首狩り虎
ちょ、待って待って直進はマズい。いま散弾銃を肩付けしてるから右方向への射撃は無理だし正面も
「ジュニパー、もうチョイ右
「大丈夫、わかってる!」
こちらの動きに反応して前衛に出てきた護衛の騎士たちを、俊足
「よし!」
よし、ってお前。そんな接敵から数十秒で。偉そうなボスエルフの頭だけがポーンと宙を舞い、周囲の兵たちが唖然として硬直する。射撃を忘れて振り返ったあたしは、そこで兵たちの反応が驚きによるものではないことに気付く。
わずかな間を置いてコロコロと首が落ち始めたからだ。周囲を見渡すたびに棒立ちの兵士が次々コロコロと頭を転がしながら崩れ落ちてゆく。
「え、なにそれ怖い!」
「ヤダルさん、すっごい速いね⁉︎」
そら誰の仕業かなんて聞くまでもなく、わかってはいる。草原を
トラジマは丈の長い草むらに隠れるための模様だって、聞いたことはある。そういう問題じゃねえ。あのひと、隠れてねえし。見えないくらいの速度で駆け回ってるだけだし。
「シェーナ、左お願い」
「お、おう」
あたしは気を取り直してショットガンを構え、こちらに展開してきた騎兵を撃ち倒す。散弾なら難なく兵を殺せるにしても、あたし程度の腕だと問題になるのは馬を傷つけずに済ませられるかどうかだ。ジュニパーもそれがわかっているので、可能な限り接近して射撃のタイミングを図ってくれてる。
少しばかり、過剰なくらいに。
「いいよシェーナ、次七つ目、左奥
「おう」
接待めいた流れ作業で、遊園地のジャングルクルーズみたいになってる。それで殺されるのは敵ながら不謹慎ではある。その間にも魔導師は着実に仕留められているようだ。丘の方から銃声が響くたびに草原のあちこちで青白い光と悲鳴が上がる。敵集団はパニック状態になっているが開けた地形で逃げ場もなく、隠れる場所も草むらしかない。そして、その草むらには首狩りの虎が潜んでいるのだ。
「当たり、次八つ目、右後方のを狙うから大きく左旋回するね」
これ、どっかで聞いたことがある。右折が苦手な若葉マークのドライバーは、左折を三回で右に曲がるとかいう話だ。実際いま右旋回されると、あたしは敵の横を通過後にしか撃てない。
「まとまって三つ、その後に奥の三つ」
「はい次で最後だよ、あの低木脇の茂みに隠れてる騎兵」
「……騎兵? 馬は?」
「逃げちゃった。でも間違いないよ、ほら左手に革手袋してる」
そんなもんか。なんにしろ殺すんだから騎兵でも歩兵でも弓兵でも一緒だ。役割分担として、あたしは騎兵担当というだけだ。
最後のひとりは馬を捨てて動きが遅い上に甲冑も着てない。となれば散弾を使わず収納から出したルガー・レッドホークで十分だ。装填したままだった38スペシャルで撃つと、胸を押さえて茂みを押し潰しながら倒れた。
ドワーフのミスネルさんから事前に聞いた情報では、“騎馬が二十に徒歩の弓持ちが五十、魔導師が五”だった。ミュニオ担当の五体はともかく、
「ジュニパー、最後に死体を回収して回るの付き合ってくれる?」
「りょうかーい」
疫病を広めないための安全措置というのもあるけど、それより重要なのが死んだふりしてる奴がいないかの確認だ。収納に弾かれたら息があるってことになり、とどめの一発が加えられるわけだ。
「シェーナ、見た感じ七十五人以上いるね」
「うん。そこのちっこい一団が定数外か。なんでかヤダルさん、殺してないな。彼らは兵士じゃないのか?」
「奴隷だ」
あたしとジュニパーの質問に、いつの間にか現れていたヤダルさんが答える。謎の集団は十人ほど。倒れてはいるが、さっき収納からは弾かれた。
「首に着けられてるのが、“隷属の首輪”ってやつだな。あいつらだけは気絶さしておいたけど、必ずしも信用できる相手じゃないから判断に困る」
「エルフじゃないよな。ドワーフか? 少し……じゃなく、かなり小柄だし」
「この大陸にしかいない特殊な種族で、あたしが“魔女”から聞いた話じゃ、ドワーフの遠い親戚らしいぞ」
また“魔女”か。エリの親父さんの上司も魔女だったっけな。ともあれ、ヤダルさんが生かしておいた連中にあまり良い印象がないのは、歪めた口元でわかった。なのに、この歩く殺意みたいな姐さんが殺してないってところで、あたしたちもリアクションに困る。
「
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