第16話
「亜人……?」
「そうだ。私がいた世界には、そういう種族がいた」
「で、実は萌乃もそういった亜人の末裔だと」
「う、うん……でもわたしは中途半端にしか受け継がれなかったから耳だけが生えるの」
「なるほど……ってなるかああああああああああああああ!!」
一体どこからツッコミすればいいんだこれは!?
「私に叫ばれても困る、私も亜人についてはよく知らないんだ」
マーちゃんは真顔で首を横に振った。今までよくわからんことだらけだったけどますます訳がわからなくなってきたぞ。現代に戻ってきたつもりでいたけどここは本当に現代なのか? なんか別の世界線に飛ばされたりとかしてないよな? いやそもそも俺は本当に俺なのか? 今の俺は俺ではない俺が俺で俺俺俺俺俺俺俺俺俺――――!
……一旦冷静になろう。そして、疑問点を一つ一つ解消していこう。
「まず萌乃。なぜ君が亜人の血を継いでいるんだ」
「母方のおばあちゃんが……こことは違う異世界から来たらしいの……それで……」
「つまりそのおばあちゃんが亜人だったから、萌乃にも亜人の特徴が遺伝していると?」
「う、うん……」
「なるほどね……って納得出来るか!」
「ご、ごめんね……でもわたしにもよくわからなくて……」
俺は頭を振って思考を整える。そもそも異世界人が目の前にいるんだからもう細かいことを気にしてもしょうがない。うん。そう思わないとやってられない。
「もえのん、お前は一体ハヤトの何なんだ」
「えっ? この耳については……?」
「そんなことはどうでもいい。私はお前とハヤトの関係について知りたいんだ」
黙って俺と萌乃のやり取りを聞いていたマーちゃんが唐突にそう言うと、萌乃は俺を怯えた目で見つめてきた。
「早斗くんは!? わたしのこの耳! どう思うの!? ねえ!」
ちゃんと答えろ、と言わんばかりに萌乃が俺に顔を近づけながら尋ねてくる。彼女の頭部には普通の人間にはありえないパーツがくっついている。それを見ながら、俺は口を開いた。
「可愛いと思うよ」
「ほんと!? 気持ち悪いとか、ないの……?」
「う、うん」
俺が頷いた刹那、萌乃が大きな瞳を潤ませ、そこから大粒の雫を流した。
「泣かせたな」
「え!? あ、いや……ご、ごめん!」
「違うの! ……わたし、嬉しくて…………今までずっと……怖かった……気持ち悪がられて……嫌われるんじゃないかって…………」
「そんな……気持ち悪いなんて思わないよ」
「実に可愛らしいぞ。ソーキュートだ」
薄く微笑みながら優しげな声でマーちゃんも俺に続けて温かい言葉を萌乃にかけた。のはいいんだけどさ。いいんだけれどもさ。
「……可愛いよ、萌乃!」
「今更私の真似して言っても遅いと思うぞ」
俺はマーちゃんの頬を両手で引っ張った。こうでもしないと何かもう気が済まない。
「ほひ! ふぁふぇおお!」
「……ふふ。あはははは!!」
その光景を見て、萌乃は涙を袖で拭いながら明るい声で笑った。
「ありがと二人とも。秘密を打ち明けたらすっきりした! じゃあね!」
そして萌乃は自分の鞄を手に取ると玄関へと向かって行った。
「おい待て。まだ質問の答えを聞いてないぞ」
マーちゃんが咄嗟に呼び止めると、萌乃は俺を一瞬観て微笑んだ後、深く息を吸った。そして――。
「マゼンタちゃん。あなたの、ライバルだよ!」
大きな声でそう言って、家から出て行ったのだった。
「おい、私と彼女はいつライバルになったんだ?」
「俺に訊かれても困る」
色々とわからないことだらけだが、なんだかんだ上手くやっていけるだろう。俺はそう思いながら、マーちゃんの赤くてさらさらな頭を上から撫でたのだった。
「おい! 急に撫でるな!」
この子となら、きっと大丈夫だろう。……大丈夫だよな?
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