第6章 金曜の夜に
side Yuji-1
ミュータって、なんだろう?
あの後から綾に聞こうかとも思ったけど、聞くに聞けないまま数日経った金曜の夜。夕食を終え勉強していた最中、僕の携帯にメールが入った。
件名:やっほぉ~い♪
本文:祐二くん!今日は何の日か覚えてる?
夜8時からテレビをつけて、私たちが出るミュータを見ること!絶対だよ⁉︎
あと、この時どこかで私がカメラに向かってウィンクするね、これは私と祐二くんだけの秘密のサインだから♪
携帯のアドレス帳に入れてあるメールアドレスだから誰から送られてきたメールなのかすぐにわかった、秋山さんからだ。
そうだ。今秋山さんにミュータのことを聞いてみようと返信のメールを打とうとしていた時に家の呼び鈴が鳴る、母さんが玄関へ向かってドアを開けると聞き慣れた名前を発した。
「あら綾ちゃん、いらっしゃい」
「――おばさんこんばんは、おじゃましまーす」
一言だけ言って我が家の中へあがりこんだ綾は階段を駆け上がってきた。ノックもせずに僕の部屋のドアを開けると開口一番、一緒にテレビを見ようと言ってきた。
背中を押されながら綾と階段を降りると、リビングにいた理那がソファに座りながらすでにテレビをつけている。
「祐二! あんたも見ましょ!」
訳がわからなかったが綾の手招きによって僕も二人の隣に座った、時刻は夜八時になろうとしている。
『――皆さんこんばんは! ミュージックターミナルの時間です!』
明るい音楽が流れた直後、黒縁の眼鏡とトレーナーの上にジャケット姿の男の芸人さんと清楚な服を着た女のアナウンサーがテレビカメラの前でにこやかな表情を見せながらマイクを手に挨拶。綾の話によるとこの番組は毎週この時間に生放送でやっている音楽番組で“ミュータ”の略称で親しまれているのだと言う。
『それでは今週のゲスト、早速お呼びしましょう』
アナウンサーによる案内のもと、スタジオに置かれたセット奥の階段からゲストと呼ばれた人たちが一組ずつぞろぞろと降りてくる。今回が初登場というバンドや一人で活動している女性など司会の人と画面に出ている字幕で紹介されているが、グループ名や個人名を言われても僕にはどこの誰かもどんな歌を歌っているのかも想像すら出来ない。
「おっ、来た来た!」
綾が声を上げてテレビの画面を指差す、それが誰なのか考えることもなくすぐにわかった。これまで何回も会ったりポスターを見ているのだから覚えている、秋山さんたちがいるAYSはスタジオの客席からも歓声が上がった。
一組目から順にこの日のゲスト何組かが歌い終えると、二段になった長椅子の下部に座って左手にマイクを持ちながら黒いロングヘアの人――綾がAYSリーダーの吉村さんだと教えてくれた――がこの後歌う曲がどんなものなのかと丁寧語交じりの説明からAYSのトークが始まった。
『――“AYSの皆さんはお休みの日に何をしていますか?”』
ある程度話したところで視聴者から届いたと言う質問に答えるコーナーに変わった、この時AYSの皆さんは先日たまたま取れたと言うお休みの日の話を始める。メンバー一人一人がショッピングへ行ったとか、お忍びでプロ野球を観に行ったとか僕たちと同世代らしい話が続き、その都度綾が解説を入れてくれた。
『――秋山さんはどうですか?』
『私はその日友達とランドマークタワー行ったり、ご飯食べに行きました。ご飯はすぎ家のチーズ牛丼をツユダクにして食べたんですけど、すっごく美味しかったのでまた行きたいです♪』
これを聞いて僕はハッとなった、綾も同じだったようで顔を見合わせ僕を見るやにやつき始める。
それを理那は不思議そうに見ていたが、秋山さんが僕たちとのことを大切な休日の思い出として扱ってくれたことに綾はとても嬉しかったのか理那が見ていないところで小さくガッツポーズしていた。
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