第13話 長い1日の終わり

 冒険者ギルドを出て門の傍らにある衛兵詰所へさぁ向かうぞ!!というところで、僕のお腹が盛大に鳴った。そういえば盗賊退治で昼ごはん食べていなかったんだ。僕の傍を歩いていたローザさんとエミーリアさんにも聞こえたらしく詰所に行く前に軽く食事を摂ることになった。うぅ、恥ずかしい。

 

 門に向かう途中に2人の行きつけのカフェがあるらしい。村にはカフェというのが無かったからどんなお店なのかと少しワクワクしながら向かった。数分後「黄金こがね」という看板を掲げたお店についた。石造りの外壁に大きな窓が配置されており通りからでも中の様子がよくわかる。ウッドデッキみたいになっている所はテラス席というらしい。今日は天気が良いのでテラス席は満席のようだったけど、中の方は何卓か空いているところがあった。

 

 ローザさんを先頭に入店するとドアに付けられた鈴が綺麗な音を奏でる。すぐに店員さんがやって来て空いている席に案内された。窓際の席だったので通りの様子がよくわかる。ボーっと通りを眺めているとエミーリアさんからメニューと書かれた冊子を渡された。メニューを開くと飲み物、軽食、デザートの順で載っていた。飲み物だけでも十数種類あり、デザートもそれくらいあった。僕は軽食のサンドイッチセットと揚げポテトを頼むことにした。せっかくだから、デザートも食べたいし、飲んだことのない飲み物も飲みたいしね。飲み物はカフェラテをデザートはチーズケーキを選んだ。ちなみに食べなかった昼ごはんは非常食として【収納】したよ。【収納】すれば腐らないからね。

 

 窓の外を眺めていると、村とはホントに違うなぁと思う。特に歩いている人たち。【鑑定】で種族を見てみるとエルフもいるしドワーフもいる。獣人も。村ではほとんど見ないような人たちだ。そうやって時間を潰しているとサンドイッチとカフェラテ、揚げポテトが運ばれてきた。デザートはメインの後に持ってきてくれるらしい。ローザさんとエミーリアさんはデザートと飲み物だけを頼んでいる。昼食はすでに済ませていたらしい。僕に付き合わせるみたいな形になってしまって申し訳ないと言うと2人とも気にするなと言ってくれた。

 

 しばらく3人で談笑しながら過ごしていると、

 

「あっ!?ローザとエミーリアじゃない。久しぶり。」


 と、女性の店員さんが声を掛けてきた。腰まで届く長い金髪に切れ長の眼、均整の取れたスタイル。そして、頭から生えている耳と腰のあたりから出ている大きな尾。簡単に言えば美人な獣人さんがいた。


「あら、ファンナじゃない。久しぶりって三日前にも来たじゃない。」


「まぁ、いいじゃないの。ところで、そこの可愛い坊やは紹介してくれないのかしら?」


「あぁ、この子は今日知り合った命の恩人のガイウス君よ。さっき冒険者登録してきたから立派な冒険者よ。坊やじゃないわ。ガイウス君、この人はこのカフェのオーナーのファンナよ。」


