第6話

「逆ハニートラップって?」

「女性が色気を使って男性を誘惑することをハニートラップと言うでしょう、これはある男性がこの女性従業員を誘惑したってことよ」


「どうして逆ハニートラップと思ったんですかね?」

「総務の人の話では、女性従業員のお友達の携帯に『イケメン、ゲット』って書き込みを残してあったそうよ」


「もう少し詳しい情報を教えてください」

「わかったわ、今ノートパソコンを出すから待ってね」


 ロコさまはバッグにしまってあった小型のノートパソコンを取り出して膝の上に載せると、それを開いて電源を入れた。


「えーと、大宮製薬という会社で総務部の森本課長からの依頼があったの。失踪した女性従業員は楠田くすだ元子もとこさん28才独身で長野工場の製薬研究員をやってる人よ」


 ロコさまはノートパソコンをテーブルの上に置くと、向きを変えて楠田さんの顔写真の画像を見せてくれた。


 その顔は肩よりも少し長い黒髪に、やや丸顔で眼鏡をかけていた。一見すると、真面目そうな顔をしている。こんな人が男にだまされるのかな?


「問題は紛失した書類なのよ、あたらしく開発した薬の詳細なデーターが書かれたファイルを持っていたんですって。楠田さんは研究成果を発表するために出張して来て、赤羽の『ビジネスホテル・マツヤ』に泊まっていたそうよ」


「どんな薬を開発してたんですかね?」

「それは教えてくれなかったわ」

「他に手がかりはあるんですか?」

「楠田さんの住所と電話番号は教えてもらったけど、あとはこのボトルだけなの」

「えー、それだけ?」


「どこから調べればいいかしら」

「まず楠田さんの泊まったホテルや自宅などを調べるとか、ですか? あるいはそのゲルの出どこを調べるというのはどうですか」

「このゲル?」


 ロコさまはテーブルに置いてあるダークピンクのボトルを手に取って、そこに書かれている小さな文字を読んでいる。


「なんかロシア語で書いてあるから、さっぱり解んないわ」

「ロシア製だったんですか」

「さっき啓太が調べていたサイトは?」

「日本語で書かれていましたよ、ちょっと貸してください」


 僕はロコさまのノートパソコンを取り上げてネット検索する。すぐにさっきのサイトを見つけ出して、それを返した。


「そこのサイトですよ」

「どれどれ」


 ロコさまはボトルをテーブルの上に置き、ノートパソコンを再び膝の上に載せてからページをスクロールして見ている。あのサイトには淫らな文章とか、なまめかしい画像が貼ってあるけど……。


「あらまあ!」


 おやおや、完全に見入っちゃてるぞ! 目が丸くなって来た。


「やだわー」


 あれ、左手をほっぺたにあてちゃって、熱くなってきたのかなあ。


「ううん、もーっ」


 あれ、急に怒りだした? ロコさま何を怒ってるんだろう。


「どうしたんですか?」

「ありえない事ばっかりかいてあるわ、このサイト」

「これって、まがいものの商品ですかね」

「めちゃくちゃ怪しいわね、そんな簡単に天国に行けるわけ無いわよ、ふん」

「でも、逆ハニトラで使われたんでしょう?」

「そうね、そう言われてみれば、……ちょっと調べてくるわ」


 えええ! ロコさまはノートパソコンを置いて立ち上がると、ダークピンクのボトルを握り締めて洗面所へ行ってしまったんだ。自分で調べるってこと?


 ……なかなか帰ってこないなあ。どんなことしてるのか気になるなあ、目を閉じると変な想像映像が浮かんでくるぞー。はあ、イライラ、ドキドキ。


 まったくもう、遅いなあ。……! おや、何か言ってきた。


「ちょっと、啓太さん」


 ♡♡♡! ロコさまが僕を呼んでるってことは手助けして欲しいの? えへっ! 僕は心臓をバクバクさせながら、おそるおそる洗面所に近づいて行ったんだ。洗面所のドアの前で立ち止まる。


「どうしたんですかー」





「あなた、今日はもう帰って頂だい。……ね、」

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