第102話 洋一の気持ち レイの気持ち
レイ先生は、畑の隅に作ったアナスタシアの小屋に駆けて行った。速過ぎる、ってきり家の外に居るかと思ったのに……。高速移動かよ! 器用に野菜は、避けてるけど……。
「速過ぎるだろ! ちっくしょ!」
目的地は、わかっているから良いけどさ。あっ小屋に入っていった。
「はあ、はあ、はあ。……やっと小屋に着いた……」
『━━━あの馬鹿は━━』
アナスタシアの声が聞こえる。神格を失っているから、レイ先生にはアナスタシアの存在も声も聞こえないはずだ。
小屋から、アナスタシアが出てくる。
『あんた、女の子を泣かすなんて最低ー』
ふぐっ! この腐れ神め! 傷口に塩を練り込んできやがる!
『まっ、彼女の懺悔を聞いてた限りじゃ、痴話喧嘩ね。あんたが、ちゃんとしてれば彼女は泣かなかった。この事、良く覚えてなさい。私は、少し外しとくから』
こいつ、女神やめてからの方が、よっぽど女神じゃねえか! アナスタシアありがとう。口には出さないけど、お前が居てくれてよかったよ。
『後、お礼は口に出して言うものよ。思いは、言葉にしないと伝わらないわ。貴方は、神や精霊や神獣と関わりすぎて、失念してるみたいだけどね。彼女は人族なのよ? 貴方の考えを、貴方から直に聞かないで、理解できるはずがないじゃない。それに仇討ちが、自分の手で出来なかった事だって、無理やり切り替えてたのよ。あんたは、女心を学びなさい。それじゃね』
そうか……俺は、なにも言わなくても理解してくれている、あいつらに甘えていたんだな。仇討ちだって、自分の手でしたかったはずだ。それを考えないで、価値観が違うだなんて、おこがましいにも程があるな。
「アナスタシア! ありがとう! 蘭に言えば、まだ飯あるはずだから、ちゃんと食えよ! お腹鳴ってんぞ!」
『うるさいわよ! だから、デリカシーがないって言ってんのよ! バーカ!』
ベーっと舌を出して、家の方へ走っていくアナスタシアを俺は見送る。
「デリカシーかあ。蘭にも言われたっけな。そう言うの苦手なんだよな、昔から」
深呼吸をして、ドアに手をかける。
中からレイ先生の泣き声が聞こえてくる。
「レイ先生、入るよ」
レイ先生の返事を聞かずに、俺は中に入った。シーツで顔を隠し、泣いているレイ先生。
「……ヨーイチ? ごめんね。頬、痛かったよね?」
こんな時でも俺の心配をしてくれるレイ先生。
「大丈夫だよ。レイ先生、ごめんね」
「……なにに対して?」
「俺さ、蘭を護りたい、だから強くなりたいってのは今も変わらないんだ。アスベルク王国を見た時は、異世界に来たんだって! はしゃいでたよ。だけど、直ぐにはしゃげなくなった……」
道化師と勝利君の青ざめた顔が浮かぶ。
「俺の大切な友人は、親から虐待を受けていた。俺はなにも聞けなかったし、なにも出来なかった。その友人も俺のせいで死んだんだ……。邪神の一味にさ、俺と同郷で囚われ、酷使されてる子がいたんだ、俺はその子を助けられなかった……目の前にいたのにさ」
勝利君は、俺の目の前にいた、手を伸ばせば届く距離に。
「その後、堺さんいや、魔王に会って命を救われたんだよ、俺が倒れた理由は、邪神の力が覚醒しようとしてるからなんだってさ」
レイ先生は泣きはらした顔で、俺をしっかりと見ている。
「俺がこの世界に来た時に、身体の中に邪神の因子を混ぜ込まれ、子供にされたんだ。本当の俺は、40を超えている。だから、ほんとはレイ先生より歳上なんだよ」
俺の話をレイ先生は、黙って聞いてくれる。
「俺は、向こうでは、一人だった。蘭はいたけど、失うのが怖くて、友達も恋人も作れなかった。右も左もわからない、世界に連れて来られた時も、ほんとは蘭以外と関わるのってすげー怖かったんだ」
「ヨーイチ……」
「でも、レイ先生は優しくしてくれた。それがめちゃくちゃ嬉しくてさ。光一にも出会えて、紗香さんにも会えて、エレン爺いにも会えて、少しずつ輪が広がった。だけど、同時に怖くなった」
輪が広がれば、それだけ失う恐怖が増える。
「そんな時、勝利君に出会い、助けられなかった。神の世界では、向こうで亡くなった友人にも会えたんだ。光一を家に帰らせてやるには、邪神を倒すしかない。邪神を倒すには、蘭が創造神の試練をクリアするしかないんだ……だけどそれは」
気付けば、レイ先生が俺の手を握っていた。
「それは、蘭と同じ神獣を殺す事だった。瘴気に囚われ堕ちた神獣を殺す事なんだ……。蘭にやらせる訳にはいかない、だから……俺が強くなるしかない、俺が戦うしかないんだ」
「ヨーイチは、蘭ちゃんを戦わせたくないのね」
「怖いんだ。蘭が、堕ちた神獣達と同じ様になってしまうのが……俺は強くないから……。人に根付いた、邪神の因子を消すのは、俺しかできない。邪神の因子のせいで、両親を失った子に誓った、俺が邪神の因子を消すんだって……」
「うん」
「ずっと、この世界に来てから考えていて、俺の世界とは命の重さが違うんだって、背景も状況も考えないでさ」
「そっか、だからさっき……」
そう言うと、レイ先生は俺を抱きしめてくれた。励ましにきたのに、逆になっちまうなんて。
レイ先生は、俺の背中をぽんぽんと優しく叩いてくれる。
心が、暖かくなる。涙が出てきそうになるが、堪えた。俺が泣いていたら、レイ先生が泣けなくなるから。
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