第15話 初依頼遂行

 練習場に着いた。相変わらず広い。そして、観覧ブースには人がみっちりといる。みんな僕とアントンさんの勝負を見に来た冒険者の人たちだ。どうやら、どっちが勝つか賭けをしているみたいだ。聞こえてくる声ではアントンさんに9割強、僕に1割弱の人が賭けているらしい。あ、ローザさんとエミーリアさんも賭けにいって僕に賭けたみたいだ。


 アントンさんと僕、それと審判のサブギルドマスターのアラムさんは待合室に入り準備を始める。アントンさんは両手で持つ身の丈ほどある木剣と普通の両手剣の木剣を、僕は両手剣の木剣といつも使っている弓に練習用の矢じりがなく丸められた布が巻かれた矢を矢筒に入れる。それと、今まで使ってこなかった短槍を手に取る。あとは革鎧に緩みがないかを確認する。アラムさんは僕たち2人が不正をしないか監視している。


「準備できました。」


「おれもできたぞ。」


「それでは、2人とも練習場の真ん中へ。」


 アラムさんを先頭に練習場に出る。すると凄い歓声が聞こえた。歓声のほとんどはアントンさんを応援する声だ。それに交じって僕を応援する声も聞こえる。特にローザさんとエミーリアさんの声はよく聞こえる。自然と笑みが出て変に緊張していた力が抜ける。


アントンさんとはアラムさんを挟んで50m離れて対峙する。アントンさんは腰だめに大剣を構える。僕は短槍を地面刺し、弓に矢をつがえる。アラムさんが一歩前に出る歓声が鎮まる。


「これより準3級のアントンと10級のガイウスの勝負を始める!!命の危険があると判断したときのみ勝負を中断する!!双方とも準備はよいか!!・・・・・それでは、始め!!」


 アラムさん挙げられた手が振り下ろされると同時に、アントンさんが真っすぐに跳んだ。僕は、弓を構え撃つ。1射目は大剣の腹で逸らされる。2射目は2本同時に射る。下半身と上半身を狙ったが下半身を狙った矢は大剣に叩き折られ、上半身を狙った矢は、上半身を反らして回避された。もう距離が縮まっている。最後に3本を顔目掛けて連射する。少し速度が落ちたのを見計らって短槍を引き抜く。


 ここからは短槍を主に使って攻撃する。僕もアントンさん目掛けながら走り出し、戟を振るう呂布の姿を思い出しながら、真似て短槍を横薙ぎに振るう。大剣で簡単に防がれる。大剣に当たっている所を軸にして短槍を回し石突で左足を狙う。しかし、左足の裏で防がれそのまま勢いよく蹴られた。堪らず姿勢を崩してしまった。僕は崩れた姿勢で大剣を振り上げる彼の姿が見える。防御するべきか回避するべきか一瞬悩んだが、あの声が響いて聞こえたので防御することにした。


「【経験値が貯まったのでLv.23】となりました。【弓術がLv.25】となりました。【防御術がLv.32】となりました」


 わざとバランスを崩して前傾でこけたように見せながら木剣を抜きつつ体を反転させ、僕目掛けて振り下ろされる大剣を木剣で流すように受ける。それでも、手が痺れるほどの衝撃だ。大剣はそのまま地面に叩きつけられる。土埃が舞い視界が一時的に奪われる。

 

 その間に弓矢と短槍を回収しようとしたが、短槍を回収したところに目の前一杯に土埃を切り裂きながら横薙ぎされた大剣が現れる。視界の利かない中なのに気配だけでこちらの位置を見破られた。そう思いながら後ろへ大きく跳ぶが、大剣の切っ先が左足に当たったと同時に鈍い音と痛みがはしる。着地と共に両足で踏ん張れずバランスを崩す。

 

 すぐに左足に覚えたてのヒールを重ね掛けする。声が響く、


「【経験値が貯まったのでLv.24】となりました。【防御術がLv.33】となりました。【回避術がLv.24】となりました。【ヒールがLv.3】となりました。【気配察知Lv.1】を取得しました。」


 左足の痛みが完全に引いた。よし、まだやれる。木剣を腰になおし、短槍を構える。すると、まだ舞っている土埃の中で動く気配がわかる。これは、まさか!!右に大きく跳ぶ、すると先ほどまで自分がいたところに大剣が飛んできて地面に突き刺さっていた。【気配察知】で何かを投げる動作をするのがぼんやりと分かったから【回避術】を全力で使って避けられた。


 すぐに立ち上がり、短槍を構える。ゆっくりとアントンさんが歩いてくるのがわかる。油断できない。呼吸を整え、前方を睨む。ギャラリーも静まり返っている。彼が土埃の中から出てきた。体にまとった埃をはたきながら悠然と。僕は彼の目を睨む。彼も睨み返してきてフッと笑う。


