03:ドライブだよ、こじきちゃん!

 学生にとって車を所有している友人というのはとても重要な存在である。複数人で移動を共にするならば車はとても便利だからだ。

 全国的にはどうか知らないが、私個人の感想として学生というのは暇な時期は本当に暇である。遊びたい盛りの人間に暇を与えればそれはもう大いに遊んでしまうしかない。

 ということで、今日はモナちゃんの車に乗ってパンケーキ屋さんへ向かっている。

「ふたりとも付き合ってくれてありがとう! 前から行ってみたかったんだ、あのパンケーキ屋さん!!」

「こっちこそありがとう。車出してもらっちゃって」

「えへへー、どういたしまして!」

 モナちゃんのテンションが上がっているが、実はもうひとつ別のものも上がっている。

「にしても、あっちーなぁ……」

 ノンノがこぼしたように車内の温度も上がっているのである。

 今は夏。本日は晴天。最高気温は29℃になるという予報だった。

 暑いに決まっている。

 しかし、なぜかモナちゃんは一向にクーラーをつける気配がない。

 ここは助手席に座る私が動くしかないようだ。

「モ、モナちゃん。クーラーつけていいかな?」

「……あっ、ごめん、窓開けるから」

 そう言ってモナちゃんは窓を全開にした。

 風は入ってくるが、これだけでこの暑さが改善される訳がないと私は(おそらくノンノも)思った。

 なぜだ、なぜクーラーをつけないのだ!?

 そうこうしているうちに目的地へ到着した。

 車を降りて店内へ向かう。

「なあ、みー。あいつがなぜ頑なにクーラーをつけなかったかわかるか?」

 途中、ノンノが私だけに聞こえるように尋ねた。

「えっ、わからないよ。もしかして、ノンノは知ってるの?」

「おそらくだが、『燃費』だな。排気量の多くないコンパクトカーに三人乗車してるだけでも燃費は悪くなる。そこにクーラーを追加してみろ。スピードが落ちるから必然的にアクセルを踏み込む量が多くなってさらなる燃費悪化だ。こじきちゃんには見過ごせない事態だろ」

「な、なるほど。燃費かぁ……」

 その憶測が恐ろしく説得力あるものに聞こえてならない。こじきちゃんなら十分有り得るからだ。


「おいしかったね! 生クリームたっぷりだったね!!」

「たしかにおいしかったね。なんか見た目も可愛かったし」

 実はわざわざお店でパンケーキを食べるのは初めてだった。結構いいお値段だったが、また食べたいと思えた。

「ホットケーキと何が違うかわかんねーけど、うまかったなー。……さて」

 会計レジの前に来たところでノンノが私を一瞥いちべつする。すぐに意図を察し、頷いた。

「今日はモナに乗せてきてもらったし、ここはおごるよ」

「うん、モナちゃん、ありがとね。会計は気にしないで」

 車内は快適とは言えなかったが、片道三十分ほどかけて運転してもらったのだ。感謝の気持ちを忘れてはならない。とくにこじきちゃんに対しては、最も友好的かつ有効的な気持ちの表し方だろう。考え方がいびつかも知れないが、私は常識人のつもりだ。

「ほんとにぃ!? いいのぉ!?」

「ああ、気にすんな。あたしらからのお礼だよ」

「わー、ありがとう! 帰りも張り切って運転させていただきます!!」

 あざとい敬礼ポーズを披露したモナちゃんに会計レジ担当の男性店員が見とれていた。


 やはりクーラーオフのままの帰り道かと思いきやクーラーはオンになっている。

「ちょっとガソリン入れてくね!」

 モナちゃんは車をガソリンスタンドへ入れ、給油を始めた。

 車中で私とノンノはそれを眺める。

「なあ、みー。あいつがなぜ頑なにつけなかったクーラーを帰りはつけたかわかるか?」

「やだ、こわいよ、ノンノ。言わないで……」

「あたしらの感謝の気持ちを知って、ガソリン代も負担させる気なんだよっ!」

「やめてぇ! 聞きたくないぃ!!」


 真相はわからないが、さすがにガソリン代は払わなかった。

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