第54話 囚われた魂を解放せよ!


『そんな感じでのう。御主はあの頃から、なんにも変わってない。人に関わる事に怯え、人を失う事に恐怖したまま。この世界では、神獣が強くて良かったのー? 神獣とだけいれば、失わずに済むかものー。邪神には勝てないかもしれなけどのー』


 こちらを見る事も無く、ファンキー爺いさんが煽ってくる。正論過ぎて、俺は何も言えない。


 その場の空気が凍てつき二つの殺気・・・・・が膨れ上がる。


『おい、創造神━━━。そろそろやめろ。不愉快だ』


 ぞっとするような堺さんの声、それはまるでこの世の終わりのような声色。


『ホッホッホ、珍しいの魔王。これがそんなに大事か?』


『お前に、どんな考えがあるかは知らないが警告だ。これ以上柊君を愚弄する真似は、やめて貰おうか』


 爺いさんと魔王が睨み合う。辺りの空気が、悲鳴を上げている様に感じる。


 この二人は、戦わせてはいけない。


「堺さん、ありがとう。俺、ファンキー爺いさんの言う通りで、なにも言い返せなかった」


『柊君、君は何でもかんでも背負い過ぎだ。君の過去の話で言えば、あれは君のせいじゃない。君は、山から少し離れた場所に行っていたし、彼女を護ろうとしたんだろ? 猪に立ち向かおうとしたんだろ? 獣に対しての行動については、間違いだらけだったけどね。12、3の子供にしては、上出来過ぎる。それに君は、この世界に来て、何度強者の前に立った? 下手すれば命を捨て兼ねない状況で』


 堺さんの声が、静かに響く


『僕と初めて会った時も、君の後ろには、怪我をして動けなかった人が居たね。君はなんの躊躇もなく、熊の前に立った。この世界で言えば、女神、ドラゴン、精霊王、デュラハン、王様、兵隊、精霊教、ダークエルフ、道化師、神、君は、恐怖しながら立ち上がり、護るように立ち塞がった。力が無くても君がしている事は━━━━』


 堺さんが、言葉を止めて俺の目を見る


『柊君は、万の軍勢と戦い、万人を護れる勇者ではない。だけど君は━━英雄だよ。君の魂は自己犠牲の果てに破滅する英雄その者だよ━━。僕が、なにを言いたいか……蘭ちゃんわかるよね?』


 堺さんが、蘭に話しかける。蘭はファンキー爺いさんにブチ切れている。正直、俺でもビビるくらい怒っている。


「何れ、洋一は、私か私達の周りの人達の為に命を捨てる、もしくはそれに準ずる行為をする、ですか?」


『そう。そして柊君がそこまでしてしまうのは何故かわかっているだろ? 柊君、全ての虐げられた子供達は、香奈さんじゃない。君は言わなかったが、香奈さんはDVを受けていたんだろ?』


 堺さんの言葉が、俺の心臓を鷲掴みにする。そうだ、香奈は虐待をうけていた━━。


『柊君の魂は、そこに囚われている。香奈さんの話をしている時、君の魂は不自然なまでに乱れ、叫んでいた。だから、香奈さんの魂を覗かせて貰ったよ。全ての子供達や傷ついた人は、香奈さんじゃないんだ。わかっているかい?』


 俺は……何も言えない。


『香奈さんを理由に、自分を蔑ろにする行為は香奈さんへの侮辱だ。それは、香奈さんを理由にした自殺だ』


 身体の力が抜け、その場にへたり込んでしまう。


「俺は、俺は……」


『香奈さんは、柊君に囚われている。成仏も出来ずに、君に縛りつけられている』


 俺が、香奈を縛り付けている? 俺のせいで、香奈が成仏できていない? 俺が、香奈を苦しめている?


『ホッホッホ、本人と直接話したら良い。肉体付きの大サービスじゃ』


 パチン


 あの時の姿のまま、香奈が俺の前に現れる。


「香奈、俺、俺……ホギャッ!」


「よーちゃんの、ぶぁかああああああああ!!」


 香奈の凄まじい右ストレートが俺の頬を貫く。右、左、右、左、と8の字を描くように、連続で、俺を殴りつける。


 香奈は、泣いていた。


「何度も、夢枕に立った。よーちゃんのせいじゃないって何度も何度も何度も何度も! 私は叫んだ! だけどよーちゃんは、気付かないし、よーちゃんの心はどんどん暗く硬くなっていくし……身体も子供にされて、心までいじられて……」


 俺は、俺は、こんなにも香奈を悲しませていたのか


「よーちゃんは、私が怒ってると思ってるの? 私は、自分自身の不甲斐なさに怒ってるだけなの。あの時ちゃんと逃げてれば、良かったって。そしたらよーちゃんは、傷つかないで済んだ訳だし」


「違うッ! 俺が、あの時……」


 香奈が、俺の手を握る


「よーちゃんは良く頑張りました! 私は、もう怒ってません! よーちゃんが、夜中に私のお墓に来てさ、泣いていたのだって知ってるよ。でもねごめんじゃなくて、俺は今こんな事して、楽しくやってるよって聞きたかったな」


 楽しくやってた話なんて、香奈の墓前でした事がない。いつも、謝ってただけだったな……。


「あっ後、お寺の人は黙認してただけで、皆んな知ってたよ? それと蘭ちゃん? 初めましてだね。よーちゃんが、いつも無茶苦茶やるから大変でしょ?」


「いや私は━━━」


「蘭ちゃんは、可愛いなー。よーちゃんもね、蘭ちゃんと知り合ってから、心が少し解れたんだよ。だけど、こんな訳の分からない世界に来ちゃってさ。傷ついた人や、虐げられた人を見て、又心が戻りつつあるんだ。本当に困ったちゃんだよね。蘭ちゃん、子供にされたよーちゃんは、いつものよーちゃんじゃないけど見捨てないでね?」


「見捨てませんよ。私は、家族ですから」


 香奈が、苦笑いをしつつ蘭に話しかけている。


「優しい答えをありがとう蘭ちゃん。それとよーちゃんは、全部変わらなくても良いけど、もう前に進まなきゃだよ! これだけ長い時間、私の事を思ってくれただけで充分! 私は、すっごく嬉しいから!」


 香奈は泣き腫らした顔で、笑っていた。凄く綺麗に見えた━━。


「香奈、俺は、俺は」


「ごめんねは、もう聞かないよ! よーちゃんは、よーちゃんの人生を楽しんで、生きるのよ! 夢があるじゃない、剣と魔法の世界で、蘭ちゃんと大冒険するんでしょ?」


 いひひと笑う香奈


「創造神様、私を顕現させて頂き、ありがとうございました」


『ホッホッホ、よいよい。迷える魂を導くのも、また神の務めじゃからの』


「堺さん、よーちゃんの為に怒ってくれてありがとうございます。よーちゃんを護って頂き、ありがとうございます」


『いやー僕は、なにも言えないなあ。この世界に柊君が、飛ばされたのも、気付くのが遅れちゃったしね』


「それは、仕方ないと思います。蘭ちゃん、よーちゃんを宜しくね?」


「はい!」


 香奈の身体が、少しずつ透けていく


「ちょっとちょっと待てよ! ずっとここに居ていいだろ!? なあ、ファンキー爺い!」


 爺いは、無言で首を横に振る


「よーちゃんは、そろそろ香奈から卒業です! 香奈もよーちゃんから卒業です!」


「ちょっと待っ!」


「バイバイ、よーちゃん元気でね! 幸せにならなきゃだめだぞ! 後、そろそろ彼女位作って私を安心させてよね!」

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