第16話 最後の仕掛け
マキナが消えてから数分後、俺はレイの部屋の前に立っていた。そしてドアの下の方を見つめる。
「(やっぱり・・・。)」
しばらく扉の前に立っていると、その気配に気づいたレイがドア越しに声をかけてくる。
「タクトか?」
「あ、はい。そうです。もう大丈夫ですので、ドアを開けてもらっていいですか?」
ドアは勢いよく開かれ、レイが飛び出してくる。
「怪我は?どこか痛くないか?!大丈夫なのか?!」
レイは俺の身体をペタペタと触り確認してくる。なんかデジャビュ。
「だ、大丈夫ですよ。この通り、無事です。」
レイはホッとしたようで、ようやく部屋に招かれる。部屋の奥では椅子に腰掛けたマキナがウトウトとしていた。
「それで・・・、上手くいったんだな?」
「はい。”マキナ”は俺の方に現れて、最後には姿を消しました。”マキナ”には姿を消す力もあるみたいです。俺はその能力を認識していなかったので、
「そうか。”最後の仕掛け”はどうだった?」
「やっぱり、あの人の部屋のドアだけ破れてました。」
俺は夕食の後、全ての部屋のドアに”ある仕掛け”を施していた。全てのドアの左下、すなわちドアの開閉部に”紙テープ”を張っていた。この館の客室はトイレから風呂まで全て備え付けになっているため、一度部屋に戻れば部屋の外に出ることは基本的には無いのだ。加えて、下手に外に出たときに殺人が起きればその者が容疑者になりかねない状況でもあるのだ。そして、もし部屋を出れば俺が張った紙テープが破れるようになっている。
「この部屋を含めて他の人の部屋の紙テープは無事でした。あの人を除いて。これで”マキナ”が誰と共に行動しているのかがハッキリとしました。」
「こちらのマキナが外に出ていないことを確かめるために、何があってもマキナをこの部屋の外に出すなと君が言ったからな。君が”マキナ”を追ってそこの廊下を走っている音が聞こえた時は助けに行けないもどかしさで死んでしまいそうだったよ。」
「あはは。我慢してくれてありがとうございました。おかげで”マキナ違い”を防ぐことができました。”全てのマキナ”は容姿も能力も同じだと聞いていたので、どっちのマキナと出会ったのかが分からなくなってしまいますからね。」
「君も結構策士だな。これで犯人が完全に絞りきれたんだ。決着は明日でいいんだな?」
「明日の朝食の時間に決めようと思います。」
俺は、全員が揃った場で決着をつけると決めていた。
「おっと、忘れるところだった。マキナー起きろー。」
ウトウトしているマキナは気怠そうに半目でこちらに反応する。
「明日はお前のお披露目会にもなるからな。オメカシをしておこうな。」
無抵抗のマキナの右手首に、ペンで丸印を描く。彼女は勝手に落書きをされたのがさすがに不服だったのか、俺を睨みつけている。
「悪かったって。でも、”マキナ違い”を防ぐために必要なんだ。全部終わったら消してもいいからさ。」
マキナの子供のような態度に、レイも思わず吹き出していた。レイはなだめるようにマキナの頭を撫で、少しだけ我慢してくれと優しい声色で言った。
「それじゃあ、俺は広間に戻ります。頼んでばかりで申し訳ないですが、明日もよろしくお願いいたします。」
「もちろんだ。だが、本当に広間に戻って大丈夫か?なんなら私の部屋に・・・」
「いや、まずいですよ!僕は大丈夫ですから、とりあえずその子を頼みます。」
心配そうに見つめて来るレイを後に、部屋を出る。
状況的に次に狙われるのはこちらのマキナになる可能性が高い。そのマキナのそばにレイがいてくれていることは非常に心強い。
広間Bのソファにたどり着いた俺は、改めて横になる。明日に備えて、仮眠を取ることにした。
翌日。AM8時。ベティーナを除いた全員が広間Bに集まっていた。
「みなさん。どうも。マキナです。よろしくお願いいたします。」
小学校の転校生紹介のような状況で、右手首に丸印のあるマキナが全員の前に姿を晒した。皆の反応は共通して”唖然”であった。俺はマキナの存在、能力、俺が転移してきた経緯の全てを偽りなく話した。
「遅れてしまって申し訳ないので皆さんにご紹介をしておこうと思い、連れてきました。」
しばらくの沈黙の後にカールが不思議そうに質問をしてきた。
「なぜ隠していたんだい?」
「紹介しようかしないかで悩んでいたら、運悪く殺人犯が”外部の者”である可能性が高くなってしまい、言い出すタイミングがなく・・・。」
カールは苦笑いをしている。すると、力強い声でこの館の主人が続ける。
「まさか二人も無断で侵入していたとはな。異世界人というのは面倒ごとばかり持ち込んでくるのだな。」
ぐうの音も出ない。申し訳なくなり萎縮していると、レイが咳払いをしとりあえず朝食にしようと言ってくれる。
昨晩の夕食と同じ配置で全員に朝食が配られる。均等に切り分けられたパンと、コーンスープ、色鮮やかなサラダ。献立も同じであったが誰も不満を言わなかった。
朝食を摂り始めてから5分ほどたち、カールが異変に気づく。
「おっと、エーベルハルト殿。口の周りに”緑色”になってますよ。意外にお茶目な一面もあるんですね。」
「かく言う君も同じではないか。他人のことを言う前に自分のことも気にかけるべきだな。」
「これはこれはお恥ずかしい。ところでこの”緑色”の原因はなんだろうな、レイくん。」
レイはわざとらしく驚き、棒読みで全員に説明をする。
「あぁ、しまった。エド殿から頂いた”栄養価増加の着色料”をサラダに混ぜていたのであった。皆の口周りを汚してしまい大変申し訳ない。」
エウルールは呆れていた。カールは笑っている。
「ははは。笑いで始まる一日はいいな。それに拭いても拭いてもなかなか落ちないなぁコレ。エドワード氏の調合魔具はこんなものもあるのか。そういえば、さっきの話だとタクト君には魔具は効果無いんだったよね。」
皆が俺の口周りを見る。当然、着色料は付いていない。
「繰り返しになりますが、異世界人に魔具は効かないんです。だから、着色料もつかないし、栄養価倍増の恩恵も受けられません。だから、ここにいる俺もマキナも口周りが綺麗なんです。」
「あぁ。そうだろうね。良いんだか悪いんだか。」
カールは食べ続けながら適当にそう返事をする。
「であれば、着色料が付着していないものは異世界人とも言えますよね。」
当たり前だろとエウルールが呆れ気味に返す。
「だってさ。シン。」
シンは始めて会った時と同様に綺麗な顔立ちをしていた。白い肌に整った目鼻立ち。そして、その顔に緑色は無かった。
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