第21話 うーん!
それからの大学生活は以前と変わらない。変わった事は、私の左手の薬指に、角度によっては、キラリと輝く愛の印が備わっている事です。気が付かれる事は無かったが、お昼の学食でいつもの様に佳菜子と並んで昼食を摂っていると、
「わぁ、彩夏、そ、それ何?」
右手に持っている物にすり替えて「普通のマイ箸だけど」と惚けると、
「箸じゃ無くて、その、ひ・だ・り・て」
「えへへ、貰ったんだよ」
「えっ誰から」
「こういうのって、普通は婚約者からに決まっているじゃん」
すると佳菜子は、どういう人なのかとか、会わせろとか、尋問が続いた。
結局そのうち会わせると言う事でその場は終わった。
その時の佳菜子の声が大きかったので、気が付くといつもの遠巻きの男子達の視線から解放された様に感じた。
三日後に佳菜子が家に来た。優留は事務所で仕事中だったので、カウンターで佳菜子を優留に紹介した。優留は営業言葉で接してくれた。佳菜子の顔を横から伺うと、マイダーリンの印象は、まあまあかなと思った。そして、二人で家に入った。
そこで、根掘り葉掘り聞き出された。『佳菜子ならいいかな』と思って話せる事は話した。話し終わると、佳菜子は少し涙ぐんでいた。優留を佳菜子の標的にしたく無かったけど、一応義理で夕食へ誘った。すると佳菜子は喜んだあと少し考えてスマホを取り出して彼女の母に時間と場所を告げて迎えを頼んでいた。遅くなると、帰りの汽車が無くなるからである。それから、二人で楽しく(?)夕食を作った。加奈子は料理を作る事よりも、最新式のキッチンの機能に興味を示していた。
我が家の恐怖の三人夕食会、優留はやはり加奈子の標的にされていた。しかし私への愛情を言葉にして優しく立ち向かっていた。私は嬉しくなっていた。
帰り際に佳菜子が言った言葉は、食事を頂いた事なのか、それとも二人の愛に対してなのか良くわからないけど、「ごちそうさまでした」と言って迎えの車へ乗り込んだ。
* * * *
その年のお盆にお姉ちゃんが帰省した。卓も一緒だった。
――何の話できたのかな――
三日ぶりの真夏日の午前でした。皆で宅配ピザを食べてから、お母さんも合流して北島家と小野寺家の墓参りに行った。お墓参りは人が多いほど悲しみが一緒に連いて来ない。去年の今頃、小野寺家の墓の前では、お母さんと私の二人だけでしんみりしていた記憶がある。今年は、お邪魔虫までもれなく付いてきている。
卓とお姉ちゃんは優留に話があると言うので、夕食の準備を省いて、夜も宅配寿司になった。
私も一緒に聞くように優留から言われて、2対2になって構えた。
先に卓が口を開いた。
「私は来春に社会人になります、就職先も内定を貰っています。」
「それを節目として史絵さんと結婚したいと思っています」
「史絵さんが、まだ学生なのは承知していますが、許して頂きたいのです」
「色々事情が有って……」
「出来れば、式は来年のゴールデンウイークに挙げたいと思っています」
その後も彼は喋った。要約すると、
就職先の新入社員研修が4月末迄、東京の本社を基点として他所でも有るそうだ。G/W明けから配属される部署は、札幌支店を希望しているが、どうも先輩の話等から、希望通りになる事は難しいみたいだ。いきなり海外赴任も前例も数人いるそうだ。いずれにしても、研修期間中に決まるそうだ。
それで、遠距離恋愛を選ぶか、結婚して一緒に暮らすか、最悪内定を辞退するか、彼は彼なりに悩んだらしい。そして二人で出した結論が、結婚して一緒に暮らす事だったとの事でした。
次にお姉ちゃんが口を開いた。
「私は、大学を続ける意味について考えたの」
「大学生活は楽しいけど、特にこれと言って決まった目標もないし」
「仮に、あと二年大学へ行ってから就職をしたら、来年から卓とはずっと、すれ違いの生活になると思うの、たまには会えるけど」
「愛があれば、とか歌の歌詞では言うけど、そうなった時の自信があるか無いかは、今は分からない」
「だから、中退か休学かどちらかを選ぼうと思う」
私の優留は
「うーん…………」と言った後
「………………」
「………………」暫く経ってから
「結婚は認めるよ それに対して反対はしない」
「卓君もその会社に入社希望ならそれでいいと思う」
「それと………………」
「史絵に聞きたいのだけど」
「大学生活の中でやりたい事とか本当に見つからなかったのか?」
「このまま大学にいれば、来年は就活だけど、興味の有る職業は本当に無いのか?」
「後から後悔するように成ったら、卓君に失礼だよ」
「大げさだけど、無理をして自分を犠牲にするのだったら、もう少し学生を続けて真剣に就職と結婚の事をよく考えてみたらどうかな」
お姉ちゃんは、
「分かったわ、もう少し真剣に考えてみるわ」
「考えるのは、大学と就職の事だけですけど」
「結婚は、超確定だから」
めでたい話なのに、空気が少し重いのは気のせいかな?
その後、いつもの姉妹のふれあいが無かったのは初めての様な気がする。
翌日二人は札幌へ帰って行った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます