One full moon night
急にいなくなってごめんなさい。
どうしても貴方に伝えておきたいことがあって、メールしました。
今晩は綺麗な満月が浮かんでいますので、ぜひ空を見上げてみてください。
同じ月を貴方と一緒に眺められたらいいなと思います。
さて、まずは貴方と最後に会った日のことから。
私が感じたこと、考えていたことを綴ります。
貴方から包み隠さず本音を打ち明けられて、まずは驚きました。
貴方が私に好意を寄せていたなんて、今まで思ってもいないことでしたから。
訓練中、私の身体を性的な目で見ていたことも、全然気づいていませんでした。
しかし思い返してみれば、そんな兆候やサインがあったかも……と思い当たる節がないこともありません。
これは私の鈍感さが生んだ、不幸なすれ違いだったと思います。
私が貴方の気持ちにもっと早く気づいていれば……。
貴方に『性欲がない』なんていう勝手なイメージを押しつけていなければ……。
貴方を苦しめないで済んだかもしれない。
そう思うと本当に悔やまずにはいられません。
貴方から告白を受けて『驚き』の次に湧いた感情は……あまり心地良いものでなかった気がします。
自分の身体を性的な目で見られていたという事実に対する『おぞましさ』とか。
それから、未だにそんな感情を催してしまう自分自身に対する『落胆』とか。
実際のところ、よく覚えていないのですが、そんな感じの感情だったと思います。
私が泣いちゃったのも、たぶんこの辺りかな?
記憶があやふやだけど、なんとなく無性に悲しくなって、涙が止まらなくなったの。
だけど、だけどね。
次に湧いた感情が、そんな暗い思いを打ち消してくれました。
私、素直に嬉しかったんだ。
貴方に好きだと伝えられて。
ずっと独り相撲してるって思ってたけど。
なあんだ。
――私たち、両想いだったんだ。
私の思い、ちゃんと伝わってたんだ。
それが分かると、今度は嬉し涙が止まらなくなっちゃった。
だから、とても後悔しました。
変に含みのある喋り方をしたせいで、貴方に不要な誤解を与えてしまった。
別に意地悪したかったわけじゃないの。
私に好きな人がいるってことを、貴方の意識に刷り込んでおきたかった。
そう布石を打っておけば、いつか私の密かな思いに貴方が気づいてくれると思ったから。
あのカフェに向かっている最中も、頭の中で何度もそのシミュレーションをしてました。
抜かりはないと思ったんだけど、肝心の貴方の気持ちの方を考えるのを疎かにしてたみたい……その点は本当に後悔が尽きないです。
そして最後に湧き上がった感情は、深い『悲しみ』でした。
貴方の気持ちを知ってしまった以上、私は貴方のそばにいるわけにはいかない。
好きな人が私に劣情を抱いてくれている。私をひとりの女性として見てくれている。喜ぶべきことなんだと頭では理解している。
でも、どう感情を整理したって、今の私は男の人にそういう目で見られることに抵抗がある。
貴方が私に劣情の目を向けることが判明したからには、普段からその目を意識しないわけにはいかない。
いつか私は貴方への恋心を忘れて、貴方という存在に恐怖し、貴方さえ避けてしまう日が来るかも知れない。
それがどうしても嫌だったの。
貴方への恋心をどうしても亡き者として葬りたくなかった。
願わくば、この温かな気持ちを永遠に箱の中に閉じ込めて、大切に仕舞っておきたい。その願いが叶うなら、私は一生、男性恐怖症のままで――『欠陥人間』のままで構わない。
貴方のことを永遠に忘れないでいられるなら、私は甘んじて『欠陥人間』であることを受け入れよう。
それが今の私の意志です。
もう知ってるかもしれませんが、私は先日、地方にある女子校に転校しました。
『真人間』を目指す必要がない以上、周りに男の人がいる環境は精神衛生上、よくないからね(笑)。
色々と根回ししているので、大丈夫だとは思いますが……一応、念のため。
貴方に言っておきます。
私からの最後のお願いです。
どうか私のことは忘れて、立派な『真人間』を目指してください。
貴方は必要以上に他人と関わることを怖れている節があるから、すごく気がかりなのですが……。
貴方は不器用ながらも他人を思いやることができる優しい人間です。
もっと自分に自信を持って、私を寄り道に誘った時のように積極的になって、悔いのない青春を送ってください。
残念ながら私は貴方を幸せにすることはできないけれど。
少なくとも私は貴方のおかげで幸せな余生を過ごすことができそうです(笑)。
貴方も早く他の誰かと恋をして、幸せになってください。
そしてもう二度と、私の前に現れないでください。
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