「ここまでやるとはな。・・・だがお遊びは終わりだ。ここからは本気で行くぞ。」


「おいアントン!!最初に言ったよな命の危険がある場合は・・・「いや、本気でいかんと俺がやばい。」・・・は?」


「今、言ったとおりだ。この小僧。いやガイウスは強い。下手をすれば俺よりも。だからこそ本気でいく。」


 言い終わるかどうかのタイミングで木剣を片手に構えたアントンさんが跳ぶように駆けてくる。僕は短槍を突き出す。最初よりも自分自身のLvが上がったので繰り出す突きの速度も威力も上がっている。その証拠に突きをさばいている彼の顔から笑みが消えた。いけると思ったところで彼は大きく後ろに跳んだ。跳んだ方向には彼が投げた大剣がある。あれを取らせてはならないと思った僕は、


「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!」


 雄たけび上げながら短槍を力の限り投擲した。狙いは勿論、彼ではなく地面に刺さった大剣のつかだ。柄さえ破壊すれば大剣は握れない。しかし、狙いはそれはばきに当たりそこからつかまでをへし折った。そして短槍も折れてしまった。彼はそれを見て舌打ちをした。


「【槍術がLv.16】になりました。」


 短槍を失った今更上がっても意味ないなと思いながら今のうちに弓矢を回収するために駆ける。彼も気づいて追いかけてくるが僕の方が速い。何の妨害もなく弓矢を回収したら残りの矢をとにかく彼目掛けて連射する。狙いはランダムだ。顔であったり胴であったり足であったり、とにかく射続ける。彼はそれを木剣でさばいているが流石に疲れが見えてきていた。なにせ、勝負の最初に射た矢はだいたい半分くらいの力で射ていた。だが、今は全力で射ている。半身になったら体をすっぽり隠せる大剣ならともかく木剣だとさばくのに苦労するだろう。それにさばいても矢の衝撃は確実に腕に見えないダメージを蓄積させているはずだ。だから、疲れが見えてきているのだろう。


「【経験値が貯まったのでLv.27】となりました。【弓術がLv.27】になりました。」


 声が響く。最後の矢をつがえて弓を引き絞る。自分の今の持ちうるすべての能力をこの一矢に込めて放つ。この一撃にはアントンさんも反応できなかったようで左肩の辺りに命中した。矢は鎧に当たった瞬間に砕けた。彼は痛みに一瞬だけ顔を顰めるが、そんなのお構いなしにこちらに突き進んでくる。僕も木剣を抜き迎撃の構えをとる。彼の勢いを乗せた上段からの一撃がくる。それを力任せに横にはじき、そのまま突きを放つ。みぞおちの近くに当てることができたが鎧に当たった木剣は耐え切れずに折れてしまった。


「【剣術がLv.23】になりました。」


 折れて長さが半分になった木剣でアントンさんの一撃一撃をさばく。隙を見つけて反撃しようとするが、なかなか見つからない。折れた剣ではこれ以上は無理だ。こうなったら格闘戦に持ち込むしかない。彼の一撃を力の限りはじいて折れた木剣を捨て一歩さらに踏み込む。彼の眼が驚きで見開かれる。その隙を見逃しはしない。彼の右足を思いっきり踏みつけ後ろに退けないようにし、木剣を持っている右手の肘を両手で持って逆に曲げる。鈍い音と彼の呻き声が聞こえ、持っていた木剣を落とす。叫び声をあげなかったのはさすがというべきか。彼の右足の上から自分の足をどかし、胴目掛けて蹴りを入れる。いいところに入ったみたいで、体を少しくの字にして後退る。


「【格闘術がLv.37】になりました。」


 それは素晴らしい。アントンさんに対する追撃を始める。まずは左膝を破壊するため胴に蹴りをもう一発入れ、体勢が崩れたところに右足に全体重と力を籠め彼の左膝を踏みつけるように蹴りつける。また、鈍い音が響く。それでも、彼は悲鳴をあげもしないし、降参も口にしない。準3級の矜持というものだろうか。満足に動けなくなった彼の顔面目掛け拳を叩き込む。そろそろ降参してくれないと殺してしまうかもしれないと思ったところで、


「そこまでだ!!アントンの戦闘不能により勝者ガイウス!!」


 アラムさんの声が響く。アントンさんは僕が掴んでいた手を離すと倒れこんだ。どうやら既に気絶していたようだ。そして観覧ブースからは歓声が上がった。


 こうして僕の初依頼クエストは終わった。

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