第85話 授爵

「陛下。ガイウス殿の実力を考えれば、確かに騎士爵ではなく、それよりも上位のくらい相応ふさわしいかと思いますが、伯爵位はどうかと・・・」


 おお、宰相様が、おそらくはこの場にいるみんなが思っているであろうことを言ってくれた。もっと言ってくださいよ。宰相様。すると、陛下は考えるように顎に手をやり、


「ふむ、確かにあの領地では伯爵位は駄目であろうな。辺境伯の地位を授けよう。家名はそうだのう・・・。“ゲーニウス”と名乗るがよい。」


 なんか上がっちゃったんですけどー。そして家名も貰いました。しかし、アドロナ王国だと、辺境伯って地位的には侯爵と同等かちょっと上ぐらいだよね。えー、どうなるのさ、僕。


 貴族様方は顔を赤くしたり、青くしたりして固まっているし、武官の人たちは「国境の国軍を引き揚げる事ができる。」「新興の辺境伯軍が形になれば国防戦力が上がるな。」と相談を始めているし、文官の人たちは「王領から辺境伯領になれば、税の見直しが必要だな。」「新興貴族家にあたるのだから、幾らかの助成金を出せねばなるまい。」「帝国との国境のナーノモン領だからな。軍備費は惜しむことはできん。」とお金の相談を始めている。


 というか、武官と文官のみなさんは僕が辺境伯の爵位を受け賜わることについては、決定事項と思っているようだ。


「ガイウスよ。お主には帝国と国境を接する、現在は王領であるナーノモン領を授け治めてもらう。今後ナーノモン領はゲーニウス領と改め、そのため辺境伯の地位を授ける。5月の終わりには執政がとれるようにしておくことを命じる。よいな?」


「御意に。」


 いや、もう「御意」って言うしかないじゃないか。期間は1カ月も無いんですけど!!そのまま、式は進められ、辺境伯としての地位を授かった。その後は、控え室に戻って、必要な書類と仮の貴族証を貰い、宰相様から「正式な叙任じょにん式をするので、また明日来るように」と言われ、僕は貴族街のアルムガルト辺境伯家のお屋敷に帰ってきた。


 帰った途端にみんが「おめでとう。」と口々に言うので、仮の貴族証を見せたら固まった。あの、アントンさんでさえ固まった。レナータさんはドラゴンだから人間の地位なんて関係ないのだろう。笑顔で、


「ふぅん、なかなかの地位を貰えたじゃない。よかったわね。」


 と言ってきた。いや、よくないんですけど。こちとら12歳の子供だよ。家臣とかどうするのさ。領地経営のできる人材を探さないといけないんですよ!?あー、もういいや。ちゃっと着替えて、お屋敷を出て、貴族街を抜け、王都の冒険者ギルドに行く。入った瞬間、ある冒険者が僕を指さし「あ、あいつですよ。アダーモさん」と言っている声が聞こえた。何の事だろう。まあ、どうでもいいや、依頼クエストを受けよう。魔物たちでストレス解消だ。


 依頼クエスト掲示板の前に立って悩んでいると、「あの・・・。」とスキンヘッドの大柄な筋肉モリモリの男性冒険者から声がかけられた。


「昨日、流れの冒険者に絡まれ、成敗していた方ですよね?」


 見た目のわりに丁寧な口調だね。僕は「はい。」と答えた。すると、彼は目を輝かせ、


「是非、自分と試合をしていただきたい。あ、自分は2級冒険者の“アダーモ”と云います。王都を中心に活動しています。」


「ご丁寧にどうも。僕は5級冒険者の“ガイウス”と云います。いつもはアルムガルト辺境伯領の“インシピット”を中心に活動しています。」


「となると、黒魔の森も?」


「はい、よく狩りに行きます。とは云っても、冒険者登録をしたのはつい先日の4月7日のことなんですけどね。」


「ほう!?1週間と少しで5級になられるとは。依頼クエスト功績をお聞きしても?」


「ええ、いいですよ。立ち話もなんですし、座って話しましょう。」


 そう言って、併設食堂の席に着く。果実水を2つ頼み、それを飲みながら話を進める。そして、僕の挙げた功績を説明していく。すると、彼は喜んだようで、


「素晴らしい。誠に素晴らしい。自分の依頼クエスト外のことも、周囲への脅威があるとみなせば対応する。その考えが素晴らしい。それに、冒険者になる前に女性冒険者2人と共に盗賊団を殲滅するなど、自分は感動いたしました。」


「それは、ありがとうございます。それで、僕との試合を望まれるとの事でしたが。」


「ええ、流れの冒険者とはいえ、大人の男8人を1人で倒した少年がいると聞きまして、どうしても実力が知りたくなったのですよ。ですが、今の話しを聞いて変わりました。是非ともガイウス殿のパーティに入れていただきたい。」


 そう言って頭を下げてくるアダーモさん。どうするかなあ。ま、取り敢えずこの話しをしないと、


「実は、今回、僕が王都に来たのには理由がありまして、その理由がこちらです。」


 そう言って、王家の紋章の入った召喚状を見せる。


「こ、これは・・・。中身を拝見しても?」


 手でどうぞと勧める。彼は、紋章に一礼してから召喚状の中身を見る。すると、目を見開き、すぐに落ち着いた。「ありがとうございました。」と召喚状を返してくれる。


「理由はわかりました。で、騎士爵に叙任されたので?」小声で聞いてくる。


「いえ、新たに家を興し、ナーノモン領を戴き、辺境伯にじょされることが決まりました。家名も“ゲーニウス”を授かりました。」


 僕も小声で返す。すると、アダーモさんは腕を組んで考え出した。その時に、少しだけ彼のことを鑑定した。


名前:アダーモ・ウベルティ

性別:男

年齢:28

LV:52

称号:2級冒険者、ウベルティ伯爵家三男

経験値:74/100


体力:321

筋力:342

知力:367

敏捷:351

etc


 なんと、彼は伯爵家の三男だった。それに能力も高い。歳は28と思いのほか、若い。ううむ。人材として申し分ない。知力も高いから文官仕事もできる。これは、パーティに入ってもらうより臣下として雇ったほうが、よいかもしれない。そう考えて口に出そうとした瞬間、


「ガイウス殿。申し訳ないが、パーティに加入させていただきたいという話は、無しにしてもらいたい。」

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