39 決着! リリスの断罪イベント!

 リリスがパーティ会場へ向かう道中、同じく終業パーティーのために会場へ向かう生徒達と遭遇してしまうのは避けようのないことだった。


「見て、リリスよ。悪魔の女! 悪魔に汚された女! 前々から変だとは思っていたの!」

「よくパーティーに来れるよな。俺だったら自殺するぜ……」

「いい気味。どうせ国外追放でしょう? 今まで散々威張ってきたのだから、堕ちるところまで堕ちればいいのよ」


 悪意が聞こえてくる。それでも俯くわけにはいかない。〝未来の王妃〟の冠は、まだリリスが被っているのだから。会場前でレックスと合流する。真剣な顔つきのレックスが腕を上げる。リリスはお辞儀をして、その腕を自分の腕と絡めた。


「……いいんだな、リリス。君が嫌ならこの場で処置を宣言するのは止めてもいい」

「いいえ。宣言してください。その方がいくらか楽になります。人の噂というものは、時には残酷です。私はともかく父の威厳を悪意ある嘘で踏みにじられるのは不快ですわ。はっきり示してそれで終わりにしたいのです」

「そうか……」


 レックスは頷く。リリスは微笑んだ。


 ──私はいい婚約者を持った。罪人を尊重してくれる王太子が他にいましょうか。

 

 終業パーティーが始まる。扉が開き、エボルシオンの生徒達の視線がレックスとリリスに集中する。二人は前だけ向いて、力強く会場の中央にあるステージに上がった。レックスが音を拡大する棒状の石を手に取る。レックスの腕が、リリスから離れた。


「皆、今日はよく集まってくれたな。只今より、第一学期終業パーティーを行う。この一学期、友人を尊び、鍛錬に励み、己の成長へと繋げてみせた君達の努力を余は称えたい」


 拍手が起こる。レックスはそれから数分、終業の挨拶を述べるとリリスに視線を向けた。


「──では、最後に余からこの場を借りて皆へ宣言がある。これは国王アレスから下された決断である」


 生徒達がさらにレックスの言葉へ耳を澄ます。好奇心と悪意がリリスに注目した。


「リリス・イム・ミルファイア。今日この場をもって、君との婚約を破棄する! これが、余から君への断罪だ!」


 生徒達は一瞬沈んだ後、一気に声を漏らし始める。ざわざわと混乱する場に見せかけて、「そうだろうなとは思った」という声が多かったのは事実だろう。

 リリスは顔を真っ青にして震える。それは、レックスから婚約破棄されたからではない。それはわかりきっていたことだ。リリスが驚愕していることは──


「レックス様? どうして続きを言わないのですか?」

「続きを? どういう意味だろうな。余の宣言はこれで終わりだ」

「!?」


 悪魔騒動は婚約破棄だけで済まされない案件だ。リリスは学校退学かつ国外追放、クラムは死刑が常識的に、法律的に妥当なものだ。しかしレックスは何も言わない。リリスはレックスに縋る。


「れ、レックス様……!? そんな、どうして……っ!? 私は……っ、私は!!」

「…………」

「どういうつもりなのですか……? 私は、どんな罪でも受ける覚悟を背負ってここに立っています! どうか、どうか私に正当な断罪を!!」


 ざわざわとリリスがレックスに縋ったことにより混乱が強まっていく。きっと生徒達にはリリスが婚約破棄されそれを必死に拒否する愚かな令嬢に見えることだろう。

 レックスとリリスは生徒に注目される中、お互いにしか聞こえない会話を続ける。レックスはリリスに優しい眼差しを向けた。


「──リリス、君はもう自由になっていい」

「!」

「余は君に婚約者として何もしてやれなかった。似た苦しみを持つ君に気づけなかった。君の妖精に先日色々と叱責されてな。……本当にすまなかった」

「さ、サラマが?」

「あぁ。今まで君がどのように苦しんで、それによって悪魔に手を染めようとしたことも聞いた」

「!」

「──だが、ある一人の〝花〟に救われ、君は生まれ変わった。騒動直前、父親から悪魔召喚を持ちかけられた時、君は勇敢にも父親という壁を乗り越え、それを断ったとも聞いている。……故に、君のその英断と余からの謝罪を全部含めて、君との婚約破棄のみが余からの断罪である。君の父親はしばらくは幽閉させてもらうが、悪いようにはしない」

「レックス様……」


 リリスは必死に我慢していた涙を抑えることができなかった。レックスはそんなリリスに眉を下げ微笑み、ゆっくり頷いた。


「君はもう自由だ。余の婚約者でもなんでもない、ただの女性だ。何も背負わなくていい。一部騒ぐ貴族達もいるだろうが、そういうのは元婚約者である余と国王に任せておけ」

「あ、あ……あ……っ」


 リリスの感情が言葉を詰まらせる。舌を必死に動かしてレックスへ言葉を伝えようとするが、上手く動かなかった。レックスはそれをただただ待っていた。


「──、ありがとう、ございます……貴方の婚約者でいれたことは、私の生涯の誇りですわ、レックス殿下……っ!」

「あぁ。余もだ。君にはとても世話になった。これからは君の幸せを願わせてくれ」


 婚約者という立場だった二人が握手をする。

 するとレックスがリリスをからかうかのように無邪気な表情を浮かべた。


「──ところでリリス。サラマから聞いたのだが、君はあのサクラを好いているとな?」

「え!?!?」

「もう君の選択を邪魔する鎖はないぞ?」

「え、あ、そ、それは……」

「……実は余もな、惹かれている者がいるのだ。今日、その者にプロポーズしようと思う」

「!」


 レックスの顔に〝愛〟が滲む。リリスはその瞬間、レックスが誰のことを言っているのか察した。何故ならその者が悪魔に奪われた魂を取り戻し目を覚ました際、レックスが今まで見たことないような顔を浮かべ、聞いたことのないような声で名前を呼び、その者を力いっぱい抱きしめたのを見ていたから。


「──愛しているのですね、サクラの片割れの──レンを」

「あぁ。お互いの想い人が双子の片割れとは可笑しな話だな」

「……ふふ、そうですね」


 似た悩みを抱えて苦しみ続け、ひょっこり現れたある双子に救われたレックスとリリス。恋愛関係には発展しないものの、唯一無二の理解者であり、大切な存在であることはこれからも変わらない。

 そうして二人はぐるりと同じタイミングで、ある者達へ視線を移す。二人共に足早に歩き出し、生徒達が避けてできた道を進み、会場の隅を目指す。


 そこにいるのは──そう、少し間抜けな面をしている双子だ。


 レックスはレンの手を握り、膝をつく。

 対してリリスはサクラの左手の指に自分の指を絡めた。


「余の心はお前のものだ。余と、このエボルシオン王国第一王太子レックス・ブルー・アドラシオンと結婚してくれないか? レン」

「これで私は、自分の素直な心を貴女に伝えられます。……好きよ。貴女のプロポーズに応えます。幸せにしてくれないと許さないんだからね、サクラ」


「「──は?????」」


 双子の声が綺麗に重なる。

 会場がさらなる混乱へ導かれていく──。





***

00話のアナザーサイドということで。また違う視点で00話を楽しめるのではないでしょうか。

カクヨムコン応募条件10万字に向けてあと2万字。頑張ります。よかったらより多くの方に見てもらえるようにレビューのお星さま又はフォローを投げてくださると大変嬉しいです。そして今まで私にレビューをくれた9人の読者様、本当にありがとうございます。貴方方のおかげで、ここまで書ききることができました。

──さて、第一学期編はあと一話で完結します。そして夏休み編というちょっとした幕間のお話が始まる予定です。今日中に第一学期完結できるかなぁ。とりあえず執筆に戻ります。

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