一章 七節
翌日、アイギパーンの服に身を包んだアメリアはコンラッドに借りた筒状バッグを背負い、ティコを空港へ送った。非番だったので首都へ戻り被害者が住んでいた高級住宅街を歩き物想いに耽った。いつの間にか足が大きな公園へと向かっていた。
ベンチにはネイサンが座していた。彼は本を読んでいる。
「久し振り」アメリアはネイサンの顔を覗く。
「やあ、久し振り。アメリア、今日はとってもお洒落だね」ネイサンはオフショルダー・ネックラインの白いサマーニットを見て微笑んだ。
「ありがとう。今日はこれを着なきゃいけなかったの」アメリアは微笑み返す。
「デート?」
「まさか!」
「なんだー。とても可愛いから彼氏は喜ぶと思ったのに。話し相手が僕なんかでごめんね」ネイサンは眉を下げて笑った。
瞬時に頬を染めたアメリアは話題を変える。
「稽古はお休みかしら。何を読んでいるの?」アメリアは隣に座した。
「ハムレットだよ。現代劇に直した物なんだ」ネイサンは微笑む。
「面白そう! 劇団で上演するの?」
「うん、今度の上演でね。だけど僕は今回も裏方の使いっ走り。でもいつか舞台に立ちたい。……こんな事続けてれば親不孝だって分かってるんだけどさ」ネイサンは台本を閉じると寂しそうに微笑んだ。
「親御さんは反対してるの?」
「趣味よりも家を継いでくれって。僕の家、刃物屋でさ」ネイサンは溜め息を吐いた。
アメリアは店名を問うた。ネイサンは百年以上続く老舗の刃物屋の名を口にした。アメリアは驚いた。以前、料理好きのイポリトが愛用している包丁をそこで買ったんだと自慢していた。
「そんな有名なお店の人だったのね」
「古いだけだよ。日中は少し手伝ってるんだ。この間の電話も手伝いの呼び出し。この街に根差して長くやってきた事は子孫として誇りに思うよ。……僕がやりたい事とは違うけど」ネイサンは溜め息を吐いた。
アメリアは瞳を閉じる。人間を愛した父さんもきっと同じ事で悩んだに違いない。魂を肉体から切り離し運ぶ『死』の仕事は人に寄り添い『喜びを与える』仕事とは違う。しかし『誰かの役に立ち、心を慰める』という本質はどんな仕事も変わらない。
「ネイサンは何故役者を志したの?」アメリアは瞼を開いた。
「別人……悪役になれるって事もあるけど、一番は様々な人生の一瞬を舞台で過ごせるからかな。王様になれるし乞食にもなれる。果ては神様や妖精、ドラキュラにだってなれるんだ! 素敵だよね!」ネイサンは微笑んだ。
アメリアも微笑む。
「演劇も文学も美術も音楽も、様々な世界で色々な人に出会えて素敵よね。あたし芸術って大好き」
「僕も大好きだ」ネイサンは頷いた。
「……それと同じく刃物屋の仕事は様々な人生の一瞬に触れられるわ。美味しい料理を作る奥さんへ包丁をプレゼントする旦那さん、料理対決の為に最高の包丁を誂える料理人、初任給でメイクに使う毛抜きを買い求める若い女性、赤ちゃんの爪切りハサミを買いに来るお父さん……様々な人生の一瞬に触れるわ」
瞳を目一杯開けたネイサンは彼女を見つめた。アメリアは微笑む。
「役者も裏方も刃物屋も葬儀屋も皆、人の一瞬に触れて慰める素敵な仕事よ」
ネイサンは地面を見つめた。
彼は微動だにしない。不味い事を言ったかもしれない。アメリアは眉を下げる。でも事実を言ったまでだ。これで傷つくようなら役者への想いも家業への想いもその程度だったのだ。
唇を引き結んだネイサンは顔を上げる。
「……今日はもう帰るよ」
アメリアはネイサンを見上げた。
「店の手伝いをしたくなった。アメリアは素敵な事を教えてくれるね!」ネイサンは満面の笑みを向ける。
アメリアは微笑み返す。
するとネイサンはアメリアを抱きしめた。
