第158話 「氷の魔女」
※本筋時間軸に戻ってきました、ややこしくてすいません……。
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後日、アスタルテの一声でみなが集められた。
「氷の魔女について、我が知っておることを話そう」
そう、彼女は切り出した。
「北のまれびと、
「奴が現れたのは1000年前、【魔王】に対抗していた国にじゃ。恐らくな」
「……恐らくってのは」
「召喚なのか事故なのかはわからん。なにしろその国はすぐさま魔王とその軍勢に滅ぼされおった。それから1年は音沙汰なしじゃ。魔王も、その国を落としたあとは静かにしておった。ヤツの行動もようわからん」
「魔王ってのは……」
「魔物のなかでも知恵持つ者たちの長。それ以上でもそれ以下でもないのう。存在濃度は高かったがの」
つまり、なにか不思議な超存在というわけではなく、あくまで人間でいう王様、武功で成り上がった系といったところか。
「そうして一年後、魔王の進軍が始まった。いくつもの国が呑まれた」
「進軍には特徴があっての、威嚇さながらに魔物の軍団を並べる」
「ヒト側も負けじと軍団を並べる」
「そこに、ざあっと白き風が吹く」
「そうして、ヒトの軍団だけが凍りつくのよ。氷の彫像がずらりと並ぶ」
「連戦連勝じゃった」
「…………。」
「このままではどもこもならんと、【黒森】だけでなくこやつらの力も異常じゃと認識し、我が往こうと決めた矢先」
「ヤツらの進軍が止まりおった」
「ちょうど、かつては【魔族】が支配していた領土まで取り返した直後じゃ」
「……【魔族】ってのは?」
「魔物のなかでも知恵ある者たち、その総称そして連合じゃ」
「つまり、」
「ヤツらは、かつての自分たちの領土を取り返し、そしてそこで進軍をやめおった」
「……。」
「魔王は、偵察もかね会いにいった我にこう言うておった」
「故国は取り返した、これから先は互いに不干渉でいこう、とな」
「我はそれを飲んだ」
聞いていて思う。
本当に彼は【魔王】なのだろうかと。
恐らく、より侵攻し領土を広げることもできたはずだ。
なのにそれをしなかった。
ただ、元ある土地のみを取り返し、それで良しとした。
「……そうして500年が過ぎ、つまり今より500年前、魔王の城も、国も、氷に閉ざされた。白き凍てつく世界に成れ果てた」
「そこから【魔女の領域】が広がり始めた」
「気になったんだが」
「なんじゃ」
「氷の魔女を見たことは?」
「一度だけ、ある。魔王と会うたときに、ヤツの玉座の隣に座っておった」
「……えっ、」
「公式には、ヤツの
「……その、どんなヤツだった?」
「似ておる」
「は?」
「よう似ておる、おぬしやカシスにな。恐らく、同郷のものじゃろうて」
カシスもびくりと反応する。
しかしどこか、俺も彼女もそこまで驚きはなかった。
なんとなく、そんな気はしていたのだ。
「じゃがあれはもう、生きているとは言えんかったの。死体じゃ。まさしく生きるしかばねじゃった」
「……それはどういう……」
「思考する、という能力が失われておるように見えた。恐らく魔王にとってはただの道具じゃったのだろう」
「…………。」
「これが、我が知るすべてじゃ」
遥かに昔、アスタルテなどの超存在でないと知り得ないような昔話が終わった。
しかしその彼女をしても知り得ることは少なかった。
「まあヤツの実情などわからんモノはどうでもよい。大事なのは実際の対策じゃ」
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それからの話はひたすらに現実的だった。
500年前、1000年前などのふわふわとした話ではなく。
まず、魔女の棲まう本拠地はかつての魔王城であり、今も彼女はそこから冬を拡大し続けている。
彼女を討つ、つまり彼女に到達するにはまずそこまで【氷の領域】を押し上げなければならない。
これには、ある案がアスタルテから提案された。
「……マジで?」
「おうよ、巧くやれよ」
これはしぶしぶ承諾。
つーかコレ以外に方法はないそうだ。
だったらやる。やりきる。それしかない。
次に各国……特に西方諸国との協力。
氷の魔女との戦争、その
そして彼女の領域を本格的に侵せば、まず間違いなく反撃がくる。
冬自体は俺が押し留めるとして、問題は魔物だ。
氷の魔女の尖兵、冬の魔物の軍勢。
これに対抗するには横に広がり決して漏らさぬ防御、つまりこちらも軍勢が必要となる。
アスタルテには案のための『役目』があるし、俺も魔女に挑まねばならない。
だから、大軍と相手する余裕はまったくない。
「自由都市は、カシェムさんが領主ですから大丈夫でしょうが……」
「ふむ」
みけがそう発言する。
彼女はもう、アルマからフラメルの娘を継承し立派に裏の当主である。
あの元冒険者の成り上がり領主であるカシェムさんとも何度か交流がある。
事情も実情もそれとなく話し、いい反応を得られているそうだ。
目的は定まった。
魔女と戦う、そのために。
西方諸国の協力を得る必要があるのだ。
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