Third Person-3
「――あっ……!」
ふと眼鏡の彼女の目にある物が映り、その場で立ち上がった。
「それって、涼本まひろの『HANA』……?」
祐二がテーブルに置いてある半透明のビニール袋、中にはさっき買った漫画が入っている。
涼本まひろの『HANA』というのはその漫画を描いている作者とタイトルで、眼鏡の彼女はビニール袋越しにそれを一目見て声を出して立ち上がったようだ。
「そ、そうですよ……?」
「私それ読みたかったんだ、読ませてっ!」
眼鏡の彼女は両手を合わせてせがみ出す、突然のことに祐二は戸惑いの表情を浮かべた。
頼まれたものだからという理由を出しながら丁重に断る、それでも読みたいと何度も願い出した。
「ねっ? お願いだからさ、読ませてよ。どこ行ってても売り切れててさ……」
「ダメです」
眼鏡の彼女が拝みながら頼めば祐二は拒み続ける、これを数分ほど繰り返していると突然祐二は肩を叩かれた、振り向くと人差し指が頬に当たる。
「やーい、引っかかったっ」
「綾!」
そこにいたのはさっきまで待ち合わせをしていて彼に漫画を買うように頼んだ幼なじみの綾だった、いたずらっ子のように笑いながら元気にウィンクすると祐二の隣の席に座りすぐさま漫画を手渡す。
「綾、これ頼まれた漫画」
「うんっ、ありがと。これ読みたかったんだぁ」
綾が喜んでいる表情に祐二はホッとした表情を見せる、このやりとりを見て眼鏡の彼女は何かを察したのかポンッと握りこぶしで平手を叩いた。
「もしかして二人って、付き合ってるの?」
「「えっ?」」
言われた直後、祐二と綾は彼女へ振り向く。
祐二は慌てて否定しているが隣の綾はまんざらでもない表情を浮かべた。
「いやぁあはは、そうなんだぁ。あたしと祐二は長年の付き合いで――」
「そ、そんなんじゃないですよ、ただの幼なじみです!」
「うっそだー、仲良さそうにしといてそう言う?」
「僕たちは、そのような関係ではありません」
キッパリと否定した祐二に綾はちぇーっと不快の意を表す、しかし眼鏡の彼女は真面目に返答した彼に興味を持ったのか質問を続けた。
まるでいたずらを繰り返す子供のように楽しんでいる姿の彼女に綾はじっと見つめ始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます