第55話 洋一行きまあああす!


 香奈と別れた俺は、涙が出ないように、天井を見ていた。香奈が、光となって登っていった天井を。


「香奈は、天国にいけたのかな」


『天国では無く、本来あるべき輪廻の輪に戻ったんじゃ。これで、彼女も安心して生まれ変わる事が出来る。不健全な状態から解き放たれ、健全な状態になったのじゃ』


「そうか。生まれ変わった香奈には……会えるのか?」


『どうじゃろうなー。あちらの輪廻は、あちらの神の管轄じゃからな』


 まあ……そう上手くはいかないか。


「ファンキー爺い、俺は強くなれるのか?」


『それこそ御主次第じゃよ』


 そうか、俺次第で強くなれるのか。強くなれると分かっただけありがたいな。


『それで? 蘭ちゃんに加護はちゃんと与えてくれるんだろうね?』


『わかっとるわ! ちゃんとあげるわ!』


 ナイス堺さん!


「えっ、あの宜しいんですか?」


『ホッホッホ、元々あげるつもりじゃったからな。気にせんでいい。そこの男の覚悟もしれしたの。だが道は険しいぞ? 正式な加護を得る為に、御主達はあちらの世界にある、儂の神殿を巡らなければならん』


「神殿の場所もわからんのに?」


『そこで、御主にもスキルを与えた。名付けて《神殿レーダー》じゃ!』


 めちゃくちゃ良い笑顔で、サムズアップしてきやがった。何だよ、神殿レーダーって。


「神殿レーダーって名前がダサい。しかも神殿しか探せないし、ダメ過ぎるだろ」


『ええー! 神殿探すんだから、神殿レーダー必須じゃろ!』


 だだこをねるな! 爺いのだだとか、萌えないぞ!


「さっきの蹴りで、爆散させるぞ!」


『あっさっきの蹴りは封印したから、儂が許可しない限り使えんよ。残念じゃったの』


「なんでだよ!」


『柊君、あの力は駄目だよ。自分や、君の周りを、最悪世界を壊してしまう。君がもっと強くなり、あの力に飲まれないようにしないと』


 堺さんが、言うほどの破壊力があるかはわからないが、確かに危険な力だ。あの声に飲み込まれたら二度と戻って来れないような……危うさがあったのは確かだ。


「でも、やっと強くなるきっかけが掴めたのに!」


『ホッホッホ。儂が封印したからには、今まで邪神の力によって吸い取られていた部分が、吸い取られなくなる。魔力は相変わらず無いが、Lvはきちんと上がるぞ?』


「魔力無し、スキル無しは変わらないか」


『ホッホッホ。神殿レーダーと精霊視があるだけで良いじゃろ』


「神殿レーダーが最初に来てる時点で、詰んでるじゃねえか!」


『柊君、僕の力をあげよう』


『それは反則じゃろー!』


 流石堺さん、色物爺いとは違うな!


『僕が、あげた力は精霊魔術だよ。簡単に言えば精霊の力を借りてぶっ放す! 魔力が無いけど、精霊と仲良しな柊君にはぴったりだろ? デメリットは、精霊との意思疎通がきちんと出来ていないと使えない位だし』


 うおおおお! 堺さん最高だぜー!!


「やったぜー! リュイとなら、ミサ○さんもびっくりなシンクロ率120%だし! エヴ○も乗れちゃうぜ!」


『柊君、忘れてるかもだけど、ファンタジー世界にエヴ○がそもそもないからね? あんなの出てきて、雷の精霊を電源にしたら世界が破滅するからね?』


 ひょおおおお! 洋一行きます! 司令! 俺は逃げないぜー!


『蘭ちゃん。柊君に後で、言い聞かせてくれるかな?』


「あっはい。でも洋一の今の力だけじゃ、正直旅は厳しくないですか?」


『んー厳しいよねえ、そこんとこ創造神様どうすんのよ?』


『ヘーパイストスに武具を造らせたら良いんじゃなーい』


 武具を造らせる? 武器屋があるのか? でもなー。


「武具はエレン爺いに頼んであるから、ノーサンキューだってばよ?」


『エレン爺い? あのドワーフじゃろ? 神級鍛治師と呼ばれとる奴じゃな。神の武具のが凄いのになあ』


「義理があるし、頼んだのは俺だから、乗り換えはしない!」


『弱ったのお。あっそうじゃ! 御主仮にもら神獣を連れてるのじゃろ? ならテイマースキルをやろう。旅先でテイマースキルも無いと不自然じゃしな』


「テイマースキルかあ、でも俺には蘭がいるからなあ」


『柊君、旅先で必ず役立つから貰っときなよ。さて光一君や紗香ちゃんも待ってるんだし、そろそろ戻ろうか』


「「はい!」」


『あっそれ、儂が言いたかったのに〜魔王ずるい〜』


 コギャルみたいな言い方をする老神に俺と蘭と堺さんの顔は引きつっていた。



「お! 紗香さん、光一お待たせー!」


「洋一君、蘭ちゃんお帰り!」


「洋一君、何かあったの? 涙の跡があるわよ」


 紗香さんは、直ぐに俺の側に来て涙の跡をハンカチで拭いてくれた。


「そう、辛いお別れをしてきたのね? でも、きちんと友達を見送ったのね。偉かったね」


 紗香さんに抱きしめられ、頭を撫でられた。


「えっ? 俺はなにも……」


「意地をはらなくていいのよ? 色々な事が起き過ぎて香奈さんとの別れが、まだ整理できてないんでしょ?」


「おっえ、あっなんで……」


 香奈の名前が出た事で、俺は上手く喋れなくなる。


「洋一君の心が、見えるの。以前よりも、私の力が強くなったからかもね。私達は、居なくならないわ。蘭ちゃんも私も光一君も、レイちゃんやエレンさんも、桜ちゃんもね」


 気付けば俺は、年甲斐もなく紗香さんの胸で声を上げて泣いた。居なくならない、この言葉が、凄く嬉しかったから……。


「香奈さんに、笑われちゃうわよ? 前を向いて歩かないとね」


 涙でぐしゃぐしゃになった顔で、俺は頷いた。


「後、創造神様には私から、きちんと話をしておきます」


 紗香さんの声色は怒気を孕んでいて、顔は般若のような形相だった。


『ヨーイチ君! 泣きたい時はいつでも僕に言ってよ! 僕のこの清らかな胸筋は、君の者さ!』


 エロスの爽やかな笑いと、薄気味悪い文言が俺の背筋を凍らせた。


 清らかな胸筋とか、嫌すぎる。紗香さんの身体とは天と地の差だ。ウンコと天使位の差だ!

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