第6話
「逆ハニートラップって?」
「女性が色気を使って男性を誘惑することをハニートラップと言うでしょう、これはある男性がこの女性従業員を誘惑したってことよ」
「どうして逆ハニートラップと思ったんですかね?」
「総務の人の話では、女性従業員のお友達の携帯に『イケメン、ゲット』って書き込みを残してあったそうよ」
「もう少し詳しい情報を教えてください」
「わかったわ、今ノートパソコンを出すから待ってね」
ロコさまはバッグにしまってあった小型のノートパソコンを取り出して膝の上に載せると、それを開いて電源を入れた。
「えーと、大宮製薬という会社で総務部の森本課長からの依頼があったの。失踪した女性従業員は
ロコさまはノートパソコンをテーブルの上に置くと、向きを変えて楠田さんの顔写真の画像を見せてくれた。
その顔は肩よりも少し長い黒髪に、やや丸顔で眼鏡をかけていた。一見すると、真面目そうな顔をしている。こんな人が男にだまされるのかな?
「問題は紛失した書類なのよ、あたらしく開発した薬の詳細なデーターが書かれたファイルを持っていたんですって。楠田さんは研究成果を発表するために出張して来て、赤羽の『ビジネスホテル・マツヤ』に泊まっていたそうよ」
「どんな薬を開発してたんですかね?」
「それは教えてくれなかったわ」
「他に手がかりはあるんですか?」
「楠田さんの住所と電話番号は教えてもらったけど、あとはこのボトルだけなの」
「えー、それだけ?」
「どこから調べればいいかしら」
「まず楠田さんの泊まったホテルや自宅などを調べるとか、ですか? あるいはそのゲルの出どこを調べるというのはどうですか」
「このゲル?」
ロコさまはテーブルに置いてあるダークピンクのボトルを手に取って、そこに書かれている小さな文字を読んでいる。
「なんかロシア語で書いてあるから、さっぱり解んないわ」
「ロシア製だったんですか」
「さっき啓太が調べていたサイトは?」
「日本語で書かれていましたよ、ちょっと貸してください」
僕はロコさまのノートパソコンを取り上げてネット検索する。すぐにさっきのサイトを見つけ出して、それを返した。
「そこのサイトですよ」
「どれどれ」
ロコさまはボトルをテーブルの上に置き、ノートパソコンを再び膝の上に載せてからページをスクロールして見ている。あのサイトには淫らな文章とか、なまめかしい画像が貼ってあるけど……。
「あらまあ!」
おやおや、完全に見入っちゃてるぞ! 目が丸くなって来た。
「やだわー」
あれ、左手をほっぺたにあてちゃって、熱くなってきたのかなあ。
「ううん、もーっ」
あれ、急に怒りだした? ロコさま何を怒ってるんだろう。
「どうしたんですか?」
「ありえない事ばっかりかいてあるわ、このサイト」
「これって、まがいものの商品ですかね」
「めちゃくちゃ怪しいわね、そんな簡単に天国に行けるわけ無いわよ、ふん」
「でも、逆ハニトラで使われたんでしょう?」
「そうね、そう言われてみれば、……ちょっと調べてくるわ」
えええ! ロコさまはノートパソコンを置いて立ち上がると、ダークピンクのボトルを握り締めて洗面所へ行ってしまったんだ。自分で調べるってこと?
……なかなか帰ってこないなあ。どんなことしてるのか気になるなあ、目を閉じると変な想像映像が浮かんでくるぞー。はあ、イライラ、ドキドキ。
まったくもう、遅いなあ。……! おや、何か言ってきた。
「ちょっと、啓太さん」
♡♡♡! ロコさまが僕を呼んでるってことは手助けして欲しいの? えへっ! 僕は心臓をバクバクさせながら、おそるおそる洗面所に近づいて行ったんだ。洗面所のドアの前で立ち止まる。
「どうしたんですかー」
「あなた、今日はもう帰って頂だい。……ね、」
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