第37話 治療
王都に戻ってきたオレは、持ち帰った成果ですぐに姫様を治療するために必要な薬の作製に取り掛かった。
ベベ草をそのまま治療に使うだけでは、魔法中毒に冒されて、傷ついている姫様の肺を治す効果は薄い。しかし、とある製法によって飲み薬へと作り変えることによりベベ草の効果を、何倍にも増幅させることが出来る。
城にある一室を借りて、薬を作るため道具の準備を始めた。医療の職業とスキル、それから賢者のスキルも最大限に活用して、治療薬を作り出す。
まずは、頭に思い浮かんでいる知識を明確にしておく。どんな道具が必要なのかを書き出して手順をハッキリさせておく。そして必要となる道具リストを、パトリシアとマリアの二人に手伝ってもらいながら城下町で揃えてきて、部屋に運び込んだ。
準備は万端。それらの道具を使って、朝から晩までずっと作業に集中して治療薬を作る。ベベ草のエキスを抽出して、蒸留させた。その蒸留させた液体を集めてから、液体にして、様々な薬を加えていく。
「やった。これで完成か」
出来上がったモノは、オレにとっては会心の出来だった。これならば姫様の体調もすぐに良くなるだろう、という自信があった。
「姫様、完成しました」
出来上がったばかりの液体状の治療薬を、姫様に持っていく。オレが彼女の部屋に到着した時には、姫様はベッドの上で横になりながらヒューヒューと、苦しそうな息をしていた。
肺が弱り切っているために、呼吸もままならない状態なのだ。何度か、応急処置もしたけれど、急場をしのぐための対処では限界だった。治療薬の完成が遅くなったら手遅れになるぐらい、姫様の具合が悪いような状況。
「これをゆっくりと、水と一緒に飲んでください」
息も絶え絶えに、ベッドの上で苦しそうにしている姫様に上体を起こしてもらう。水と一緒に飲むよう指示をしてから治療薬を渡す。姫様は、オレの指示した通りに、ちゃんとお水と一緒に薬を飲み込んだ。
そしてまた、ベッドの上に横になってもらった。薬を飲んだ姫様から目を離さずに、しっかりと経過観察を続ける。
「んっ」
オレが作った薬は即効性のあるモノだったので、姫様は真っ青にしていた顔色に、健康的な赤色が戻ってきていた。呼吸も落ち着いてきている。
「具合はどうですか?」
症状がだいぶ落ち着いてきたのを見て、オレは姫様から体の調子を聞いてみた。
「お薬のおかげで、大分楽になりました。ありがとうございます」
べべ草を使った薬は、しっかりと効果があったようだった。まだ話すのは少しだけ辛そうだったが、ちゃんと回復している。あとは、今後の調子を見守っていくことが大事になる。
毎日、部屋で薬を作ってから姫様の部屋に持って行き、治療のため飲んでもらう。それが、オレの最近の日課となっていた。
ずっと床に臥せっていた姫様は、上体も自力で起こせるようになり、その次には、ベッドから降りて1人で立ち上がれるようになった。順調に、回復していく。
最終的には自分の足で立って歩けるようになって、外にも出て散歩ができるようになるまで回復していた。姫様は、とても健康的な体に変わった。
そんな日々が過ぎ去って、薬を姫様に飲ませ始めてから30日目を過ぎた頃。
「お薬をどうぞ」
「ありがとうございます。ユウ様」
今ではすっかり回復していて、受け答えもちゃんと出来るようになった。不自然な呼吸音もなく、肺が正常な状態に戻ったということが分かる。姫様は、いつもと同じように薬を受け取り、それを飲み込む。
特に大きな問題も起こらず、姫様の治療の日々は過ぎ去っていった。姫様も、薬を飲む手つきが慣れるくらいには、日数が経っている。
「もう、大丈夫でしょう。完治です」
視診のスキルを駆使して、姫様の健康状態が完全に良くなっている、ということが分かった。その事を伝えると、姫様は嬉しそうに微笑んだ。
「まぁ、本当ですか!」
本当に嬉しそうに、だが、口に手を当てて上品な動作で喜んでいる。しかし、次の瞬間には表情を暗くする。
「これで、ユウ様とはお別れですか?」
「あー、えっと。いや、まだ経過観察が必要でしょう。完治したからといって、姫様の病気が再発する可能性はゼロではないので」
厄介なことに、魔法中毒というのは肺への影響以外にも、体の器官全てに何らかの影響をおよぼす危険がある。
姫様の肺は治ったが、胃や肝臓などの他の部分に不調が生じる可能性もあるので、観察を続けなければいけない。けれどまぁ、肺が弱っていた頃に他の器官は弱ってはいなかったようなので、その可能性は殆ど無いと思われる。
だが、念のためも1週間ほどは観察を続ける必要があると、医師の職業の知識からそう考える。そのようなことを、姫様に伝えると逆に嬉しそうな顔をしていた。
「そうですか、お別れでは無いのですね」
「えぇ。お別れは、まだまだ先です」
姫様は、オレとの別れを避けようとしている。その事実を知って、嬉しく思った。多少は好意を持ってくれている、ということだろうか。
治療の最中に交わす会話で、オレはさらに姫様に惹かれるようになっていた。
オレも、彼女と別れるのは惜しい。
それからオレは、女王にも暇様が完治したという報告をしに向かった。
「本当にありがとう、ユウ殿。あなたが居なければ本当に、娘の命は助からなかったでしょう」
医師たちは、姫様の症状の手がかりすら掴めなかった。そんな状況の中で、オレが現れ、姫様の症状の原因を発見して、治療薬も用意した。女王から感謝される。
「褒美をつかわそう。何か、求めることはあるか?」
姫様を助け出したお礼に、褒美を貰えるらしい。褒美を求めてやったことではないが、素直に受け取っておくことにした。
「それじゃあ、城にある図書室をこれからも使ってよろしいですか?」
「何だ、そんなことでいいのか? それなら自由に使って良いぞ」
オレはまだ、帰還するための方法を諦めたわけではなかった。当初、勇者について調べる旅をしていた事を思い出し、その勇者の手がかりになる事、特に帰還に関する情報を求めて、城にある資料を当たる。
そのために、今回の褒美で城の図書室を自由に出入りできる権利を貰った。姫様の経過観察と平行して、城の図書室では元の世界へ帰還するための情報を集める。
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