満腹マッドサイエンティストはガリガリホムンクルスを満足させたい!〜錬金術の食事を美味いと言わせたいだけのスローライフ〜
櫛田こころ
0.錬成での料理は不味い?
とある国の、とある奥地に居を構えているとある屋敷内。
その屋敷の主である俺様は、ただ一人しか生活してないが、この屋敷には俺様しか扱えない、錬金術の粋を集めた設備がある!
俺様は、少し裾がすり切れた白衣のポケットに両手を入れながら、鼻歌を歌いつつ地下室への階段を降りた。
一歩、一歩降りていく度に鼻にいい匂いが漂ってくるのがわかる。
そして、唯一ある扉を開け放てば。緑の光る液体を包むガラスの巨大な管が、二つ鎮座して俺様の前にあった。
「うむ。今日も美しいぞ!」
台座の前には、幾つもの魔導装置が置かれて。
その中心には、俺様が近づく度に淡い光沢を放つ二つの大きなガラスの管。
世間の錬金術は、調合、合成、錬成など手作業でとり行うことが多いとされてるが。俺様はそんなまどろっこしい事は飛び越えて、この装置を何年もかけて作り上げたのだ!
そして、この装置は……ある意味
その訳は、俺が装置の真正面に立ってから、中央部にはめ込んである
【TEST
TEST
右の培養管に料理名『チキンライス』を作成
左の培養管に個体名『ホムンクルスエルフ』を85%まで作成完了
続けますか?
YES/NO?】
そこから淡白な声が室内に響き渡るが、俺様の答えは常に決まっている!
「ふははは! 無論、YESに決まっている! チキンライスは抽出してホムンクルスは引き続き作成だ!」
右側の管にある『チキンライス』は完璧なまでに作成完了状態で、いつでも取り出し可能であった。
対する、左のホムンクルスエルフの方だが。
手足の作成はほとんど終わり、後は頭部と毛髪の部分のみか。
痩せ細っているが、胸部はきちんと整っているし、エルフを参考にしているから顔立ちも及第点になるはず。
それはさておき、管の中にあった完成された料理を手にすべく、管のガラスの前に手を差し伸べた。
「完成された俺様の料理よ、俺様の手に降りろ!」
錬金術で料理とは陳腐なモノだと世間ではささやかれるかもしれないが。
調合、錬成に必要な薬物の下準備と同様に、微量な匙加減で味の優劣が決まってしまうのが同じ。
ポーションの作成や、武器強化などの合成……それらにも魔力の込め具合によって出来の善し悪しが変わってくる。
が、俺様の場合、天才的が故に、その技術も可能とするが、特にギルドなどに所属してるわけもなし、日々の糧があれば十分なために。
行き着いた結果、空腹は判断能力を著しく鈍らせてしまうからと、俺様は擬似意思を持つ魔導具を生み出して、自分ではなく魔導具に料理を作らせてみた。
結果、泡のような膜に包まれた『チキンライス』のように、温かな料理まで生成する事を可能とした。
艶やかな赤色の米。
細かく刻まれた色とりどりの野菜達。
肉厚な鶏肉。
それらが、均一に米に混ざり合って美しい。
皿に盛られたそれを、俺様は手に取って白衣からスプーンを取り出してまずひと口。
程よい塩気と甘いケチャップの味わいが口の中に広がっていく!
「うむ! 昼飯もいい出来だ!」
管の中の液体は、魔力の源でもあるエーテルの結晶体に等しい。
その中に、一定の材料を放り込んで、あとは俺様特製の魔導具に錬成の操作を任せるだけで出来るというシンプルな仕組みだが。
序盤はともかく、三ヶ月経った今では毎回成功している。微調整もしたお陰かもしれないが、それはそれだ。
とにかく、旨くて旨くてスプーンを進める手が止まらないでいるが。
その食事途中に、魔導具『
【TEST
TEST
左の培養管に個体名『ホムンクルスエルフ』を100%まで作成完了
続けますか?