「よろしく。ガイウス君。」


「初めまして、10級冒険者のガイウスです。よろしくお願いします。ところでファンナさんは狐の獣人ですか?」


「そうよ。綺麗でしょ私の尾。お店の名前もここからきてるのよ。」


「たしかにキラキラしていて綺麗な尾ですね。でも、ファンナさんは尾だけでなく全体的に見ても綺麗な人ですね。」


「あら、嬉しいことを言ってくれるわね。貴方がもう少し大人になってから聞きたい言葉だわ。」


「はいはい、自己紹介は済んだでしょ。私たちはこれから門の衛兵詰所に行かないと行けないの。こんなところで駄弁っている時間はないの。」


「あら、本当?エミーリア」


「ホント」


「じゃあ、邪魔しちゃ悪いわね。それじゃあね。また、顔を出してよ。」


「わかってるわよ。じゃあまたね。」


 そう言って、ローズさんはお金を置いて席を立つ。僕とエミーリアさんもそれに倣ってお金を置いて席を立ちカフェを出る。


「ごめんなさいね。時間をとらせちゃって。」


「そんなに時間も経ってませんから大丈夫ですよ。でも、急いだ方がよさそうですね。もう日が傾きかけてます。」


「あら、ホントだわ。急ぎましょう。」


 僕たちは少しだけ歩く速度を上げて門へと急いだ。日が落ちれば門が閉まるので、門からはそれに間に合わせようと町に入ってきた人たちの波が押し寄せてきてなかなか前に進めなかった。これではドルスさんの所に門限までにたどり着けないかもしれない。あぁ、太陽が山の稜線に沈んでいく。空が飛べればこんな混雑なんて関係無いのに・・・。そうか!!上だ!!ローザさんとエミーリアさんを軽く【鑑定】し体重を調べると、


「2人ともごめんなさい。しっかりと掴まってください。」


 と言い、2人の腰に手をまわししっかりと掴んで【ステータス5倍】の筋力で思いっきり跳んだ。50mくらい上昇しただろうか。通りにいる人が粒のように見える。両脇に抱きかかえている2人は突然のことに言葉も無いようだった。しかしそれも一瞬のこと、翼のない自分はそのまま落下を始める。その事実に気付いた2人が


「「ッ~~~~~~!?」」


 声にならない悲鳴を上げる。


「大丈夫です。僕を信じてください。このまま詰所まで行きます。」


 2人ともコクコクと頷きギュッと強く僕に抱き着く。僕は、一番近い家の屋根にそっと衝撃を殺すようにしてトンッと猫のように着地をする。そして跳ぶ。2回目の跳躍ということもあって周りを見渡す余裕があった。下では跳んでいる僕たちに気付いて指をさしている人たちがいる。目立っちゃったけど仕方ないよね。この方法が通りで人混みをかき分けて歩くよりも速いんだもの。上昇し続けると夕日に照らされた風景が遠くまで見渡せて綺麗だ。


「綺麗ね。」


「うん、綺麗。」


 2人も僕と同じ景色を見ているようだった。しばらく景色を楽しむとまた急降下が始まる。今度は2人とも悲鳴は上げなかった。そのあと跳躍を数回繰り返しやっと門までたどり着いた。衛兵さんの前に着地したときは驚かせたみたいで槍を向けられてしまっている。抱えていたローザさんとエミーリアさんを離してから、


「ドルスさんに呼ばれてきました。ガイウスです。」


「あ、あぁ君がガイウス君か。まさか上から降ってくるとは思わなかった。槍を向けてすまない。」


「いえ、僕の屋根伝いに跳躍するという移動方法にも問題があったのは確かですから。」


「屋根伝いに!?それは凄い・・・。あっ、屋根は壊して・・・」


「ないです。しっかりと衝撃を吸収して着地してましたからヒビすらはいってませんでしたよ。」


「なら、いいのかな?まぁ、いいや。隊長は詰所の中に居るから行くといいよ。」


「わかりました。それでは。」


 槍をおさめた衛兵さんに会釈をして衛兵詰所の方へと向かう。向かうといっても30秒もしないで着く場所にあるんだけどね。詰所のドアをノックして、


「ドルスさん。来ましたよー」


 それなりに大きな声で言うとドアが開いてドルスさんが出てきた。


「よく来てれたね。どうぞ中へ入って。」


「ありがとうございます。ところで盗賊の遺体は何処に出しましょう?」


「早速だね。でも助かるよ。仕事が早く片付く。」


 笑みを浮かべながらドルスさんが言う。


「遺体は安置室があるからそこに出してくれるかな。今日は誰も亡くなっていないから空っぽなんだ。案内するからついておいで。」


 ドルスさんの案内で詰所内を歩いていく。


「さっきの。いつもは使っているような言い方ですね。」


「あぁ、時々ね。行き倒れとか犯罪者を取り押さえる際に周りに危害を加える前に討つこととかがあるからねぇ。あとは、今日の君たちみたいに賊を討った冒険者が持ってきた遺体の一部とかね。と、着いたよここが遺体安置室だ。といってもご覧の通り何もない部屋さ。ただ、遺体が腐らないように魔道具を使って外よりも温度を下げてあるよ。」