「大好きだ! 君は最高の親友だ!」
驚いたがアメリアは強く抱きしめ返した。
ネイサンはアメリアと握手を強く交わすと踵を返した。足取りは軽く、鼻歌を歌っていた。
楽しそうに歩くネイサンの後ろ姿をアメリアは見送った。しかしまた突き刺すように凝視する視線を背で感じた。勇気を出して振り返るが誰もいない。
腕に立った粟を撫でると足早にノーラへ向かった。
ノーラのレジカウンターではコンラッドが発注商品を段ボールから出していた。
「こんにちはコンラッド。今日は借りてたバッグを返しに来たの」アメリアはたすき掛けに背負っていたバッグを下ろすとカウンターに置く。
「待ってたよアメリア。随分久し振りだね。今日はとても可愛らしいね。君は首が長いからオフショルダーのニットがとても似合うよ」コンラッドは手を止めアイギパーンの服に身を包むアメリアを見入る。
「ありがとう。毎日バイクで店の前を素通りはしたわ。でもあなたと話すのは二週間振りね」
「寄ってくれればいいのに」コンラッドは眉を下げて子犬のように微笑んだ。
「何も買わない上にバッグも持っても無いし、アイギパーンの服も着てなかったもの。だから今日はバッグを返しがてら約束の服を見せに来たの。以前コンラッドはアイギパーンの服をモデルに人形の服を作りたいって言ってたでしょ」
「服もバッグも無くて構わないよ。僕はアメリアに会えるだけで嬉しいんだ」コンラッドはアメリアを見つめた。
頬を染めたアメリアは悪戯っぽく微笑む。
「……上手ね。優しくて人形のように美しくて素敵なコンラッド。そんな人形の国『ノーラ』の王子様に口説かれたらどんな女性だって落ちてしまうわ」
「アメリアだけだ。僕が夢中なのはアメリアだけだ」コンラッドはアメリアを見据えた。
「……何故、あたしなの?」小さな溜め息を吐いたアメリアはコンラッドを見据える。
「君は美しい」
「他の女性だって綺麗よ? 人形教室に来ていた女性達だって。ちょっぴり焼き餅焼きだけど」
「君は誰よりも美しいんだ」
「……じゃあ、何が美しいって言うの?」
コンラッドはアメリアを抱きしめた。
アメリアは瞬時に肩を跳ね上げた。グラスを受取ろうとしてコンラッドの手に触れた時と同じく、彼は氷のように冷たかった。ステュクスのバーテンダーであるホムンクルスのパンドラも体は氷のように冷たい。しかしコンラッドの体は物悲しい冷たさを放っていた。
「闇のように黒い髪、青白く光る不思議な瞳、意志が強そうな眉、小さくて愛らしい唇、引き締まった体……アメリアの全てが好きなんだ。……君はとても美しい。君の中に入りたい」
冷たい吐息が首筋に掛かったかと思うとコンラッドの唇が首根を吸う。
背筋が凍る。先程別れたネイサンの言葉がアメリアの脳内で甦った。
──アメリアは素敵な事を教えてくれるね!
──大好きだ! 君は最高の親友だ!
コンラッドが見ているあたしはネイサンとは全然違う。親友のネイサンは内面を見てる。でもコンラッドは……。
アメリアはコンラッドを突き放す。
「あたしは人形じゃない!」
コンラッドを睨む。
しかしきつい事を言った。アメリアは視線を床に落とす。
「……ごめんなさい。その……お互いを全く知らないもの。……また来るわ」
踵を返したアメリアは店を後にした。
早足で通りを渡り二階建てバスを利用して帰宅したアメリアは玄関のドアを解錠した。すると中から凄まじい形相をしたブロンド女性が飛び出す。アメリアは瞬時に体をかわした。厚化粧の女性は廊下を駆け抜けた。驚いたアメリアは振り返ると女性の後ろ姿を見送る。女性は着崩れた派手な服をはためかせて消えた。イポリトが連れ込んだ売春婦か好き者の女だろう。
一体何があったの!?
