第70話 勇者、腋は禿げない……かも



 西に行く事しばらく、進行方向にレロンの町が見えて来たので、馬の方向を変える。

 魔法の盾を斜めに配置して、馬に激突させる事で、馬は進行方向を変えて行く。

 3回ほど繰り返して、進路を北へ修正し、草原へと向かう。

 シールドにぶつかる度、尻尾に掴まってるフランは振り回されて大変みたいだが、そんな暴走する馬に乗ってる方が悪い。

 恨むなら、荒っぽい方法を選んだ俺じゃなくて、暴走させるような魔法をかけたアルベーリを恨め、フランよ。


「……馬を繋ぐ場所が無いな……」

「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ」


 草原へと到着した俺は、いつものように馬を気絶させる。

 繋いでおくための木が無いか、辺りを見渡すが……見る限りそんな物は無く、視界に入るのは背の低い草花だけだ。

 広大な場所なのは良いが、ちょっと困ったな。


「はぁ……はぁ……馬を繋いでおかないと、逃げ出しますよね……」

「そうだな……」

「何か手は無いんですか?」


 ようやく、馬から振り落とされ、息を乱していたフランの息が整う。

 フランは俺と同じように、辺りを見渡しながら言って来る。

 手が無いわけじゃないんだが……。


「仕方ない、これで行くか。アースロッド」

「土を使った魔法ですか?」


 俺が魔法を使うと、一抱えするくらいの大きさの土が腰の高さまで盛り上がる。

 棒状になったそれに、馬を繋いでおくだけの単純な作業だ。

 土を固めてあるから、下手な木より丈夫で安心。

 だが、馬を運ぶのが面倒でその場で使ったから、草花のいくつかが辺りに散乱してしまった。

 景観を壊す程じゃないが、あまり草花を犠牲にするようなやり方はしたくなかったんだよな……、

 まぁ、そんな事を考えてる傍で、フランが何の気なしに花を踏み潰しながら歩いているが。


「こいつがいる所で、変に細かい事を考えていたら本当に禿げそうだな……」

「腋がですか?」

「だからなんで腋なんだよ! お前の腋はフサフサと茂ってるのか!?」

「そんな、乙女にそんな事を言うなんて……見損ないましたよ、カーライルさん!」


 何故こいつは、禿げると言ったら腋にこだわるのか……腋フェチの気でもあるのか?

 フランといつものように言い合いながら、馬を繋ぐ。

 その時、地面の揺れと共に、聞いた事の無い声が辺りに響いた。


「妾の領域にある草花を蹂躙するのは何者か……妾をも恐れぬその所業、死を持って後悔するがいい!」

「何ですか、この振動と声は!?」

「……ドラゴンか? しかし、姿が見えないな……草花を踏んだり散乱させた事に怒ってるようだが……草花が好きなドラゴンとか聞いた事が無いぞ……」


 地面の振動に足を取られないように気を付けながら、辺りを見る。

 声は反響し過ぎて居場所の特定ができないうえ、どこを見ても巨体で知られるドラゴンの姿は見えない。

 ……一体どこから。


「……念のためだ。フラン」

「は、はい、何ですか?」


 揺れと声を警戒しながら、俺の声に反応して近付いて来るフラン。


「シールド……フルチャージ!」

「ん?」

「いいか、そこから動くなよ? そこにいれば、俺が張った魔法の盾に守られる。例え相手がドラゴンでもな」


 念のため、先に魔法の盾を全力で使い、フランを囲むように配置しておく。

 これで、巨体から繰り出される尻尾や爪の攻撃も、完全に防ぐ事ができるだろう。


「妾の声を聞いても逃げ出さぬか……しかしそれは、勇気では無く無謀というものぞ!」


 未だ続いてる地響きと声。

 姿を発見できないため、警戒をしながらいつでも反応できるよう剣を抜いておく。

 ……全然姿が見えないが……本当にどこから……!


「……空か!?」

「どこを見ておる。妾はここぞ!」

「へ?」


 俺の足元から声がしたので、空を見上げていた顔を下げ、下を見る。

 そこには、手のひらに乗れるサイズの小さな魔物がいた。


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