第68話 勇者、部下を無視する



「それじゃあ、早速……」

「私を置いて行く事は許しませんよ!」

「……また窓から……」


 さっさと目的の場所に行って、ドラゴンと会おうと執務室を出ようとした時、窓を開けてフランが登場。

 いつもながら、魔王の執務室に無断で窓から侵入して良いのか?

 それと、王のいる部屋なのに、外から窓を開けられるっていうのもどうかと思う……。


「カーライルさん、私を置いて行こうとしましたね?」

「まぁ……今回はドラゴンが相手らしいからな。フランがいても何も役に立たないだろ?」

「そんな事はありません!」

「……じゃあ、どんな事ができるんだ?」


 自信満々に大きいお胸を張り、否定するフランに聞く。

 今までの事を考えると、フランが対ドラゴンに役立つ事は無いと思うのだが。


「ドラゴンは昔から、女好きと伝わっています。それなら、私のこの美貌で、ドラゴンを魅了してせます!」

「……はぁ……じゃあ、行って来る」

「うむ、頼んだ」

「無視しないで下さいよぉぉぉぉぉぉ!」


 溜め息を吐き、寝言を言っているフランを無視して、執務室を出ようとする。

 それをフランが涙目になりながら、叫んで止められた。

 いつもより激しい反応だが、突っ込まれたり雑な扱いをされるよりも、無視されたりスルーされる方が堪えるみたいだな。


「フランよ、言っておくが……ドラゴンは雌だぞ」

「え……じゃあ、女好きは? 私の美貌は?」

「一切関係無いな」

「そんな……」


 アルベーリが冷静にフランに止めを刺しているが、そもそもフランごときの美貌で、ドラゴンがどうにかなるわけが無いだろう。


「フランの美貌と言ってもな……もしドラゴンが雄だったとしても……なぁ?」

「何ですか! 私では不十分だとでも!?」

「あぁ」

「うむ」

「うあぁぁぁぁん!」


 アルベーリと二人、同時に頷く。

 ついに泣き出してしまったフラン……ちょっとやり過ぎたかな……?

 だが、最初にアホな事を言い出したのはフランの方だからな、仕方がない。


「む? 入っても良いぞ」


 執務室の入り口が外からノックされ、アルベーリが許可を出した。


「失礼します。……カーライル、おはよう。魔王様も、おはようございます」

「おはようなのよ」


 入って来たのは、リィムとマイアだ。

 そう言えば、昨日別れる時、明日またここに来るって言ってたな。


「……私は?」

「フラン……いたの?」

「気付かなかったなのよ」

「皆酷いですぅぅぅぅぅ!」


 リィムとマイアの二人による、えげつない止めが入って、フランは泣き崩れてしまった。

 うるさいが、構うと話が進まないのでしばらくこのままにしておこう。


「リィム、マイア。せっかくここまで来てくれたが、今日は留守番をしていた方が良さそうだ」

「元々そのつもりだったわよ」

「またあの馬に乗せられたり、担いで運ばれるのは勘弁なのよ」


 今回はドラゴンだから、二人を連れて行っても危険なだけだろうしな……留守番を勧めると、二人共もとよりそのつもりだったらしい。

 

「でも、今回はどんな魔物が相手なの?」

「カーライルがついてこない方が良いって言うのは、よっぽどなのよ?」

「今回はドラゴンだ」

「ドラゴンですって!?」

「また凄い魔物が相手なのよ……」


 ドラゴンと聞いて驚いている二人に、今回の仕事内容を伝える。

 ドラゴンの話し相手になるとか、腕試しを受けるとか、聞いた事の無い状況に二人は目を白黒させてるな。


「ドラゴンの話し相手なんて……ロラント王国だったら考えられない事ね」

「腕試しとか、普通じゃ耐えられる事じゃないなのよ」

「まぁ、そうだな……」


 ロラント王国でドラゴンと聞いたら、逃げるか絶望するかのどちらかしか選べない魔物だ。

 強過ぎるためにそれに敵うのは勇者しかいない。

 当然ながら、発見された時は、勇者へと討伐依頼が来る事になる。

 国から直接の依頼だから、報酬は驚く程多いと聞いた事はあるが……あいにくと、俺にその依頼が来る事は無かった。

 ここ数十年、ドラゴンがロラント王国に来た事が無いからな。



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