第5話 世界18002
異世界転移の元凶と思われる少女が今、俺の部屋の中にいる。彼女は転移前の世界で道を歩いていただけの俺を、急に有無も言わせずに殺人現場に送り込んだ犯人である。六畳ほどの部屋の窓側には丸テーブルと椅子が設置されており、彼女は丸テーブルの方にちょこんと腰掛けている。
「待っていましたよ。タクト。どうぞ、こちらへ座ってください。」
そうか、俺のためにソファーを空けてくれていたのか。だとしてもテーブルに座るのはダメだろう。ともあれ、彼女には確認しなければならないことがたくさんある。俺はソファーに座り、彼女の横顔を見つめながら質問を始める。
「ええと、とりあえず確認したいんだけど、この世界に俺を転移させたのは君だよね?」
「はい。」
「だよね。じゃあ、君は一体何者?」
「私はマキナ。この世界の管理者の”使い”です。」
彼女は淡々と返答をする。目線はずっと変わらず扉の方。俺の座るソファーの方には一瞬たりとも目線を送らない。
「管理者からこの世界を救える人間を探せと命を受けたので、異世界を救いたがっていたアナタを選びました。」
「この世界を救う?今の所、世界を救いにいくどころか魔具集めが趣味の金持ちの家で殺人容疑をかけられてるんだけど・・・。」
「この場所に転移するように管理者より指示をされていましたので。私はそれ以上のことは知らされていません。」
マキナは全く表情を変えない。動きがあるとすれば呼吸によって微かに体を揺らしているのと、瞬きくらいである。顔立ちは綺麗で、動きもほぼ無いことから”お人形”という言葉が相応しい。俺はそのお人形に質問を続ける。
「君が管理者から与えられている指示ってどんな内容なの?」
「異世界からこの世界を救える者を連れてくるということだけです。ただ、必ず”世界09001”から転移者を選ぶことが条件として言われていました。」
「”世界09001"?」
「はい。タクトがいた世界です。この世界は”世界18002”です。他にも”世界00001"から”世界00002”、”世界00003”・・・」
俺は世界18002までカウントしようとしているマキナを止めた。いわゆる世界毎のナンバリングなのであろう。疑問は増える一方である。とにかく少しずつ聞いていこう。
「じゃあ、管理者は何故俺のいた世界から選ぶように指示したの?」
マキナはハッと驚いたように息を吸い、初めて顔をこちらに向ける。彼女は眉間にシワを寄せながら言う。
「・・・わかりません。」
ダメだこりゃ。その後もこの世界をどう救えば良いのか等質問をしたが彼女はそれ以上何も知らなかった。管理者は転移者に一体何を求めているのだろうか。この世界でのゴールはわからないままである。
「じゃあマキナ。この世界に魔王的な存在はいるの?」
マキナは自信を取り戻したように、また扉の方に顔を向け答える。
「はい。世界18002には支配者がいます。支配者デューオ。世界18002の六つある大陸のうち二つを手中に収めています。今でもその支配者は暴力によって侵略を繰り返しています。」
「おぉ!ならソイツを倒せば良いのかな?」
マキナは再びハッと息を吸い、眉間にシワを寄せ少し涙目になりながらこちらを向く。そして答える。
「・・・わかりません。」
なんかもうごめん。質問責めにしてしまうとマキナは泣いてしまいそうだったので、俺は問うことを一旦止めた。しばらくの沈黙の後にマキナは思い出したかのように話し出す。
「タクト、”アナタは世界09001の人間であり、世界18002の人間ではありません。それが鍵になります。”これも管理者からアナタへ伝えるように言われていた言葉でした。」
「どういうこと?鍵ってなんのこと?」
彼女は再びハッとする。これ以上の情報は得られないであろう。この世界の出身じゃないことが鍵になるのか、それとも元いた世界の出身であることが鍵になるのか、もしくは全く違った意味なのか・・・。真相を知るために管理者と直接話がしたいとマキナに頼んでみたが、当然それは断られた。管理者はこの世界を救いたいなら、マキナを通さずに俺に直接コミュニケーションを取ってほしい。マキナと話す前よりもこの世界の情報は増えたが、同時に疑問も増えた。とりあえず今の状況を整理することにした。
・異世界転移を行ったのは管理者とその使いのマキナ
・世界にはそれぞれナンバリングがあり、俺のいた世界は09001でこの世界は18002。
・異世界転移が発生した理由は「18002を救ってほしい」から
・必ず09001から転移者を選ばなければならなかった
・鍵は「世界09001の人間であり、世界18002の人間ではない」こと
整理しているようで、整理できていない気がする。結局この世界は何をもって「救われた」状態となるのか。また、”鍵”とは何を意味するのか。
俺は世界を救う前に、まずは明日の午後までに殺人事件の犯人を探さねばならない。しかも犯人はこの館にはいない。犯人と思われるものがエドの部屋から外に飛び出す姿を見ているので、周りの森に身を潜めているか、もう既に麓へ降りてしまっているかもしれない。考えが何もまとまらずに頭を抱える。マキナは相変わらず黙って扉の方を見つめている。その時、扉の向こうからドタドタと騒がしく幾つかの足音が聞こえてきた。状況を確認するために俺は部屋の外に出る。広間Bにはエーベルハルトを含めた全員が集まっており、何かを話し合っている。
「どうかしたんですか?」
俺が問いかけると全員がこちらを向き、レイが答えてくれた。
「先ほど、麓の村がデューオ軍に占拠されたとの連絡が入った。」
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