 確かに入った遺体安置室の中は少しひんやりとしていた。魔道具って便利だなぁ。村にはほとんど無かったなぁ。教会の定時でなる鐘とか麦の脱穀機とかぐらいだったかな僕が村で見たことがあるのは。それよりも、早く盗賊の遺体を出さないとね。


「それでは、今から出していきますね。」


 森の中で偶然あった4体の盗賊の遺体から始まり盗賊頭の遺体まで22体の全てを出し切った。


「これで全部です。」


「ありがとう。それでは、この中に指名手配がいないか確認してから報奨金を出すから少し時間を貰うよ。連絡は何処にすればいいかな?」


「あー・・・。宿とかまだ取ってないのでギルドに連絡してもらってもいいですか?」


「もちろん、いいとも。では、そのように処理するよ。そういえば、この賊どもから装備品とかの剥ぎ取り忘れはないかな?なければ遺体が今つけているモノも遺体もろとも処分するけど。」


「ありません。」


「ないわ。」


「ない。」


「ならよかった。さて、今日は色々と付き合わせてしまって悪かったね。」


「いえ、気にしないでください。それでは、僕たちはこれで失礼します。」


 そう言って、僕たち3人は衛兵詰所をあとにした。日も落ちて辺りは暗くなっていた。月の光と建物から漏れる光のみが唯一の明かりだ。


「ライト」


 ・・・唯一の明かりだった。エミーリアさんが「ライト」の魔法で光球を創り出したので一気に明るくなった。そして頭に声が響く、


「【ライトLv.1】を取得しました。」


 これで僕一人だけでも光源を確保できる。これからの冒険者生活には欠かせないモノになるだろう。そしてもう一つ欠かせないモノがある今日の宿だ。僕はこの町に始めてきたので全くわからない。だから冒険者の先輩にアドバイスをもらうことにした。


「ローザさんとエミーリアさん。オススメの宿を教えてください。」


「それなら私たちと同じ宿にしない?「鷹の止まり木亭」というところなのだけど、1週間銀貨1枚で朝食・夕食付の綺麗な宿なの。どうかしら?」


「いいですね。そこにします。」


「それじゃ着いて来てね。」


 十数分後、「鷹の止まり木亭」に着いた。宿の主人は宿の名前に違わず鷹の獣人夫妻だった。僕より小さいお子さんもいるようでもう寝ているとのことだった。僕は1週間分の料金を払い、ローザさんとエミーリアさんとともに少し遅めの夕食を摂った。


「今日は1日ありがとうございました。おかげさまで冒険者登録が無事出来ました。」


「それは、こっちの台詞よ。あなたが助けに来てくれたおかげで盗賊相手に勝てて臨時収入も得ることができたのだから。」


「そういえば、ゴブリン退治の依頼クエストの達成報告はしていませんでしたよね。よかったんですか?」


「ゴブリン退治の依頼クエストは期間なしの常時依頼クエストだから明日でも大丈夫。問題ない。」


「それを聞いて安心しました。それでは、僕はそろそろ部屋の方に行きますね。」


「あっ、ちょっと待って。明日も一緒に行動してくれないかしら?貴方が居てくれたらもっと色んな依頼クエストに挑戦できると思うの。」


「それって僕とパーティを組もうってことですか?直球ですね。今日はもう眠いので答えは明日の朝でもいいですか?」


「もちろんよ。これはあなたの都合を考えない私たちの我儘みたいなものなのだから。」


「そこまでは言いませんよ。ただ今日は色んなことが起き過ぎて一旦、自分の中で整理をしたいんです。それでは、おやすみなさい。」


「えぇ、おやすみなさい。」


「おやすみ。」


 こうして僕の長い1日が終わったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る