第39話 提案
僕と黒野は学校近くのラーメン屋に入った。
そこはラーメン屋独特の雰囲気が漂っていた。言葉を選ばずに言うと、少しこじんまりとしていて、非常に清潔感のある内装とは言えないものだ。店員の態度も、丁寧というよりも、元気優先といった感じで、「いらっしゃっせー!!」という掛け声が時折響いている。
でもこの男くさい感じが僕は好きで、黒野とは今までも何度か来店したことがある。
「おまたせしましたー!ラーメン大盛肉まし野菜多め背油多めでーす!」
僕は黒野と同じものを頼んだので、テーブルには二つ並べられた。
「ひゃーーー。人の金で食うラーメンはうまいなー」
「まあ、前の動画の件のお礼もあるしな」
とりあえずはラーメンを食べることに集中し、無心でズズッとすすり続けた。
「ふううー。うまかったー」
僕らは無事にラーメンを完食し、お冷を喉に流し込み一息ついた。
「それで?お前らに何があったんだよ」
周りに客はあまりいない。中途半端な時間帯に入店したので、客を待たせる心配もなく、これから長話を行えるのだ。
「ああ。それはな」
正直どこまで言っていいのかわかりかねていた。
そもそも紗希は僕以外の誰かに未来が見えることを打ち明けたことがあるのか?仲の良い千花さんにはカミングアウトしていてもおかしくはなさそうだが、直接聞いたわけではない。紗希はどうしたいんだろ。言っていいのか?だめなのか?
「まー全部話せなんて俺は言わねえよ。言える範囲だけでいい。とりあえず喋ったら楽になったとかもあるだろ」
「すまんな、黒野」
こいつのこういうところはお世辞抜きで本当に尊敬する。
普段ふざけているのに、真剣なときはなんだか年を重ねた大人に話を聞いてもらっている気分になってくる。
「僕と、紗希……それと僕の父さんが会話できる場所を提供してほしい。最悪、紗希だけでもコンタクトが取れればそれでいい。理由は聞かないでくれると助かる……」
単純な話だ。紗希についてどれだけ言及していいかわからないのなら、言及しなければいいだけの話だ。
ただ、黒野に対してはあまりにも無茶な話だ。
詳細も伝えられず、よくわからないお願い事をされるなんて。
これで断られても文句は言えない。その覚悟で頼み込んだつもりだ。
でも、こいつなら。
こいつならなんとかしてくれるんじゃないかという希望が……
「おう。いいぜ。この黒野にお任せあれってんだ!」
「ああ。やっぱりそうだよな、悪いな変なこと頼み込んで……って今なんて言った?」
「良いって言ってるんだよ。凌太の頼みだ。断るなんて言葉俺の辞書にはねえよ」
「黒野……」
僕は感激して、黒野の手を握って「ありがとう」と連呼していた。
「おいおい。手を握る相手は俺じゃなくて冬知屋さんだろ」
「うるせえ。今はお前に感謝したいんだよ。よしっ。ラーメンもう一杯奢ってやる」
「ちょいちょい。それは嬉しいけど、別日にしてくれぇぇぇぇ。腹がもたぬぅぅぅぅぅぅぅ!」
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