第160話 女神の舞とカメラ小僧


 アナスタシアの鎮魂の舞を初めて見たが、神秘的でいて妖艶、不思議と眼を惹く魅力がある。


「なんて言うか、すげえ……」


『アナスタシア様きれー』


 俺とリュイがアナスタシアの舞に見惚れていると


━カシャッ カシャッ カシャッ ピロン


 雰囲気をぶち壊しの音が聞こえてくる。音の方を見てみると、師匠が色々な角度からアナスタシアを撮影している。


「葵、凄い速さで動いてるわね」


 蘭が師匠の動きに感心しているが、感心してる場合なのか? 神秘的な雰囲気をぶち壊してるぞ?


『カシャッカシャッ煩い!』


 あっリュイが師匠にキレた。そりゃきれるわな、だって普通に気持ち悪いしな。コスプレイヤーを最前線で撮る人達みたいだ。


「えっ? ちょっとリュイちゃん静かに! 今撮影してるから!」


 うわっ怖え! 目がマジだよ……。リュイが言っても聞かないとか。


『えっアタチが悪いの? ごっごめん』


 リュイが根負けした、あの目と圧は怖過ぎるから仕方ないか。


「リュイ様は悪くないですよ。葵がちょっとおかしいだけで」


 蘭が慰めてるが、リュイがめっちゃ凹んでる。


「あーリュイ、師匠のアレはある種の病気だから気にすんな。素に戻ったら多分土下座する勢いで謝ってくるから」


 喋ってたら師匠に睨まれた……早く終わらせるんだアナスタシア! 師匠の暴走を止められるのはお前だけだ!


 かれこれ体感で1時間ほどが経過すると、アナスタシアの舞が終わる。


『あー! 疲れた! この服動きにくいし、神気が戻ってないから肩凝るわあ』


 おっさんみたいな声を出し、首をゴキゴキと鳴らすアナスタシア。お前……それでいいのか? さっきまでめちゃくちゃ女神ムーヴかましてたのに。


『ちょっと、あんた肩揉みしなさいよ! 後ジュース持ってきて!』


 今度は、態度だけは一人前のアイドルみたいな事を言いだしてるし。うわっ……師匠が速攻で肩揉みしてる。だけど、師匠の力で肩揉みなんかしたら肩が砕けるんじゃないか?


『ぎゃー!! あんた! 力強過ぎよ!』


「ごっごめんね!」


 肩を抑えて涙目になってやがる。ざまあ!! 俺に肩揉みなんてさせようとするからだ!


『ふーふー!』


 アナスタシアが、ふーふー言いながら師匠を威嚇してる。そう言えば太一はどうしたんだ?


「くっ……あの鯉野朗、アニマルパワーさえあればあんな奴に負けないのに! くそお!」


 地面を叩きながら落ち込んでる。アニマルパワーが無くて安心したわ。


「悪い奴に負けていたら、ジャングルの皆を護れないじゃないか! ちぐじょー!!」


 ガチ泣きしてるよ……。コイツはコイツでいかれてやがる。


「密猟者に負けない様に、地球にいた時から鍛えてきたのに! 異世界に来て、銃や魔法に負けない身体になったのに! 頭に突然衝撃が来て、意識がなくなるなんて!」


 それは、お前が投げたブーメランだよ。めちゃくちゃ突っ込みたいが、絡まれそうだからそっと見守ろう。


「お漏らしはしたのに、パワーアップしないなんて! どうなってるんだ! 神の馬鹿野郎! 俺が倒れたら、誰が、誰がジャングルの平和を護るんだよおおお!」


 そもそも異世界にジャングルと定義する場所はあるのか? 大半が森だし野生動物や魔獣の宝庫だぞ?


「お漏らしパワーアップ出来ると思ってたのか?」


「当たり前だ! 気絶したらお漏らしして、筋肉が盛り上がり、攻撃、防御、スピード全てが強くなるのは常識だろ!」


 突っ込みいれたら、胸ぐらを掴んできやがった。


「服が伸びるし、唾が飛ぶ、顔が近い。俺はホモじゃないから男と急接近したくないから、手を離してくれ」


 太一は素直に手を離し


「俺だってホモじゃない! なんで冷静なんだ! 普通喧嘩になるシーンだろうが!」


 喧嘩になるシーンって、嫌だよ。俺今はこんな身体だけどオッサンだぞ? 子供と喧嘩なんてしないよ。


「生暖かい目で見つめるな!」


 そんな目で見てたかな? まあ若いなあと思ったのは事実だが。


「……ッ! もういい! さっきの鯉を倒したのは、あのイケメンか? それとも強い神獣か?」


 ナチュラルに俺を除外しやがったな。


「俺だよ! 俺とリュイの必殺技で一撃だったぞ。森や湖まで壊しちゃったけどな」


「嘘だああああああああああ!!!!」


 人を指差して、絶叫する太一の指を掴み逆に曲げる。


「人を指差すんじゃねえ!」


「痛ええええ! 馬鹿力かよ!」


 馬鹿力? 俺が? この中じゃ一番非力な筈だけど。


「洋一、いつまでも太一と遊んでないで鎮魂も終わったんだから次の街に行かないと」


「あーそうか。確かへーでるだっけ? オナラが出そうな名前の国だよな?」


「はあ。へーラクだよ、ケリュネイって言う創造神様とアナスタシア様が契約している神獣がいる国よ」


「そうそれ! へーラク、へーラク。ケリュネイってどんな神獣なんだろ?」


 ケリュネイアなら鹿なんだがなあ。あれ? 確かケリュネイアってアルテミスの聖獣じゃなかったか?


『ねえねえ、へーラクはやめない? ケリュネイは無事よ? ケリュネイから瘴気も感じないし……』


「お前の契約してる神獣なんだろ? ちょっと気になる事もできたから、会いに行くぞ」


『やだやだー! あの女に会いたくなーい!』


 このわがまま女神め!


「じゃあケリュネイにだけ会えば良いだろ」


 俺の提案にアナスタシアが、物凄く良い笑顔になった。


『あっそれもそうね!』


 こいつ、ほんとに女神だったのか? 腹黒天使さん達の努力が身に染みてわかるわ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る