第50話 「続・大規模戦闘~マスコンバット~」


5分か、10分か。

群れをひたすら遠距離攻撃で叩く。


だんだんと敵影が濃くなり、だんだんと撃ち漏らしがでてくる。

そうした敵が、塀に取り付いてくる。

左右をみると、どこの壁も同じような状況だ。


ここからの判断は、チームの力量による。

飛び道具が多いなら、正面の敵に合わせて真下への攻撃。

戦士が多いなら、壁から降りてひたすらに暴れまわる。


ここらで息切れし、控えのチームと交代するところも多い。


精霊術で、この森すべてを覆うほど形成された土と岩の壁。

残念ながらそれ自体の耐久力はそこまで高くない。

もちろん、ところどころ補強された箇所はある。

だが、ここはそうではない。


ゴブリンならまだいい、オークならまだいい。

だが、トロールとなると壁への攻撃が可能となる。


「イリム、下の状況は!?」


すでに100を超える『石槍』を放ったイリムは、近接モードだ。

素早く壁の下を確認したイリムは「トロールなし、雑魚が登ってきています!」と素早く確認を行う。


ザリードゥも弓から背中の長剣二刀流に切り替え、近接の構えだ。

壁を登り、疲労が蓄積したゴブリンやオークなら、あのふたりの敵ではない。

正面の射撃に集中する。


カシスは的確に炎の池を形成しているが、恐ろしいことにそれを物ともせず、敵は前進を続ける。

前進する、倒れる。前進する、他の誰かが倒れる。

これを繰り返すと、炎の池に橋がかかる。

橋が繰り返されると、池が塞がる。


「狂ってるな!」

「ええ、まったくね!」


そうしてすすむ行進に、ひたすら並べ立てた『火矢』と『火弾』を叩き込む。

戦い続け、わかってきた。


森ゴブリンは『火矢』で十分だ。

だが、森オークとなると仕留めきれていないことがある。

弾倉に叩き込んだ術の種類ごとに、的確に敵を討ち取っていく。


「おい! そろそろ交代するか!?」と後ろから声。

控えのパーティだ。


火精と、自分の体に聞いてみる。まだ、いける。

まだ、半分も解放していない。


「ここは大丈夫だ! 左右を見て、崩れそうな箇所があったらそこに行ってくれ!」

「だが……あんたも、あんたの仲間も!」


「私はまだまだ、手持ちの槍をふるっていません! これからですよ!!」と元気に叫ぶイリム。

彼女はすでに『石槍』を100発撃った。

そして、彼女の戦士としての本領発揮はむしろこれからなのだ。


「俺もまだ倍は撃てる!」


視界の端で、すでに死者を出しながら必死に戦っているチームが見える。

俺の視線に気づいたのか、彼らは一瞬迷った後そちらへ駆けていく。


「師匠、まずいぜ。……蜘蛛だ」

「ああ、見えてる!」


森から湧く魔物の中に、巨大な蜘蛛が混じり始めた。

サイズは車ほどで、崖をなんなく下ってくる。


「アレがでてくることはそうそうない。今日はずいぶんやる気みたいだなぁ。

 ……師匠、カシス! とにかく蜘蛛を中心に片付けてくれ!!」


並列想起、装填した『火弾』を目標に叩きつける。

蜘蛛は、動きがトリッキーで体の影が細く、何発か無駄撃ちをしてしまう。

だが、一発でも『火弾』が当たれば燃え上がり息絶える。

火に、とても弱いということだ。


カシスの射出する火炎壺が、ライン状に放たれ炎の壁を形成する。

そうすれば蜘蛛は一時的に撤退を余儀なくされる。


「トロール、2体抜けたぜイリム!」

ザリードゥはそう叫ぶと、壁を登ってきた敵兵をもぐら叩きするのを止め、壁の下に飛び降りた。イリムもそれに続く。


急いで後方に下がり、壁への視界を広くたもつ。

登ってきた敵が姿を現すたび、『火弾』を叩き込むためだ。


「カシス、さっきの炎の壁を、それより手前に!」

「了解!」


炎の池は、死体の山で蓋をされる。

蓋をされるなら、その手前にまた池を作るだけだ。


------------


イリム、ザリードゥはそれぞれ1体の森トロールを相手取っていた。

無論、敵はそれだけではなく、壁を登ることよりトロールに加勢するゴブリンやオークもいた。


だが、たかだかその程度の魔物は、すでにイリム、ましてやザリードゥの敵ではない。

トロールに的確に攻撃を加えつつ、その巨体のわかりきった攻撃を避け、その合間についでとして振るわれる攻撃で、次々と彼らを刈り取っていく。


ザリードゥの攻撃が20を数えるころ、イリムの攻撃が30を数えるころ、森トロールは血を失いながら絶命した。

ふたりとも、その巨体を駆け上がり足がかりとし、また壁の頂上へと帰還する。


「師匠! 役割交代です!!」

「おう!」


登り来る雑魚どもをふたりに任せ、遠くの射撃に専念する。

すでに投じた『火弾』は300を越えている。

『大火球』や、さらにはそれの爆発など、実際の消耗はそれ以上だろう。


だが、敵影もだんだんと薄くなり、終わりが見えてきた。


左右に素早く視線を走らせると、すでに飛び道具は尽き近接戦闘でしのいでいるチームがほとんどだ。

ゆえに死者もちらほら見受けられる。


うちはまだ、余裕がある。

はるか西の、常備軍のエリアも変わらず戦線維持ができている。


「また矢が来るぞ!!」


ザリードゥの叫び。すでに胸壁代わりの木はほとんど崩されている。


急いで火精を励起れいきし、強設定で『ドライヤー』を叩きつけた。

矢は推進力を奪われながら軒並み落下していく。


イリムをみると、地面からいくつもの槍を生成し、『槍壁スピアウォール』で攻撃をことごとく防いでいた。

カシスはバックラー、ザリードゥはなんと剣で矢を叩き落とす。


正面を見る。敵影はさらに薄い。

後少し、後少ししのげばこの猛攻も終わりだ。


そうして、気づいた。

森が動いている。

いや森の中を黒い丘が移動している。

その大きな丘はまっすぐ、森と谷の境界に姿を現した。


ソレはとてつもなく巨大で、ありえないほど醜悪な、一匹の蜘蛛だった。

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