第147話 呼び出し

 演説を終えた翌日、5月6日日曜日の朝。僕はアルムガルト王都邸にまだお邪魔していた。本当はグイードさん達と家族を連れてゲーニウス領に戻ろうとしたんだけど、陛下と宰相のアルノルトさんと内務大臣のマテウスさんに引き留められた。それはもう必死で。


 というわけで、仕方なく僕はまだ王都にいます。グイードさん達には家族と過ごすように伝えて、王都郊外の森にある模造アルムガルト王都邸に滞在してもらっている。面倒に巻き込まれるのは僕だけで十分だよ。今回の件はね。


 それに何となくだけど、引き留められた理由も見当がつくしね。ああ、でも見当違いの事だったらどうしようか。ま、今は考えても仕方がない。その時はその時さ。朝食を摂りながらそう思っていると、王城から使者が来たようだ。ジーモンさんが対応してくれているらしい。急いで食事を進める。


 食後、すぐに応接室へと向かう。部屋に入るなり使者の人は「朝食のお時間に申し訳ありません。」と謝ってきた。僕は、「気にはしないので、用件を。」と伝えると、王家の封蝋印が押された書状を渡してきた。僕は嫌々ながらもそれを受け取り開封して中身を読む。そして、ため息をつく。


「ジーモン殿、王城へ行くので準備の手伝いをお願いする。」


「かしこまりました。閣下。」


 使者の人は僕の言葉を確認すると王城へ戻っていったよ。あー、面倒だなあ。メイドさん達に服を選んで着付けてもらいながら、ため息をつく。


「あら、閣下。王城からのお呼び出しがそれほどお嫌ですか?」


「えーっと、嫌ってわけではないんですけど、なんか面倒なことに巻き込まれそうで。」


「閣下なら大丈夫ですよ。昨日の演説も素晴らしかったですし今までも苦難を乗り越えてこられたのでしょう?」


「あれは、みんながいましたからね。でも、今の僕は1人ですよ。1人で出来ることなんてたかが知れていますよ。」


「そう仰らずに。・・・。はい、できましたよ。」


「ありがとうございます。」


 お礼を言って玄関ホールに向かう。すでにジーモンさんを筆頭に使用人さん達が整列していた。僕の着替えを手伝ってくれたメイドさん達もその列に加わる。


「「「「「ガイウス閣下、いってらっしゃいませ。」」」」」


「ええ、いってきます。」


 玄関を出たら、厩舎員さんから馬をもらい、騎乗して王城へと向かう。少しでも楽しいことを考えながらゆっくりと。途中で巡回中の顔見知りの衛兵さん達とも会って、世間話をしながら馬の歩みを進める。だから、普通なら15分はかからない道を30分以上かけて進んだ。


 王城の正門には門番の近衛兵さんが2人と、あの人は確かカレルさんだったかな。ベアトリースを捕縛するときの近衛の指揮官だった人だ。その人が、じっと立っている。あー、これはあれかな。もしかすると、僕の出迎えだったりして。外れていてほしいなあ。しかし、そんな願いも届かず、カレルさんが駆け寄って来て、


「ガイウス閣下、お待ちしおりました。陛下と宰相閣下、内務大臣閣下がお待ちです。」


「カレル卿だったか?すまん、顔見知りと途中で会ってな、少しばかり話し込んでしまった。陛下とお二方を待たせてしまっていたか。お怒りを買わねば良いのだが・・・。」


「いえ、陛下とお二方とも閣下がお越しになるのを今か今かとお待ちでしたので、お怒りになられることは無いかと。」


「ふむ、ならば安心した。さて、門を通してもらえるかね。」


「もちろんです。閣下。馬のほうは厩舎員に。では、私がご案内いたします。あっ、自己紹介が遅れました。近衛第1軍団所属のカレル・メールローと申します。男爵位を賜わっております。」


「これは、ご丁寧に。どうも、ありがとう。」


 その後は、国王陛下の執務室に会話をしながら向かった。


「いえ、本当は最初に名乗らなければならなかったのですが、一度お会いしたこともあり、すっかり頭から抜け落ちていました。」


「なにそのくらいリラックスしながら仕事をするのも大切だろう。近衛だからと云って四六時中、気を張っていても疲れるだけだろう?」


「閣下は変わられた方ですね。大抵の私より爵位が上の方々はお怒りになられます。」


「ふむ、それは、私が平民上がりだからだろうさ。しかも、見ての通り12歳の子供だ。はっきりと言って貴族のやり取りはつまらん、くだらん、ノロい。そう思っている。ただの挨拶でさえ華美な言葉を選び装飾し、相手が自分より上位なら持ち上げる言葉を選び、下位ならば脅すような言葉を選ぶ。そして、ゆったりと動くこと、時間を無為に潰すことが至高の贅沢だと思っている者もいる。ああ、しかし、今日の私は結構ゆったりだったな。反省しなければ。ん?どうしたカレル卿。そんな驚いた顔をして。」


「あっ、いえ、昨日の演説もですが、ハッキリとモノを仰られるなあと思いまして。」


「うん?そうかね?いや、そうかもしれない。以前はこんなことは無かったのだが・・・。」


「爵位と領地を賜り責任感が生じたのではないでしょうか?」


「責任感・・・。確かに冒険者のみをやっていた時は、自分と仲間の命を考えればよかった。しかし、辺境伯となり領地を下賜かしされてからは、民と国をまもるのだという考えが大きくなっている。卿の言う通りだな。ありがとう。自分でも気づけないことに気づけた。」


「いえ、閣下。閣下ならいつか気付けていたでしょう。っと、着きました。陛下の執務室です。少々お待ちを。」


 そう言って扉をノックするカレルさん。


「ガイウス・ゲーニウス辺境伯閣下をお連れしました。」


 扉が少しだけ開き、護衛の近衛兵さんが声をかけてくる。


「どうぞ。閣下。お入りください。陛下がお待ちです。カレル様、“案内ご苦労”と陛下のお言葉です。」


「では、私はこれで。」


「ああ、ありがとう。カレル卿。」


 カレルさんにお礼を言って、執務室に入る。するとそこにはぐったりとした様子の陛下とアルノルトさんとマテウスさんがいた。そして、大量の紙、いや書状?うーむ、声をかけづらい。いや、かけたくない。絶対に厄介事に引き込まれる。でも、“ガイウス、至急、私の執務室まで来てくれ”と書状で呼び出されたのだから仕方がない。声をかけよう。


「ガイウス・ゲーニウス、お呼び出しにより、ただいま参りました。」


 3人の顔がゆっくりと僕に向く。怖いよ!!というか眼の光が消えているし。


「おお、ガイウスよ、よくぞ参った。ああ、内々の話しなので護衛の者は廊下にて待機しておくれ。」


 護衛の近衛兵さん2人が頭を下げて退室する。僕はすぐに【風魔法】で防音の障壁を作る。それを確認した3人が一斉に口を開く。


「「「助けてくれ。我々ではどうにもならん!!」」」


 まずは何があったのか聞いてもいいですか?それと、その紙?書状?の山の説明も。

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