第142話 ガードレールは危険だぞ!

 哀れみの視線を受けた俺は陣の中で、ボーッとしてしまう。なんなんだよ、弱くなるのは良いけどさ皆んなして言いたい放題、哀れみ放題。やりたい放題かよ。


「なあ大和さん、これから俺はどーすりゃ良いの? このままなんにもしなくていいの?」


 大和さんは、笑い過ぎて涙を軽く拭い


「んーなんにもしなくていいって事はないぞ? 多分死ぬ程痛いし、産まれてきた事を後悔するんじゃねえか?」


「そっそんなに? 例えるならどんな痛みですか?」


「そうだなあ、金玉に連続でタイキックされるようなもんかな? いや違うか出産の痛みかな? 出産した事ないけどな」


 きっ金玉に連続でタイキックだと!?  嫌だよ! 昔ガードレールの上を歩いていて、ガードレールの上から足を踏み外して落っこちて、股割りになった時以来の衝撃じゃないか!


「痛くない方法はないんですか? 出来ればその痛くない方が……」


「ないない。その位の痛みで助かるんだからラッキーだろ? ラッキーって言えよ、ラッキーだよなあ?」


 いきなりメンチを切られた……。怖いよ、ヤカラだよ、DQNだよ。


「ラッキーです……」


「そうだよなあ! あっ神獣ちゃんと精霊の嬢ちゃんは、魔力制御と、魔力を麻友に送る係だからな。麻友は魔力が少ねえから、外部からの供給は絶対必要なんだよ」


 蘭やリュイにも頼れない! 助けてって視線を送っていたのに!


「わかりました。制御は任せてください」


 蘭がやる気だ、リュ、リュイは?


『精霊の魔力を受け入れられるなんて、名誉な事だと思いなさいよ!』


 ふんすと胸を張るリュイ


「あー名誉、名誉」

 

 大和さんは、リュイを適当にあしらっている。リュイは気付いてないみたいだが……。


「後な、儀式の最中はこの黒いアイマスクをしろよ? 外したら柊君の目玉をくり抜いて、記憶がなくなるまで殴らないといけなくなる」


 えっ怖っ! 眼がマジだし。目玉をくり抜かれても許してくれないの? 記憶がなくなるまで殴られるって、多分殴られた時点で俺死ぬよ? 消し飛ぶよ? 魂毎消滅するよ?


「さあ、アイマスクを付けろ! 付けたらこの椅子に座るんだ!」


 俺の目の前にある椅子は、テレビで見た事がある奴だ。死刑囚が座る奴やん……


「ええい! 男は度胸だ!」


━━ガシャン! ガシャン!


「あっあれ? 手と足が固定されたんですけど……」


「さあアイマスクだ!」


 大和さんにアイマスクをつけられる。暗い、見えない、怖い。


「ひゃっ!」


 首筋に生暖かい風がかかる。めちゃくちゃびびったあ……なんなんだよ。


『ひゃっだって! 身体もビクンってなってる! ヨーイチ面白い!』


 リュイかよ! 


「きゃっ! 冷たっ! 悪戯はやめろ! 誰か背中の冷たいのとって!」


『きゃって、プププ。ヨーイチ可愛い!』


 動けないからって悪戯しまくりやがって! 心の中で悪態をついていると


 鈴の音が聞こえてくる。


「柊君、あんたは私が必ず助けるさかいね。安心して身を任せとぉくれやす。大和! 準備しとき! 蘭ちゃんは、制御、リュイちゃんは魔力を!」


 麻友さんの強い言葉が響く。


『…………道は開く。後は麻友、大和あんた達次第』


 バステドの刺すような魔力を感じる。


「アリス見てろよ。父ちゃんと母ちゃんは、すげーんだぞ!」


 大和さんの声が近くにいるはずなのに、凄く遠くから叫んでいるような感じがする。


「声が遠い?」


「制御が難しい……!」


『蘭! アタチ達が踏ん張らないと、アタチ達がヨーイチを助


 リュイの言葉を最後に周囲の音が消える。


『…………ワレヲ解放シロ』


 周囲の音が消えた変わりに、あの忌まわしい声が脳内に響く。


『ニクい、アのチカラ、えイユう』


 身体の内側から、憎しみ、妬み、嫉み、僻み、恨みが溢れ出てくる。


『カラだをよコせ』


 俺は、負けない!


『弱ク、スグにチカらに飲まれていタ癖に、なにをイマサラ』


 俺は、お前の力はもういらない!


『くククククククク、オマえは俺だ』


 違う、俺は俺だ! お前じゃない!


『イツマデもつがなアアアアああああ』


 お前は、邪神だが俺は人間だ! 蘭の家族でリュイの友達だ!


『全てイツワリ虚構ナリ』


 虚構じゃない! 俺達の絆や思いは、虚構なんかじゃない!


「よく吠えた、よく戦った。後は俺に任せな」


 そこには、大剣を構えて笑う大和さんの姿があった。


「会いたかったぜえ。って言っても形骸化したお前じゃ俺の事もわからんだろうがな」


『ナゼ、ココにいいいゴロす、コイツの身体は魂は、俺のののの』


 首を絞められているかの様な感覚に落ち入る。


「柊君、踏ん張れよ。俺は君の中じゃ100%の力が出せねえんだからよ。まあ100%もいらねえがな」


 大剣の切っ先を邪神に向ける。


『貴様二イイワタシハ、ホロボせないい』


「滅ぼすさ。お前ら邪神は、いつだって俺のいや俺達、天都家の獲物だ。そろそろ消すが、お前に一つ聞きたい事があるんだよなあ。何故柊君を狙った?」


『異な事ヲ、モウシごの意味もわからぬ愚物メ、ユカイユカイユカ』


「死ね」


 大和さんが、大剣を振り下ろした瞬間、身体中に激痛が走る。


 ぎゃああああ!! 


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い、殺して、やめて、殺さないで、助けて、痛い痛い痛い痛い痛い痛い


「お膳立てはした。柊君、乗り越えろよ」

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