第21話 被害者は増えていく


 助け出した女の子は巫女装束だった。白髪に赤い目、八重歯特徴的な美少女。身長は150位、かなり痩せている。年齢は16歳位だろうか。


「俺の言ってる事はわかる?」


 女の子はコクンと頷いた。取り敢えず言葉は伝わるみたいだ。だが女の子の言葉がわからない。


「文字は書ける?」


 女の子は又頷いた。試しに地面に書いて貰った、その文字は日本語だった、だが見慣れない字もあるし書き方が読み難くて仕方ない。


「日本語!? 転移者か転生者か? でもそれなら何で言葉が伝わらないんだ? 光一と会った時は直ぐに会話が出来たんだが……」


女の子は地面に文字を書く


”貴方も大日本帝国から来たの?”


「大日本帝国? 普通の日本から来たんだが……。来た年は2020年だがわかるか?」


”2020年? 嘘今は1894年、明治27年、日清戦争の最中だったはず”


「それこそ何言ってんだ? 日本が勝って終わったぞ?」


 女は両目から大粒の涙を溢し始め、その場にへたり込んでしまう。戦争には勝ったんだけどなあ


「おっおい……。まいったなー蘭ー助けてくりー」


「はあ。やっと見つけた。急に居なくなるから焦ったよ。洋一の馬鹿、いきなり先の歴史の話をしたら混乱するのは当たり前でしょ」


「そんなもんかな? って蘭!!」


 いつのまにか蘭が俺の肩にとまっていて、びっくりした。

声をかけてくれよ。


「リュイ様とレイは上で待機してるから、その子を連れて行こう」


「ちょちょ、待って蘭、この子と会話が出来ないんだよ! 聞き取りは出来るみたいだけど」


「ふうん」


 蘭が言語理解の魔法を女の子にかける。魔法が弾け飛ぶ。


「レジストされた……呪いかな? ねえ、ここに来る前に神様に会わなかった?」


 女の子は魔法に驚いていたみたいが、蘭の言葉に頷く。


「神の名前は?」


”アルテミスって言ってた”


「やっぱりね、それで何でこんなところに?」


”私の力は強過ぎて現世で輪廻転生出来ないから、こちらの世界に行きなさいって。強過ぎる力だから一時的に封印するって言われた。誰かに助けて貰いなさいって、それからずっとここに……”


 そう書き、女の子はまた泣き出してしまう。


 俺の頭が怒りで真っ白になる。


「アルテミスだと! あの糞ビッチ! ふざけやがって! ぶち殺してやる!」


 俺の怒声に、女の子は怯えてしまう。


「洋一抑えて、女の子が怖がってる」


「だって……くそッ!」


 俺は頭を乱暴に掻き、女の子から離れる。


「ごめんね、洋一もアルテミスにこちらに連れて来られたの、子供にされ殺されかけたの」


”私と同じ?”


「状況は違えど同じよ。それよりも何よりも、子供が酷い目に合わされてるのが洋一には許せないのよ」


”そうなんだ”


「洋一、ここから出るよ。そんな顔してリュイやレイに会うつもり?」


 多分俺は今酷い顔をしているだろう。俺は自分の頬を叩き


「ダメだな……。ごめん蘭、もう大丈夫だ。行こう」


 女の子は俺の側に来て、手を繋いでくれた。その手の温もりが暖かった。


「ありがとうそれじゃ上に行こう」 


 蘭の転移で外に出る



『ヨーイチ! あんた何してんのよー!!』


 リュイが電撃を纏った蹴りを俺の腹にぶちかましてくる。


「ぶべら!!」


 リュイのライダーキックを喰らった俺はその場に倒れる。


 鳩尾は反則だってばよ……。


 女の子が震えながらリュイと俺の間に立つ。


「ヨーイチは全く!私達がどれだけ心配したと思ってるの? それと蘭ちゃんこの子は?」


「洋一と同じアルテミスの被害者よ」


 その言葉にリュイとレイ先生が同時に俺達を見る。


『ヨーイチと同じ? でも魂は年相応よ? 光一みたいに同じ国から来たの?』


 蘭が2人に事情を説明すると、レイ先生とリュイは目に涙を浮かべ、女の子を抱きしめた。あんな暗い地下に閉じ込められて鎖で吊るされるなんて可哀想だしな。


「ヨーイチこの子の名前は?」


 はて? 名前?


『喋れなくても聞いたんでしょ?』


「知らね」


 だって知らないから仕方ない


「またまたヨーイチ驚かそうとしてえ」


「聞いてないから知らね」


 レイ先生とリュイがなんとも形容し難い表情をしている。


「名前より先に助けなきゃと思ってたら新事実が発覚して聞きそびれた」


”沢山顔に石をぶつけられた、痛かった”


「蘭ちゃんこれは何て書いてるのかしら?」


 おっおい、蘭訳すなよ? 救助の為にしてたんだぞ?


「沢山顔に石をぶつけられたって」


 やっやばい、二つの殺気が膨れ上がった。


「あっあのあの、きゅ救助しようとしてその……」


 リュイがバチバチと力を溜めているのがわかる。


 あれは痛いんじゃないかなあ


『ヨーイチのバカタレー!!!』


「あぎゃああああああああああああ!!」


 いつもより、かなり強めの電撃をくらった。毎回電撃を食らって俺の脳細胞は大丈夫かな? 死滅してないよな?


「ヨーイチ! 女の子の顔を傷つけるなんてだめでしょ!」


 俺はレイ先生にズボンを降ろされ、尻を出される。


「ひえ、おっお許しを!」


「ダメ!」


 パァーン! パァーン! パァーン!


 尻を何十発も叩かれた、ちょっとMな心が顔を出したのは、内緒だ。知られたら怒られるからな。


『それで貴女名前は?』


 ”柊 紗香”


 俺の御先祖様と同じ名前を書いたのだった。

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