第41話 ターゲット

端田ビルに向かうと、既に谷河口が道路にベンツGLEを停め、ハザードを点けながらスタンバイしていた。

その後ろにバイクを停める。シールドを上げ、周りを見渡した。特に気にかかることはなかった。西崎たちがビルから出て来た。谷河口が、運転席から降りで西崎を迎える。安たちは、さりげなく西崎を取り囲むようにして歩道を横切る。ベンツGLEに乗り込む。谷河口がベンツの周りをくるくると動いていた。


バイクに跨ったまま、周辺の様子を見守っていた。全員がベンツに乗り込むのを確認すると、ゆっくりとベンツGLEが動き出した。バイクで後を追いかける。本町から梅田に向かう。車の流れはスムーズだ。

後ろから数台のバイクが追い抜いて行った。一瞬、身構えた。YAMAHAのXSRや、HONDAのCRFがやって来たのかと思ったからだ。違っていた。疑心暗鬼になっている自分がいた。


信号待ちから交差点を右折する。突然のクラクションに驚いた。遅い右折の車の動きにイライラしたのか、誰かがクラクションを鳴らして急き立てたようだ。さすがイラチの街、大阪らしい光景だった。

信号待ちのたびに、軽く周りを見渡す。何の異変は見られなかった。ライダースーツの下が若干汗ばんできた。気にし過ぎなのだろうか。襲撃した連中は、これが本懐なのかもしれない。精神的プレッシャーを掛けるだけで本当は何もせずに、自分たちの心労を何処の影から見て嘲笑っているのかもしれない。神経戦に持ち込まれているのを感じる。


梅田にある大阪経済流通同人会に到着した。ベンツGLEが停まった。バイクを少し離れた所に停車させた。バイクに跨りながら、警戒する。谷河口、安、松川たちが車を降りて来た。西崎たちがベンツGLEから降りてくるのを挟み込みようにして待っていた。事情がわからない五十幡がオロオロしながら降りて来ると、安に指示され彼の横に立った。西崎、嶋田が降りて来た。安、松川が、西崎たちをガードするようにそのまま、向かいのビルの入口に歩いて行った。

谷河口が、周りを見渡しながらベンツGLEに乗り込む。西崎たちがビルの中に消えて行くのを見届けると、ゆっくりと車が動き出した。駐車場を探しに行った。駐車場を見つけ駐車させると、西崎たちが入ったビルに向かった。


受付の前に五十幡が待っていた。五十幡に案内されエレベーターで6階に上がる。6階の廊下の長椅子に座り安と松川が座って待っていた。

「何かおかしな様子はあったか?」

安がそう訊ねて来た。

「嫌、何も」

「もう何も起こらないかもしれませんね」

松川が、こちらの答えにすぐさま反応した。

「そうであればいいが、それはなかなか考えにくい。気は抜かない事だ」

「き、気は抜いてませんよ」

そう言って、松川が唇を尖らせた。

「もし相手が戦闘態勢を取っているとしたら、こちらがのほほんとすると間違いなくやられる」

代わりに安が、念を押しに松川に続けて言った。

「相手には、ターゲットに既に捉えられているかもしれない」




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