アメリアは急いでブーツを脱ぐと駆けつける。廊下とリビングを隔てるドアは開け放されていた。リビングからイポリトの悲鳴が断続的に聞こえる。
「何事!?」アメリアはリビングに入る。
眼前の光景に息を飲んだ。フォークを構えたユーリエが半裸のイポリトを狙っている。追い払うイポリトをあざ笑うかのようにユーリエは器用に飛び跳ねフォークで彼の体を突き刺していた。
その光景を暫く眺めていたがアメリアは堪え切れずに腹を抱えて笑い出した。
「しっ! しっ! おら、ハウス!」
イポリトの手をユーリエは軽やかに体を交わす。
瞳に涙を浮かべ笑っているアメリアにイポリトが気付く。
「何だこの座敷童は!? ンなモン拾って家で飼うな! ベランダに繋いでおけ!」
ペット扱いを受けたユーリエは腋にフォークを突いた。イポリトは悲鳴を上げた。
「ユーリエ、やめて。そいつ、家族だから」
フォークを収めたユーリエは飛び降り、散乱したクッションを飛石代わりに跳躍しアメリアの肩へ乗った。
フローリングに尻を着いたイポリトは顔をしかめ肩や背を押さえる。上半身のそこかしこには規則正しい四列の穴が空いている。フォークの痕だ。
「お帰り。ハウスルール守らない罰が当たったのかもね。今回も娼婦さん呼んでるのにも関わらず玄関のドアノブにキーホルダー掛けてなかったし」アメリアは白い救急箱から軟膏を取るとイポリトに差し出した。
「ンな事一々覚えてられっか」イポリトはアメリアを見上げ鼻を鳴らす。
「いい加減ルール守ってよ! イポリトがルール破る度にあたしはソファでファックしてるイポリトの尻を見る羽目になるの!」
「あ? タダで生のエロ動画見られるんだからいいじゃねぇか」
「馬鹿!」
声を荒げたアメリアを案じたユーリエがフォークを構えた。
「ンだよ、この小悪魔は。ユウにそっくりじゃねぇか」イポリトはユーリエを見遣る。
「可愛いでしょ? 大きな公園の側の人形店で買ったの。名前はユーリエ。息を吹きかけたら動くようになったの。喋れないみたい」
アメリアはイポリトの背にバンドエイドを貼りつつ、経緯を仔細に説明した。
「喋れねーつっても感情表現豊かだな。お前に似て乱暴じゃねぇか。アレか? 犬は飼い主に似るってやつか?」
イポリトが減らず口を叩くとユーリエは跳躍しようと膝を屈めた。アメリアはそれを窘めた。
「誰だって自宅に変な男が入ってリビングで事に及ぼうとすれば怒るでしょ?」
「俺は家人だ。このソファの主も俺!」
アメリアは溜め息を吐く。
「……前から想ってたんだけど、ファックするのにどうしてこのソファ使う訳? 自室でやれば良いじゃん」
「俺の主義だ。俺のベッドには遊びの女は上がらせない。リラックスする場所と発奮する場所を分けてんだ。お前はパンツ下ろしながらジーンズ穿けるか? そう言うこった」
「主義だとか言ってるけどさ、単に部屋が汚すぎるから連れ込めないだけでしょ? イポリトの部屋ってエロフィギュアや映画のDVDに筋トレグッズでグッチャグチャじゃん。帰宅してから部屋見た?」
「あんだよ、急に」イポリトは鼻を鳴らした。
「イポリトが極東へ行ってる間、入れ違いでティコが来てイポリトの部屋を整理したの。大丈夫。物は一切捨てられてないしとっても綺麗になったから」
瞬時にイポリトの表情が険しくなった。彼は立ち上がると自室へ駆け込んだ。数秒後、悲鳴が聞こえた。アメリアは駆けつけた。ティコの采配によって片付いたフローリングにはアヒル座りのイポリトが愕然としていた。
「片付いたくらいでそんなに驚く?」アメリアは屈む。
「驚くわ! なんちゅー酷ぇ事をしてくれるんだよ! 触らすなって言ったのに!」
