第4話

 仕事の依頼者に渡されたって? 路子さんの会社、どんなことしてるんだろう。そっち方面の調査会社か? ちゃんと話を聞いておくべきなのか。


「どんな依頼内容の仕事なんですか?」

「仕事の機密情報を漏す訳ないでしょ、従業員にならなきゃ」


 確かに、言われてみればそうだな。いや待てよ、単なる言い訳だったらうまく丸めこまれたのか? 本当は自分で使ってるのに、ごまかして……。


「どんな仕事している会社なのか教えてくれませんか」

「コンシューマーズ・ソリューション・コンサルタントの仕事よ」

「消費者の問題を解決するってことですか?」

「簡単に言うと、弁護士事務所と探偵事務所の中間の会社よ」


 なんだか良くわかんないけど、取りあえず事務所まで付いて行ってみるか。おや? 交差点の先にいる警官が警棒を振って待ってるぞ!


 おいおい、この車が止められるのか。警棒を車の前に出してニヤニヤしてるな、この若い警官。


「何よ、交通違反なんかしてないのに何で止めるのよ」


 ――コンコン。警官が警棒でウインドウを叩いて来た。

 路子さんは……あれ、無視するの!?


 ——コンコンコン。——コンコンコンコン。

 ありゃりゃ、無線機を取り出そうとしてる! おっと、やっと窓を開けるのか、ノブを回し始めた……と思ったら10センチしか開けないのかよ。ええ、警棒を突っ込んできたぞ。


「なんのご用?」

「あのねえ、免許証見せてくれる」

「ちょっと待ってよ」


 路子さんは後ろの座席に置いてあるバックを取ろうと、上半身をひねってから右手でバッグを取る。うふぁあ、胸元のボタンがはちきれそうじゃないか。しかも、いい香りがするなあ。


 バッグから財布を取り出して、中から免許証を抜き出すと、無言のままウインドウの隙間から警官に渡した。警官は写真と顔を何度も見比べている。


「あなた、何でシートベルトしてないの?」

「!……」

「どうしたんですか? ちゃんと答えなさい」


 路子さんはいきなり僕の前にあるダッシュボードを左手で開けて、黒いカバーのかかった車検証と思われるものを取り出す。その中を開いてウインドウに押し付けたんだ。


「あんた警官のくせに道路交通法知らないの?」

「はあ?」


 警官があきれた顔をしているぞ、だいじょうぶかな?


「道路交通法第71条の3、座席ベルトを装着しないで普通自動車等を運転してはならない。となっていますけど、座席ベルト設置義務の車両保安基準改正は昭和44年4月1日で、この車は昭和42年製の中古車よ。何か文句ある?」


 そう言われて若い警官はにらむように車検を見ていたが、警棒を引っ込めると慌てて無線機を持ち、だれかと連絡を取り始めた。


 路子さんは、口元がゆるみ不敵な笑みを浮かべているように見えるけど。


「あはは、これは失礼しました。でも安全運転でお願いします」


 若い警官は半分作り笑いをしながら、免許証をウインドウの上から差し入れる。路子さんは横目で冷たい視線を投げかけてがら、それを受け取った。


「ふん」


 また、ほっぺたを膨らませてちょっと怒った顔が好き。


 警官が2,3歩後ずさりすると、すぐに車を発進させた。路子さんの毅然とした警官への対応が、スマートだなと僕は思う。法律にも詳しいのかな?


「これ何回もやられてんのよ」

「シートベルトを付ければいいんじゃないですか」

「束縛されるのが嫌だからこの車買ったのよ」


 路子さんは、太ももに載せてあったバッグを僕に渡した。


「これ、後ろの座席に置いて頂だい」

「はい、はい」


 やれやれ、この狭い車の中でこの人とくっつく様に並んで座ってるけど、この窮屈感もまんざらでもないかあ、路子さん美人だし。


 やっぱり年上の女性っていいよね、僕なんか誰かに引っ張られるとすぐ付いて行っちゃうからなあ。こういう風に自分に自信を持ってる人に憧れちゃうよね。


 あれ、また路子さんのスカートがめくれ上って来た! ジロっ。





「あんた! どこ見てんのよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る