第82話 トラウマ

「失礼します」

そう言ってドアを開けた。広い部屋だった。高そうな黄色のスポーツ自転車が三角形のスタンドに載り部屋の隅に置いてあった。1番奥にデスクがあり、その前に4組の茶色のレザーのチェアーと、テーブルが並んでいた。デスクに座っていた藤澤が、顔を上げメガネを外し出迎えようと席を立った。


「わざわざ来てくれて申し訳ない。君たちには、西崎の命を守ってくれて大変感謝しているし、大変世話になった。話しをじっくりとしたいんだが、今から緊急の役員会があって時間が少しか取れないんだ。早速、用件を伺おう」

そう言いながら、慌ただしく近く寄って来ると握手を求めて来た。1Fで「会える会えない」の押し問答があった事が嘘のようだ。自分と安と握手を交わした。分厚い重厚な握手だった。ソファーに座るように案内をした。

「今日嵐山の自宅兼事務所に行くと、新しい警備会社が入っていました」

「K K K総合ガード会社の事だね。正式名は、キョウト(K)ケイビ(K)カイシャ(K)総合ガードだが」

腰掛けながら申し訳なそうにそう言うと、背もたれに背中を預けこちらを見た。

「我々は西崎社長のボディガードとして雇われ、業務に当たって来た。業務時間だけでなく日常の警護にも当たる事を求められて来た」


藤澤が黙って頷く。

「阪神高速の事件以降、西崎社長とは会えていないが、体調を崩し、会社の業務が出来ていないと聞いている。そんな中で、今日ボディガードの仕事で、早朝大阪南港の探偵事務所から嵐山の事務所兼自宅に向かうと、警備会社が警護に当たっていた。どういう事ですか?」

少し間を置いて、藤澤が言った。


「もっとシンプルに考えよう。君たちは西崎の私設ボディガードとして雇われた。しかし、雇い主は体調が悪くなりボディガードは出来なくなった。私が君を推薦したのは西崎個人のボディガードとして相談されたからだ。知り合いだった白石警部に相談したところ、君を紹介された。元大阪府警の刑事の私立探偵なら、社長も安心するだろうと思ったからさ。またそれと同時に、Googleの口コミの書き込みを見てから、元々会社として西崎のいる自宅兼事務所に何らかの警護が必要だと考えていた。本社を警備してもらっているK K K総合ガードに、ハンナリマッタリー全体を警備してもらおうと動いていた。今回やっと体制が整い、昨日の夕方から君たちの仲間と入れ違いになるように警備に着くようにしてもらったんだ」

藤澤が、こちらと安を冷静にそれぞれ見つめながらそう言った。

「こちらのボディガードはどうすればいい?」

「では、ガードすべき人間がいない現状で君たちはどうする?」

逆に質問を重ねて来た。

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