第136話 かつての勇者
大和は亜梨沙の頭をぶん殴って
「お前にはスキルも魔法も早過ぎたな。玩具を手にしたガキじゃないんだぞ? その先々で起きた責任をお前取れんのか? 取れねえよなあ、だから逃げまわってたんだもなあ?」
亜梨沙は、頭を上げ大和さんを睨む。
「なんだあ? その目まだわかってねえみたいだなあ。しゃーない、お前に世界の痛みを与える。気が狂ってまあ仕方ないよなあ?」
大和さんが、そう言った瞬間、地面から黒い球体の物が現れる。亜梨沙は、黒い球体から必死に逃げようとするが、大和さんはそれを許さない。あの黒い球体は、良くない物の塊なんだろうな。
「ひっ! いや、やめ、助け……」
亜梨沙は泣きじゃなくりながら懇願するが、大和さんはゆっくりと亜梨沙に球体を近づけていく、
「あっあっあっ」
涙と鼻水と涎で顔がぐちゃぐちゃに歪んでいる。正直言って見ていて、かなりキツイ。蘭もリュイも目を逸らして……あれ? 大和さんの方を見てない?
亜梨沙の頭に黒い球体が入っていく。
「━━━━━━━━━━━━━━━━━━ッ!!!!」
声にならない絶叫をあげ、白目を剥き亜梨沙はその場に気絶する。身体は、ピクピクと痙攣し口からは血が流れている。
「やっ大和さん? あの不審者さんいや、亜梨沙さんはいったい? 蘭もリュイも気付いてないみたいだし、どうなってるんですか?」
俺が、声をかけると大和さんは目を細めて笑う。
「おお! すげえな柊君、隔絶された俺の空間まで見えちまうのか。紅い目の力か、葵も割と高いもんあげたんだな。彼奴なり評価してるのか……。おっと質問の答えだな、この空間にいる間は現実世界は停止してるぜ」
さらっと時間停止している事実を告げられる。時間停止ってもっとこう使う場面があったはず! 物語なら見せ場や山場のシーンとか!
「見せ場のシーンとかで使えって顔してるなあ? だけどな、弟子のお仕置きなんて他人に見せるもんじゃねえんだよ。そりゃよ、柊君達からしたら世界を壊そうとしたり、洗脳スキルをばら撒いたりするクソ野郎なんだろうけどさ、俺にとっては葵も亜梨沙も等しく可愛いバカ弟子なんだよ」
言ってる事は理解ができる。俺の師匠も、俺が失敗した時人前で怒る事は滅多になかった、香奈を家に連れて来た時位だろうな、あんなに師匠がキレたのは。だけどあれは、未だに納得できない。なんで女友達を連れて来たら誘拐犯なんだよ……
「おーい、柊君ー! 百面相してないで、話を聞いてくれるかなー?」
チラッと亜梨沙を見ると、顔が18禁状態になっている。
「百面相って、前にも言われたな。あの弟子へのお仕置きにしては、厳しくないですか? 控えめに言ってもヤバイ状態ですよ?」
「そりゃそうだろう? 此奴がした事で受けた世界の痛みを全て、感情や、感覚付きで与えたんだからな」
それって控えめに言っても、まともな状態にならないんじゃないか? 拷問ってレベルじゃないぞ?
「時に柊君、勇者候補生と勇者ってなにかわかるかな?」
不意に投げかけられた質問に俺の思考は停止する。
「いえ、わからないです」
「うーん、君の美徳であり悪い癖だな。考えるのをやめてはいけないよ? 世界は無数にある、無数にある世界の中で平和な世界は数が少ない。地球も他の世界からみたら、まだ平和な部類に入る。そんな世界群の中で、勇者は人の希望なんだよ。わかるよな? 君も異世界冒険譚に憧れていただろ?」
勇者が人の希望それはわかる、色々な物語の世界で圧倒的に不利な状況を跳ね返し、人を守護する為に力を使い戦う。人に希望を与え、争いをなくす者。
「そんな勇者達がいきなり戦えると思うか? 戦える訳ないよな? 圧倒的な不利な状況で諦めずに、折れずに戦える人間なんて、小数点以下だ。そんな奴等を導いてやらなきゃいけない、それが勇者候補生が集められた理由だ」
世界を救う為だけに集められた勇者候補?
「それっていったい……」
大和さんは、身体を伸ばし首をゴキゴキと鳴らす。
「そこの葵も亜梨沙も勇者に至らなかった存在だ、馬鹿みたいに力を付けた葵、馬鹿みたいに速さに特化した亜梨沙、二人とも勇者になれなかった。勇者はさ、どれか1つ極めただけじゃ足りないんだよ。全てにおいて最強じゃなければならない」
「師匠は前に勇者はもういないって」
「そう候補生の中に全てにおいて極めた男がいた、
大和さんが強いのはわかるけど……
「届かなかったって?」
「勇者になり、邪神に飲まれたんだよ。だから俺がを潰した」
大和さんは悲哀が漂う表情で、俺の胸を指差す。
「今君の中にいる邪神に飲まれたんだよ。柊君の中には、邪神と宗二がいる。紅い力は、宗二の力。暴走してしまうのは邪神の心、相反しやがて君の自我を奪う」
「自我を奪うって……俺が俺じゃなくなるのか?」
「そう。だから創造神は柊君の力を封じたんだよ。柊君の身を案じてね、俺が呼ばれた理由はもうわかるよな?」
「俺が堕ちた時に始末するため……」
「正解だ」
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