YES/NO?】
どうやら、15%の部分を右のエーテルを補填して作成完了に成功したようだ。
食べかけのチキンライスをシャインの台座の部分に置いてから上を見れば。
……それはそれは、ホムンクルスとはいえ美しい少女が液体の中でぷかぷかと浮いていた。
「うむ。素晴らしい出来だな!」
折れそうに細いが、華奢ながらも美しい手足。
髪は液体の中にいるせいで光沢はわからないが、白か緑かの腰まで長いストレートヘア。
女性と言うよりは、少女の体型だがホムンクルスなのでそこは気にしない。
顔立ちは、目を伏せていて瞳の色はわからないが醜悪などころか、本物のエルフと違わぬ美しさ。
昔、街で冒険者達を見た時にいたのを色々参考にしてはみたが。
予想以上の出来だ、俺様のこれからの助手兼同居人は。
「ふはははは! YESと言いたいが、服の作成がまだだな。白の布を入れて適当に作れ。俺様も流石に気恥ずかしさを覚えるからな?」
【諾】
そうして、左の管に布の束を押し当てれば溶け込むように中に入っていき。
服が生成されるのを見ながら、俺様は残ってるチキンライスを食べずに待った。
せっかくだから、これに食わせてみたいからな!
料理の錬成はどの品でも最低三十分以上はかかるからだ。
【TEST
TEST
衣服の作成完了
ホムンクルスへの着衣完了
ホムンクルスを取り出しますか?
YES/NO?】
出来上がった服は、神殿の制服のように胸部を強調するものとなってしまったがまあいいだろう。
こちらの作成に関しては、まだまだ試験中なので致し方ない。
なので、俺様はシャインに告げた。
「ホムンクルスを抽出する。個体名は……『セリカ』だ!」
【諾。抽出開始。個体名、『セリカ』の名称を登録完了】
「来い、セリカ!」
俺様が手を伸ばせば、虚に瞳を開いたセリカが俺様の方に手を伸ばしてくる。
そして、管から少しずつ身体が通り抜けてきて、俺様の手に触れると一気に飛び出してきた。
「ようこそ、クローム=アルケイディスの研究所へ」
「…………」
受け止めたが、セリカはまだ意識が混濁しているのか俺様の顔を見ても首を傾げるだけだった。
焦ることはないので少し待ってみると、徐々にだがエーテル培養液によく似た
「……ます、たー?」
「そうだ。俺様がお前を生み出した
「…………醜い」
「な!」
生みの親に対して、なんて無礼な奴だ!
性格の
しかし、生み出したホムンクルスの破棄は暴走以外で禁じられているのが界隈の掟。
仕方ないが、ここは説教するしかない。
「たしかに俺様は世間には醜い部類に入るかもしれないが、親に対して開口一番に言うのは何事だ!」
「……だって。すっごい太ってる」
「う」
「匂いも変なのがする……」
「う」
「それを、醜悪だと思う……」
「んん!」
たしかに、俺様はひと昔は美形の部類には入っていたのだが。
この屋敷を購入してシャインを作り出してから、たった三ヶ月で。
見るも無様な代物にはなってしまった……。自分でも言うのはなんだが、哀しくなってきた。
「……あれ、何?」
俺様が自己嫌悪に陥っていると、セリカはシャインの上に置いたままのチキンライスの皿に指を向けた。
「……ああ。俺様の食事だ。少し残っているが、お前興味があるのか?」
「……うん。お腹、空いた」
「全部食べていい。それと感想を聞かせてくれ」
俺様の体型については、これ以上触れて欲しくないので興味の方向を変えさせてやると。
躊躇いもなく、食べかけのチキンライスをスプーンで口にしたセリカは、整った眉間に皺を作った。
「……薄い。不味い」
「な、なんだと!」
「粒はちょうどいいけど、味が変」
「そ、そんな馬鹿な!」
貴族ではないが、下町の美味を一通り食してきたはずの俺様の錬成料理が。
不味いわけがない、と喚いてもセリカは首を横に振った。
「エーテルで料理をする段階が、まだ整っていないだけだと思う。私がちゃんと作る」
「……は?」
「そして、マスターの身体を痩せさせる」
「は、はあ?」
「私に組み込まれた、あなたが召喚した異世界のレシピで作ってあげる」
「なに!」
俺様は、とんでもないホムンクルスを造り出してしまったかもしれん!
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