第5話 皇太子だからって威張るなよ友達だろ?
皇太子ロムルス、皇位継承権1位の皇子である彼は慎重な男であった。だから、ミカエルのようなどうしようもない皇位継承権7位の皇子を呼び出し、今釘をさしているところなのだ。まさかこのミカエルに皇位の座を奪われるなどと、ロムルスは夢想している訳ではない。むしろ皇位を継ぎたいロムルスと継ぎたくなく一生遊んで暮らしたいミカエルの利害関係は一致していた。
「ミカエル、確かに絢爛豪華な帝都で遊びたいという気持ちを持つのは無理もない。でもね、帝都は危険だよ。悪いことは言わない、結婚したら田舎に越すんだ。田舎の子も素朴で可愛いよ。君には物足りないかもしれないが。」
ロムルスがなぜ、ミカエルの身を案じるのか?それはミカエルはロムルスにとって貴重な一票だからだ。ここぞという時の貴族院の皇族の一票は重く、たとえ、ミカエルのような、7位の皇位継承権者であっても一票は一票だ。
つまり、権力に興味のない異母兄弟のミカエルはロムルスにとって都合の良い存在で、しかもミカエルは御し易い。逆に、ミカエルにとっては次期皇帝の威光を得て、思う存分遊べる訳で、お互いの共闘関係は完璧であった。
「君はうまく偽装して、私の一票であることは悟られていないと思うが、念のため、身を守るためにも領地に帰ったらどうだ?君の領地の質が良くないのはわかる。スラム街だらけで貧しい地域だ。それでも、これから権力争いが始まる帝都よりはマシなはずさ。私は命を守るだけの武芸を身につけているが、君にセバスがいると言っても君は荒事は苦手だろう。な、悪いことは言わない。田舎にこもるんだ。皇位継承の投票が行われるまでの辛抱だから。」
正直な話、ミカエルは意外なことにフローラルという娘を結構気に入っていたので、田舎でハネムーンも悪くないと思っていた。都合のいい女というだけでなく、彼女はミカエルのドンピシャのタイプなのだ。フローラルがそう演じているから当たり前なのだが。
「わかったよロム兄さん、女遊びはハネムーンぐらいは我慢するさ、でも、早く決着をつけてくれよ?帝都が俺が心から落ち着ける場所なんだ。田舎は長居はしたくないな、退屈なんだよ。」
「ところで、もう婚約したのか?さすがというべきかな、ミカエル。伊達に、色男をしている訳じゃないということか。なにはともあれ、そのことに関してだけは頼もしいな。既婚者の一票の方が心象は良い。ギリギリの権力争いになった時、それがものを言わんでもないからな。実のところ、君の影での悪評は握りつぶし切るのが大変なんだ。これからは一つ、身のかたいミカエル皇子で頼むよ?ではよろしくな。」
こうしてミカエルは結婚した後、田舎でハネムーンを過ごすことを皇太子であるロムルスと約束した。そして、そのまま田舎にこもり続け、皇位継承の投票間際で帝都に戻り、投票をする。そういう約束である。皇位継承の投票はおそらく間近であろう。何しろ皇帝はすでに不在なのだから。今は貴族院が一時的に政権を担っているが、これはかりそめの状態にすぎない。有能な皇帝による専制こそが、強い国を作ると人々は信じているのだ。
誰もがついていくカリスマ性を持った皇帝、そんなものにミカエルがなれる訳などない。別にいいのだ。ミカエルは思う。僕には僕の楽しい人生が待っているさ、と。
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