第105話 浄化の炎と付喪神


 蘭に、肉を抉られた。痛い、めちゃくちゃ痛い。昔、蘭がまだ小さい時に、加減を間違えられた事はあったけど、今までの比じゃない。


「肩がもげたー!!」


「もげてないわよ! もうヒールで治したし……」


 蘭が、しょげている。ははは、でも良かったあああ。蘭が無事で。


『蘭! すごいじゃない!』


 リュイも大はしゃぎだ。だけど、この惨状の原因は潰したが……被害が、大き過ぎる。


「墓作ってやらなきゃな……」


「私がやるよ。聖炎葬送セイエンソウソウ


 白く優しい炎が、エルフの人々を焼いていく。


「おっかしいなー。勇者は、いなかったのかな? いや、勇者の気配は、まだあるんだけどなー」


 師匠は、聖炎を見ながら呟いていた。


 やがて聖炎が収まった。武器や防具だけ、その場に残して。


「この武器や防具を墓替わりにしよう。俺達は、ここに眠る戦士達の名前も知らないし……」


『墓跡替わりね。野党達に荒らされなきゃ良いけど……』


 野党達からしたら、墓には見えないか。むしろ宝の山か。


「僕が、人肌脱ごうじゃないか! 踊れマナよ! 武器や防具に眠る魂よ、持ち主の縁者以外を拒絶し、この地に眠れ! 血縁魂ブラッドソウル!」


 師匠の魔法で、武器や防具が躍り出す。


 師匠の詠唱が終わると、武器や防具がその場にゆっくりと、鎮座していく。


「日本で言う付喪神を応用した僕のオリジナル術式だよ。真似しないでね?」


 師匠は悪戯っぽく笑って言う。


『多分、こんな事できるの、葵だけよ。アタチ達、精霊にも無理。擬似的にも、魂を与えちゃってるじゃない……どんな魔力してんのよ』


「私にも出来ないわ。出来る気がしないし」


「ワハハ、僕がNo.1でオンリーワンなのさ!」


 師匠の決め台詞がめちゃくちゃださい。


『それより、ヨーイチ……いつまでレイのお尻触ってんのよ。戦ってる最中もずっと触ってて、いやらしい』


 えっ? そんな事は、あっあれ? おかしいな? 気持ち良過ぎて、離れないぞ! 


「……うっうん」


 ゲェッ! レイ先生が目を覚ました! 早くスカートとタイツをあげないと!


「えっ私、そうだ! 黒龍は!」


 レイ先生が、勢いよく立ち上がる。当然、スカートとパンツを下ろした状態だ。目の前には、レイ先生の……


━━━ブバッ!!


「ヨーイチ? ってきゃあああああ!」


 顔を真っ赤にして、叫ぶレイ先生。レイ先生の右手が、俺の頬へ吸い込まれる。


 ばちん! 


 鼻血を出してる俺に、追い討ちのビンタをしてきたレイ先生。だけど、ありがとうございます! 眼福でした!


「全くなにしてんだか。レイ、早くスカートを直して。葵、赤い顔をしてチラチラ見ないの!」


「あっいや、僕は、その、初めて……」


 師匠もレイ先生のアソコを、チラチラ見てたのか……。やはり男だな! しどろもどろになってるし


「洋一もしっかりしてよ。鼻血流してる場合じゃないんだよ、全く」


「おっおう……。初めて見たから、その、びっくりしてな」


「そっそれより! 黒龍は!」


「私が倒したよ。一応亡くなった人の墓跡として、武器を添えておいたわ。葵が、縁者以外誰にも触れないようにして」


 それを聴くと、レイ先生は力なく膝をつく。


「私は……またなにも出来なかったのね」


 レイ先生が、肩を落としてしまう。


「レイ先生、まだやる事はあるよ。生きている人を探さないと、街の方へ行かないと」


「そっそうね……。街の方へ行きましょう。ここは、皇国の南端なので、皇国の中心の方へ行きましょう」



 アザマルと言う小さな村に着いた。南端と、中心を結ぶ唯一の村らしい。


「見事なまでの廃墟だな……」


 アザマルの村で、無事な家は一軒もなかった。


「人と魔物の気配がないねー」


『うーん、生き物もいないねえ。瘴気は、あちこちに残っているけど』


 瘴気があちこちに残っているって、やばくないか?


「神殿に行かないとまずいな。瘴気はそのせいだろうしなあ」


 幸い、邪神レーダーの反応も歩いている方向だしな。


「洋一、神殿の反応は?」


「向こう方だな」


「中心地の方ね、少し飛んで先を見てくる」


 蘭が、中心地の方へ飛んで行く。


「蘭の飛ぶスピードが上がってる。無茶しないで、戻ってこいよ……」



「ん? あれが皇国の中心かな? 凄く固い結界で守られてるわね。中も見えないなんて」


 結界に触れない高度を保ちながら、上空を旋回する。


 突如なにかに見られている様な感覚に落ち入る。


「ッ! なにかのスキル? 感知されない距離にいるはずなんだけどな……人間やエルフじゃ物理的にも見えない高度だし」


『あー! あー! テステス。飛行中の鳥さん! 敵意はありますかー!?』


 突如下から、大音量の声が響く。


「敵意はないけど……」


 近づきたくはないな、得体が知れないし。


『敵意がないみたいで、よかったでーす! じゃあ俺は**の対応で忙しいんで、お疲れしたー!』


 大音量の声は、なにかの対応に忙しいと言い、それっきり聞こえなくなった。


「なんだったんだろうなあ。ノリが、洋一や葵みたいだったからなあ。多分トラブルの元になるだろうなあ……」


 今から、気が重いなあ。結界のせいで、瘴気の出所はわからなかったしなあ……。

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