第43話 〜前編〜 まさかのあの人

 頭がクラクラして、割れるのように痛い。目眩がするし体中が痛い……どうやら蘭のヒールも効かないみたいだ。


「洋一!」


 蘭の焦った声なんて、初めて聞いたなあ


「洋一君、しっかりして!」


「ヨーイチ!」


「小僧、しっかりせんか!」


『ヨーイチ!!』


 皆んなの声が、遠くに聞こえる。


 ああ、意識が薄れていく、蘭とまだまだ話したかっなあ。光一や紗香さんや桜さんを、元の世界に返したかったなあ。勝利君も助けられなかったし……後悔ば……だ……


 


 気付いたら、真っ赤な空間に1人佇んでいた。


「あれ? 確かさっきまで目眩やら頭痛やらで死にかけてたんだけど? 俺死んだ?」


 呟いてみるが反応は無い。身体を触って確認してみると、地球にいた時の自分の身体になっていた。


「毛が戻ってる! YES YES YES YES!」


 俺は、自分のマイサンを見て歓声をあげる。


『柊君は、見ていて本当に飽きないね』


 唐突に声をかけられた、誰だ? 誰だ? 白い翼の白い影か?


『それは地球のヒーローの歌だよね? どっちかって言うと悪の帝王の方だよ?』


「げえっ! 地球人にナメプして、気円斬で尻尾を斬られて、更にはロン毛のイケメンに細切れにされる方かよ!」


『あはは、詳しいね。だけど、これはまいった相変わらず話が全く進まない』


 話が進まないのを俺のせいにしやがった、流石は悪の帝王だ。


「それで、元の身体に戻ったパーフェクトヒューマンである俺に何ようかな?」


 得意のアルカイックスマイルを浮かべてみる。どっちにいるかは分からないけど。


『パーフェクトかどうかは、知らないけど、僕はあの世界で魔王をやってたんだ。宜しくね』


 聖剣を呼ばなければ!


「エクスカリバー!!!!」


『何で、天を見ながら手をかざしてるの? エクスカリバーって急にどうしたの? 煩いよ?』


「なにっ!?  エクスカリバーが来ないだと!?」


 おかしい! 魔王には聖剣のはずだ! テンプレではそうなっているはずだ!


『いや何だと!?  みたいに驚いてるけど、柊君は、勇者じゃないんだし当たり前でしょ?』


 身体は戻ったのに、勇者じゃないのかよ!


「やる気なくしたわー。げんなりだわあ。あっ、魔王の姿見せてよ。どっち向いて話していいかわからんし」


『見せてもいいけど、びっくりするよ?』


 びっくりはしたくないな。


「じゃあ、お断りしまーす」


『断っちゃうんだね。柊君、ピエロに会ったでしょ?』


「ああ、あのムカつく糞野郎な。どうやらあいつを倒す前に死んでしまったようだ……。教会で、セーブもしてないから、まあゲームオーバーだろうな」


『教会でセーブってねえ。因みに柊君死んでないよ? 柊君の力が覚醒し始めて、魂が耐えきれなかったから避難させただ「ちっ力の覚醒だと!?  やはり俺は勇者だったのか! 魔王! お前を倒す!」だけなんだけどなあ』


 長かったついに、眠っていた俺の力が、目覚めるのか!


『だからね? 柊君は、勇者じゃないから。それに僕は、あの世界に全く興味がないから、手を出す気もないよ。そもそも僕が勇者と戦い、負けた様に見せて隠居したのも、地球に行く術を、見つけたからだし』


「えっ? 魔王なのに隠居?」


 魔王って魔王城から大体出てこないから隠居してるようなもんじゃないのか?


『あのねー僕は平和主義なの。勇者と戦うのだって、めんどくさいなー、何とかやり過ごせないかなー、なんて思ってたのに。

 急に魔族全体に、邪神の加護が降り注いできて、皆んなバーサーカー状態になっちゃったんだよね。

 魔族達が、勝手に人間の国に突撃し出したからだし。勇者にバレない様にある程度、魔族を間引いたりしていたんだよ?』


「とりあえず魔王は、ニートだった事は理解した。地球に行く術ってなんだ?」


『ニートじゃないよ、地球じゃ猟師紛いだったけど。それでさー、魔王を倒した勇者って地球に帰れるみたいなんだよ。試しに便乗してみたら、勇者が残って僕だけ地球に行けたみたいな?』


「気になってたんだけど、堺さん? じゃないよね? 声がめちゃくちゃ似てるんだけど」


 魔王との間で長ーい沈黙が生まれる。


『せいかーい! いやー柊君急に消えちゃうから、農協のおばあちゃん達が心配してたよ? 死神の力の名残が、地球にあったからさ。こっちかなーって探してたら見事ビンゴした訳』


 めちゃくちゃ軽く正解って言われたよ、逆に怪しいぞ!


「ちょっ、えっ? まじで堺さん? 日焼け大好きな堺さん?」


『日焼け大好きではないけどね? 猟師してて、日焼けしただけどね?』


「まっまさか! いやあの優しい堺さんが魔王だなんてそんな……」


 信じられない。めちゃくちゃ強かったけど、堺さんは人間なはずだ。


『そう言えば熊に襲われてた時に、助けた事もあったよね?』


 あっこれは堺さんだわ。


「あっ堺さんお久しぶりです。元気してましたか? こちらは子供にされたり、頭痛がやばくて死にかけたり、ピエロに狙われたり、オカマにお尻を撫でられたりしながらも俺は、元気です」


『うん、大丈夫。状況は君をみてたからわかってるから説明はいらないよ。本題の覚醒の話をしても良いかな?』


「あの奇声をあげながらエアーガンを連射してたお婆さんは元気ですか?」


『元気に今日も猿と戦ってるよ。とりあえず話を進めるね、柊君の魂が覚醒に耐えきれなくなり、崩壊しない様に僕が避難させたのさ』


「ありがとう堺さん! 堺さんが元気だって知ったら蘭も喜ぶよ!」


 堺さんはいつも俺達に優しかった。堺さんに救われるのは2回目か、何かお礼をしないと。


「堺さん俺なにもお礼ができなくて……」


『頑張ってピエロを倒してよ。僕は地球から出るつもりはないから、僕が干渉出来るのはこれくらいなんだ』


 堺さんの声は、少しだけ悲しそうだった。

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