「大事な物ばかりだから捨てないように、壊さないようにって言ったわよ。ティコも捨てたり壊したりしてないって」
「俺の心が壊れるわ! 廃人にするつもりか! 見ろよ!」イポリトは本棚を指差す。
分類別された専門書やDVDが棚に収められ、空きスペースには自作のエロフィギュアが飾られていた。デスクの片隅には雑誌が詰まれワークスペースが確保されていた。工具や筋トレグッズもツールボックスに収まり壁に立てかけられている。
「整然として美しいじゃない。竜巻現場みたいな方が好きなの?」アメリアは鼻を鳴らす。
「阿呆! ンな事を言ってんじゃねぇよ。俺が言いたいのはだな!」イポリトは立ち上がるとエロフィギュアが並んだ棚の天井板から付箋を引き剥がし、アメリアに見せた。
付箋の文面をアメリアは声に出して読んだ。
「なになに……『乳首がこんなに綺麗なピンク色の女はそうそういないよ。お前さんはヤリチンの癖にいつまでも夢見る坊やだねぇ』」アメリアは絶句した。
顔をしかめたイポリトはデスクに積まれたポルノ雑誌のページを乱雑に繰る。するとページの間にポストカードが挟まっていた。それを取るとアメリアに寄越した。
音読する気が失せたアメリアは眼を通した。
『このページの女、おっぱいにシリコン入れてるよ。お前さんはおっぱい星人の癖にシリコンの方がいいのかい?』
項垂れたアメリアはポストカードを突き返した。もし自分が男だったらこれは相当報える。部屋を母親に勝手に片付けられ、隠していたエロ本をデスクに積まれる事よりも報える。
イポリトはポストカードを乱暴に丸めてフローリングへ放った。
「まだある筈だ! チェストの中、クローゼットの中、DVDの箱の中……あいつはデリケートな男心を抉るのが天才的な悪魔だ! これじゃマスもかけねぇ!」イポリトは歯ぎしりする。
「……なんて言うか……その……ごめん」アメリアは頭を下げた。
部屋に隠されたティコの悪戯の痕跡をアメリアは探した。
整然と片付けられているがデスクの天板の下やDVDの箱の裏側、ゴムの箱の蓋等様々な場所に男心を抉るコメントが貼られていた。アメリアはイポリトを哀れむと同時にティコの悪魔的閃きと辛辣な言葉を恐れ、腕に立った粟を撫でた。
サイレント映画のDVDの箱を開けると写真が出て来た。それは古びたモノクロ写真で左からティコとローレンス、青年のイポリトが写った物だった。写真の左側が折られ、ティコがローレンスとイポリトから分断されている。アメリアは写真を引っくり返した。裏面にはティコのコメントが書かれてない。代わりに汚い字で『クソばばあ、早くくたばりやがれ』と綴られていた。イポリトの字だ。
ノックの音がした。アメリアは急いで写真を収めるとDVDの箱を棚に戻した。彼女の返事を待たずしてイポリトはドアを開けた。
「返事してないのに開けないでよ」アメリアは睨む。
「あんだぁ? マスでもかいてたか?」
「馬鹿! イポリトじゃあるまいし。で、何?」
「晩メシ出来てんぞ。んで、あれから何処までチェックしたんだ?」
「大体終わった。チェストもクローゼットもプラモデルの箱の裏もちゃんとチェックした。あとはサイレント映画のコーナーだけ」アメリアはゴミ袋の口を掴んで揺する。乾いた音が鳴る。中はティコが記した付箋やポストカードで一杯だ。
「ご苦労さん。後は見なくていい。付箋が残っていても映画のコメントだからダメージは無い」イポリトはドアを閉じるとリビングへ戻った。
ゴミ袋の口を閉じたアメリアは玄関に放るとリビングへ向かった。
イポリトが作ったインドカレーを食べるのは久し振りだった。市販のカレー粉をベースに専門店で購入したスパイスを混入したオリジナルのカレーだ。アメリアはこのカレーが大好きだった。食事を摂りつつ土産話を聞いた。
