本に魅せられて

K・Sメッセ

突然すぎる、姉との別れ

突然すぎる、姉との別れ

『不思議の国のアリス』が出版してから50年後。とある国の貧しい農家に、2人目の女の子が生まれた。名前はアリス。


 アリスは両親と姉に囲まれ、アリス7歳、姉のアリサは14歳。姉妹の仲は良く、アリスはいつもアリサの後をくっついていた。

 アリサは、活発な女の子。アリスは、アリサとは対照的で引っ込み思案で泣き虫な女の子。自分1人でなにも決められない、アリサの言うことだけを聞く女の子。村の男の子に、「泣き虫アリス」と言われ、からかわれていた。


 ある日。

 隣町の大金持のお屋敷に仕える者が、アリスの家に来た。母親がアリサを呼んでいる。

「アリサ、ちょっと話があるから来てちょうだい」

 屋根裏部屋にいたアリサは、母親の所に行くと。この村では見たことがない服を着た男が立っていた。

「お母さん、何か用事?」

「アリサ、急で申し訳ないけど、隣町のお屋敷にお手伝いとして行ってもらいたいの!?」

「お手伝い!? どういうこと?」


 母親の話しによると。このお手伝いは、隣町のお屋敷に住んでいるお嬢様が、体が弱く病気がちで、家から外出もできず。しかも、父親の仕事の都合で、やむを得ず両親とも1年間、外国へ行くことになり。一緒に行くことができない。

 そこで、家政婦に留守を頼むのだが、お嬢様が嫌がり。急遽、お嬢様の話し相手と身の回りの世話人を探していた。そんな時、隣町のお屋敷の主と面識があったこの村の長老が、妹の面倒見がいいアリサならと紹介をした。お嬢様の条件は、同い年の女の子で本が好きで、友達になってくれることだった。


 母親は悩んだ。アリサの父親は病気がちで、去年のからの不作つづきのこともあり、父親は出稼ぎに行くことができない。そんな中、生活が苦しい状況。そんな時、高い給料で1年間辛抱すれば、ここ5年間は食べていけるだけの額をだすという。

 母親としては、アリサを行かせたくない。しかし、病気がちの父親のことを考えると。

「お願い、アリサ。1年間の辛抱だから、お屋敷に行ってもらえないかね」


 その時、部屋の奥から泣き声が聞こえ。どうやら、アリスが今の話を立ち聞きしていた。

「お母さん。お姉ちゃんいなくなるの? どっかにいちゃうの? 私いやだからね。私を置いていかないでよ……」

 その場に泣き崩れたアリス。

 アリサはアリスに寄り添い。

「アリス、泣かないで、本当は私も行きたくないの」

「だったら行かないで、お姉ちゃん」

「……お姉ちゃん、本が好きなこと知っているよね!?」

「うん、知ってる」

「ここには本が3冊しかないから、友達のとこから本を借りて、読んだりしているけど、お屋敷に行けばたくさんの本が読めるし。お姉ちゃんの夢なの。お願い、1年間は会えないけど、絶対に帰って来るから、1年間我慢してくれない? お願いアリス!」

「だったらアリスも一緒に行く!」

「一緒にはいけないの、お仕事だからダメなの、だからアリスはお留守番!」

「アリスも一緒に行くの!」

「ダメなの!」

 アリスは、また泣き出し。


「お姉ちゃんは、後3日したらお迎えが来るの。1年経ったら帰ってくるから、これからは、お母さんやお父さんの言うことをよく聞くのよ」

 この時、アリサにはある想いがあった。その想いを今話す時期ではない、そう思い。アリサはアリスに、その胸の内を打ち明けられなかった。


「なんで、アリスも一緒に行けないのよ!?」

 アリスは泣きながら、家を飛び出し。1人になるのはいやだと叫んだ。

 そんな中、アリスは気づいていた。いつもお姉ちゃんの後をくっつき、休む時間も無く、本が読みたいのに読めなかったこと。私のせいだ。でも、大好きなお姉ちゃんと離れたくない。これから1人になる事を考えたら、不安で、不安で、仕方がないアリス。


 確かに、今までずっと一緒だった。いきなり離れ離れになる。アリスにとっては、どれだけ長い1年間になるのか。

 もうじき、日が暮れる。辺りは、木々の葉が落ち。秋の終わりを告げようとしている。


 しばらくして、アリサがアリスを探しに来た。

 アリスはまだ泣いている。

「アリス、ごめんね」

「……お姉ちゃん、ごめんなさい。わたし、お姉ちゃんと離れたくないの……」

「ごめんね、アリス。お家に帰ろう!?」

 その声は、どこか悲しげでアリスの手を握り、その冷たい手は涙で濡れていた。

 アリスが泣くと、いつも抱きしめてくれるアリサ。しかし、今は。もうどうにもできないと悟ったアリス。

 アリサは、泣いているアリスの手を引きながら家に帰った。


 翌日から、アリスは食事もあまり取らず。屋根裏部屋の窓から外を眺め、アリサの行く隣町の方を見て涙を流し、お姉ちゃんのためなんだと、心の中で言い聞かせていたアリス。


 アリサのお屋敷に行く日が来た。

 屋根裏部屋から、アリスの泣き声が聞こえ。

「お姉ちゃん、行かないでよ」

「何言ってるの!? 1年経ったら、ちゃんと帰ってくるから、大丈夫だから」

「……本当に!? 約束だよ」

 永遠の別れではない。必死で自分を納得させているアリス。

「分かった。約束ね!」

「本当に、本当だよ。約束したからね」


 屋根裏部屋にアリスを残し、アリサは玄関に行くと、迎えの車が来ていた。

 アリスは見送りにも来ず、屋根裏部屋から降りて来ない。

 アリサは迎えの車に乗り込み。アリスはまだ屋根裏部屋にいる。母親がアリスを呼びに行き。

「アリス、お姉ちゃん行っちゃうよ!」

 アリスは屋根裏部屋から降りて来ない。

 迎えの者が懐中時計を見ている。

「時間ですね」

 迎えの者が車に乗り込み、車が動き出した。

 その時、アリスは屋根裏部屋から急ぎ降り、玄関から飛び出し。お姉ちゃんと大声で叫ぶが、アリスの声は届かず。

 アリスは車を追いかけ、村はずれの丘の上にある、大きな木の下まで来ると。既に車の影はなく。そこから、隣町の方を見て。

「お姉ちゃん。約束だからねー! アリス、待ってるからねー!」

 アリスは泣きながら大声で叫んだ。

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