「アパートメント」 ブレンダ・リングステンバーグ

さざ波の音が聞こえてくる隣の部屋

寄せる波のたびに壁の隙間から海水が流れ込み

返す波のたびに私の部屋から

積もった綿ぼこりや

ペットの猫の食べかすや

差し込んだ西日の赤さえ

持ち去っていく


盗賊たちが酒宴を挙げる反対隣の部屋

腹から響く歌声が聞こえるたび

盗品が壁の隙間から溢れてくる

富豪から盗んだ満たされない心や

恋人たちから盗んだもつれた赤い糸を

輝くことのできない数多の星に

盗賊たちは転売する準備をしている


盗品を拝借して反対の壁に置くと

さざ波がそれを持ち去って

回遊魚と共に海流に乗って

今まさに入水自殺せんとする人の

大切な宝物になるのだろう


それに少しでも関わっているのなら

私もこの惑星で生きていけるだろう


(『常備薬』無頼書房)

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