イポリトは極東の島国をヒッチハイクと高速バスで北から南下していたらしい。北の山では麓のコンビニで購入したワンカップ酒を妖怪と共に酌み交わした。首都の繁華街では美人に耳かきをして貰える店に行った。初めて耳かきをして貰ったイポリトは気持ち良過ぎて美人の膝に涎を垂らした。首都の側の港街では商会の親爺さんに気に入られ派手な刺繍のジャケットを格安で譲って貰ったらしい。西の古都の大きな公園では餌も持っていないのに沢山の鹿に後をつけられた。最後に立ち寄った地域では豚ベースのスープヌードルについていた葉物のピクルスが美味くて気に入ったそうだ。
「充実した旅行だったじゃない。それに友達も出来て羨ましいな。妖怪って極東の異形の神みたいな存在でしょ? イポリトって社交的だよね」アメリアは笑った。
「おう。あっちの妖怪や神さんはよ、気がいい連中なんだ。信仰心薄い人間が多いから信者の取り合いでギスギスしてんじゃねぇかって想ってた。けどよ、妖怪や神さんは手を取り合って生きてんだ」
「理想的ね」
「そこかしこに神さんや妖怪がいてな、ヤオヨロズってやつか? 旅の便宜を図ってくれて助かったぜ。またあの島国行きてぇな」
アメリアは眉を下げて溜め息を吐いた。神を信じる者が少なくても神や妖怪の仲が良いなら何とかやっていけるだろう。正直羨ましかった。
「あんだぁ? また辛気臭ぇ顔して。親父そっくりだな」イポリトはアメリアの顔を覗く。
スプーンをレストに置くとアメリアは旅行中に起きた事を話した。他神族の神に挨拶しても挨拶を返されなかった事、ハデスに他神族との情報共有や連携を頼もうとしたがわだかまりがあって不可能な事をストーカーの事案を伏せつつ吐露した。イポリトは彼女の瞳を見据え、話を最後まで聞いた。
「……人間が辛い想いをしてるのに神々が下らない事で牽制し合って悲しくなってさ。それぞれ人を導く形は違う。『人の幸せを願い、人と共に生きる』って事は一緒なのに、どうしてこんな時だけでも協力出来ないのかなって。理解出来なくてもお互いの存在を認める事は出来ないのかなって」アメリアは深い溜め息を吐いた。
イポリトの脳内で大戦中に戦場を駆けずり回っていた自身とアメリアが重なる。
俺とこの女は同じ志を抱いているんだな。
悲しそうに微笑んだイポリトは尻ポケットから携帯電話を出すと電話をかけた。
「……もしもし、ひょんひょん? 俺々。……違ぇって詐欺じゃねぇよ、イポちゃんだよ。そっちは早朝だったか。悪ぃな。頼みがあんだけどさ、いい? あのな、こっちで事件が起きててよ、それをアメちゃんが何とかしようってんだ。しかしな解決してぇのに他神族の神さん達が牽制し合って連携とれねーんだわ。ひょんひょんが大好きなアメちゃんが泣いて困ってんだとよ。……おう。話が早くて助かるわ。じゃ、落ち着いたら適当になんか送るわ。……分かってる、分かってる、ビールやウィスキーがいいんだろ。とにかくありがとな。んじゃ」
イポリトは通話を切った。
「誰と電話したの?」アメリアは問うた。
「妖怪ぬらりひょん」イポリトは尻ポケットに携帯電話をねじ込んだ。
アメリアは愕然とした。妖怪達を総轄する大将ではないか。
「そんなボスと友達になったの!?」
「おう。気のいいじじいだ。極東列島の北山で酒酌み交わしていたら仲良くなってよ。お前の画像見せたら甚く気に入っちまって『可愛いアメちゃんが喜ぶなら何でもしたい』んだとよ。宛先教えるからお礼に使用済みパンツでも送っとけ」
アメリアはイポリトの向こう脛を想い切り蹴り飛ばした。
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