魔力を使うと言う事は最大魔力が増えるって事じゃないか!


 「買います。いくらですか?」


 「五万テマです」


 凄く高かった!!

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